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第33話:全裸待機だった。
ボルテの目覚めは突然だった。
この日も、フィガロはゴロゴロと喉を鳴らしながら、ボルテのそばに寄り添っていた。
『フィガロ、いいか。絶対に家族以外にこの力は使うんじゃないぞ。』
そう言われ、家族以外に秘密にしていた力がフィガロにはあった。
「・・・ルテ、早く良くなって。」
獣化したフィガロが、ボルテの胸元に乗り、喉を鳴らす。
一瞬、フィガロの周りに光の粒が煌めく。
ゴロゴロ・・・
『いいかい、フィガロ。この力は絶対に秘密にしなければならない。』
けれど、それでルテが助かるなら・・・。
ゴロゴロ
ゴロゴロ・・・
獣化したままのフィガロを、魔獣の子だと思っても大事に世話をしてくれたボルテに、フィガロはすっかりと絆されていた。
イースで兄弟と一緒に過ごしていた時よりも充実した食事に、ふかふかの寝床。
何よりも、ボルテは獣化したままのフィガロを大事に愛してくれていた。
それは、「フィーガ」として兎まい亭でフィガロが働いている時も感じていた。
ナミや、ラビの経験が、フィーガを大事にしてくれたのは勿論だったが、ボルテが今まで、国境警備隊としての仕事を真面目に行い、周りに愛されているから、自分にも良くしてくれているんだと、フィガロは感じていた。
『フィー』と名を付け、ボルテが大事にしている相手だから周りも大事にしてくれる。
だから、フィガロも自分にできる事なら役に立ちたかった。
それに、ラビが言っていた、中央からの医者がくるまでに、ボルテには目覚めて欲しかった。
イースでも、中央の話は聞いたことがあった。
四大陸ごとに呼び方は多少変わるが、大陸の中央部にある政治機関を総称して「中央」ととぶ事が多かった。イースで、「中央」といえば大体の事は優遇される様な立場だった。
そんな所から、医者を呼ぶほどの怪我なんだとフィガロは怖くなった。
こんな事なら、あの日言葉を交わせば良かった。
グリズが呼びにきた日の朝。
ルテがフィーにご飯を用意した日。
もし、このままルテが目を覚まさなかったら・・・僕は、ずっと後悔しちゃいそうだよ。
お願い、早く目を覚まして。
僕と一緒に、ご飯を食べようよ・・・。
フィガロの金色の瞳から、ぽたりと涙が溢れる。
それから、数日して中央から医者が派遣されてきたが、フィガロはラビへメモを残しベットの下に隠れることにしたのだった。
「おーい、フィーガ? ん・・・、メモ?」
「・・・どうかされましたか?」
「・・・あー、いや。ボルテはこっちで寝かしてあるんで。」
ラビはメモをズボンにしまい。連れてきた医者をボルテの寝室に案内した。
メモには、ボルテの世話の内容と様子が書かれていた。
ボルテを診た医者が、不思議な顔をする。
その様子に、ラビが質問をした。
「・・・ボルテのやつ、何か変なんですか?」
「変といえば、変かもなぁ。彼、食事もできてないんだよね?」
「え・・あ、はい。目覚めないので・・・。えーっと、水分を水差しであげてるくらいです。」
「だよねぇ。まぁ、腕の傷も塞がってきているから、この塗り薬を塗ってあげて。あと、こっちの薬は水差しに溶かして飲ませてあげればいい。」
「・・・はぁ。わかりました。」
「・・・ところで、彼の世話は・・。」
「あ、ああ。私が、時間がある時に・・・。それが、何か?」
医者の質問の意図がわからず、ラビは一瞬怪訝そうな顔になるが医者がそれ以上何も聞かずに薬を置いて待たせていた馬車に乗って帰って行ったのだった。
部屋に、残されたラビの後ろから、フィガロが顔を出した。
「ラビさん、ありがとうございます。」
「っ・・!? フィーガか、いや・・・別に、これぐらい構わないが・・・。」
「すいません。僕・・・あまり中央にはいい思い出がないので・・・。」
「そうか・・・。」
フィガロの現れた方をラビが確認していたことに、気が付かずフィガロはボルテのそばに寄り添っていた。
「ああ、そうだ。これが薬らしいから・・・ボルテに飲ませてやって。」
「はい。あ、あの、ラビさん。僕に料理教えてもらえませんか?」
「・・・料理だぁ?」
「はい。ルテが目が覚めた時に、体に良いものを食べさせてあげたくて・・・。」
「・・・そうだな。明日、レシピ持ってる。」
それから数日。
ボルテはいきなり目を覚ましたのだった。
レシピを何種類か教えてもらったフィガロは、寝る前、起きた後、昼頃と日に3回。
違う料理を作った。
その日は、料理をした後、ボルテのそばでフィガロは獣化して寄り添っていたのだが、
気が少し緩んだのか、いつの間にか獣化が解け、全裸の状態でボルテの腕の中で寝てしまっていた。すりすりと、ボルテの頬に頭を擦りつけ、ぺろっと寝ぼけながらフィガロが舐めると、閉じていたはずのボルテの目が開いた。
「・・・フィー?」
「えっつ?! うわっつ!!!!」
「・・あ、あれ? 今・・・」
「うにゃん?」
咄嗟に、獣化してフィガロはボルテの目の前に顔を出し、小首を傾げた。
や、やっば・・・。流石に、初対面?で全裸は無い!!
あーけど、ルテが、帰ってきた〜!!!
思わず、ペロペロとボルテの顔を舐めるが、しっかりとボルテに抱き留められる。
その温もりに、スリスリと頭をこすりつけた。
しばらく腕の中で、ゴロゴロと喉を鳴らしていフィガロだったが、ボルテの腹の音を聞いて台所まで、ボルテを案内する。
「うにゃん。」
ご飯作っておいて良かった。
ルテに食べて貰る〜。
そう思って、振り返ると少しやつれたボルテが目に入る。
壁に手をついて歩いているが、足がもつれたのかよろけた瞬間、ボルテに駆け寄ろうとしたのを止められる。
「うなぁ・・・。」
「大丈夫だよ。っと、凄い。ご飯がある。」
「うにゃ。」
「ああ、一緒に食べようか」
「うにゃっ!!」
もとより、ボルテと一緒に食事をしようと思っていたフィガロは、ボルテの席の前に自分の分も毎回用意をしていた。
今度こそ、獣化を解いてご飯を・・・
そう思っていたのに。
コンコンと扉をノックする音に、一目散にボルテの寝室へとフィガロは走っていてしまった。
あぁ・・・こんなはずじゃなかったのに。
ボルテの匂いがついた寝具に潜りながら、フィガロは台所の様子を伺うことにしたのだった。
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