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第34話:中央執務室
ノーザの気候に合わせて、城内の廊下には毛足の長い魔獣の毛皮が敷き引かれ、窓は二重にガラスが嵌り、空調は常に適温になるように整えられていた。
その中でも、最も高級で重厚感のある執務室に、ボルテを診察した医者が報告に来ていた。
「・・・呼び出す前に来るなんて、珍しいね。」
「・・・それは、嫌味ですかね。ボルク様? 私は、報告しなくてもよろしいんですよ?」
表情を一切崩す事なく、踵を返そうとした医師に、扉前に控えていた側近の方が慌てる。
「全く、きみは本当に興味がある事以外は、ツレないんだからなぁ。それで、ボルテの様子はどうだった? きみがわざわざ報告に来るぐらいだ。何か、面白い事でもあったのかい?」
「ああ。お前の甥だかなんだか、知らんが権力ゴリ押しでこの私がわざわざ治療しに行ってやったんだが・・・、私の出番はほぼ必要なかったぞ。」
「・・・なんだと?」
「全く、お前は私に寝ている甥を治療してこいって言ったのかと思ったぞ。」
「そ、そんな事はないだろう・・・。」
側近から手渡された報告書に目を通すと、診察した内容が書かれていた。
「・・・血は抜かなかったのか?」
「ああ、必要無いからな。」
「そ、それなのに、何もしなかったのか?」
「栄養剤とかは処方してきてやったぞ。」
「そ、そういうことじゃ・・・。」
「わかってるって。仮に、襲ってきた魔獣が、幻影魔獣じゃなかったとしてもだ・・・。私が、行った時にはほぼ寝ているだけの状態だった。それが、本当に幻影魔獣に襲われたのだとしたら、ありえない状態だったという事だ。」
「グリズの報告では、幻影魔獣で間違いは無いはずだが・・・。」
「それと、被害者の残された血液から、お前が睨んだ通りのものが出た。」
「・・・そうか。」
「まぁ、そろそろ目覚めてる頃だろうし、無理はさせず様子を少し見てやるといい。寝ていただけとはいえ、体力は消耗しているから当分は、基礎練習程度にするようにな。」
「あ、ああ。そうだな。そう国境警備隊に連絡入れておこう。」
「ってことで、報告はこれで終わり。ここからは・・・」
チラリと、扉の側に立ったままの側近に視線を向けると、ボルクが席を外すように指示を出し、部屋の応接セットへと移動した。
「ついでに、あれも出せよ。」
「はぁ・・。これは高いんだぞ?」
一番下の引き出しから琥珀色の液体が入ったボトルを出すと、グラスも二つ取り出す。
窓の外にできていた氷柱を折り、グラスにいれる。
「ケチケチすんなって。」
「あっ、オイ!!入れすぎだぞ!!」
なみなみと注がれた液体を、一気に半分以上煽り飲む。
「はぁ。やっぱ、高い酒は美味い。 んで? わざわざ、オレを行かせた理由はなんだ? 甥っ子のために、権力を使いたかったわけじゃないんだろ?」
グラスの氷が、ゆっくりと溶ける。
「・・・、そだと言ったら?」
「その机に残っているボトル、全部掻っ攫ってもいいんだぞ?」
チラリと執務机を見るとボルテの顔が一瞬、強張る。
(どんだけ、溜め込んでるんだか・・・。)
じっと、ボルトを見ると観念したのか、グラスに口をつけながら話始めた。
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