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第35話:おにぃちゃん。
「フィーガ! もう出てきて大丈夫なのかい?」
「あ、はい!」
「本当、大変だったねぇ・・・。ラビから聞いて、心配してたんだよ。 よかったねぇ。」
「はい・・・。ナミさんも、出産が近いのに。」
「なーに、こっちは何度も産んでるんだ。心配いらないよ。けど・・・まぁ、ここの掃除はフィーガに頼もうかね。 さっきから、ちょっとお腹が張ってる気がしてね・・・。」
「えっ!? だ、大丈夫ですか??!!!」
店の前を掃除してたナミから、箒を受け取るとキッチンに向かって声をかけた。
「ら、ラビさん!! ナミさんが、お腹が張るって・・・!!」
「フィーガ、大丈夫よ。 ってて・・・、そろそろかもしれないわねぇ。」
「おっ・・・フィーガ、もういいのか?」
「はい!いろいろありがとうござます・・・。って、ナミさんが!!」
「ら、ラビ。ちょっと私は、裏で横になってるよ。」
「だ、大丈夫か!? ふぃ、フィーガ、ちょっと店を頼んだ。」
「は、はい!!」
ラビは、ナミを抱き上げるとそのまま裏へ抱き抱えていく。
ぴょこっと、りさが耳を出してフィガロの方を伺い見ていることに気がついた。
「・・・お兄ぃちゃん・・・、もう来ないかと思った。」
ぎゅっと抱きついてきたリサを抱きしめ返す。
「パパが、ボルテお兄ちゃんが怪我したって言ってて・・・、そしたらおにぃちゃんも来なくて・・・。でも、リサには誰も何も教えてくれなくて・・・。リサ、もう・・・おねぇちゃんなのに。」
「そっか・・・。心配かけてごめんね。」
「うん。許してあげる。それに・・・あかちゃんがね、もうすぐ生まれるって教えてくれたの!!」
「うん・・・うん、えっ?!」
「ママのお腹が昨日の夜から、ぎゅーって痛いのが続いてた時に、パパにはまだかかるから言わなくてもいいってママは言ってたんだけど・・・。今日生まれるよって、赤ちゃんが教えてくれたの! だから、今日、お兄ぃちゃんが来るんだ!ってわかったんだよ!」
「そ、そうなんだ・・・!? そ、それなら付き添わなくていいの!?!!」
「んーー。お昼ご飯食べてからで、いいかな。」
「そ、そっか・・・。なら、外の掃除はしっかりできるね。」
「うん! それに、赤ちゃんがね、お兄ぃちゃんにも一緒にいて欲しいだって。」
「えっ?」
「お兄ぃちゃんに、ママの手を握ってて欲しいんだって。お兄ぃちゃん・・・、お願いしてもいい?」
「も、もちろんだよ!! リサも一緒に手を握ろうね。」
そういうと、リサの顔が少し悲しそうな表情を見せた。
「・・・リサ?」
「・・・あのね、赤ちゃんがね、沢山の血が出るからリサには見ないでほしいって言ってたの。だから、リサは一緒に入れないんだ。」
「そ、それって・・・、本当に、赤ちゃんが言ったの?」
「うん。最初は夢だと思ったんだけど、毎日毎日同じ事を赤ちゃんが言うから・・・、それに今日、赤ちゃんの言った通りにフィーガが来たから・・・。」
ポロポロと涙を流すリサに、フィガロは嘘を言っているようには見えなかった。
「・・・リサ、赤ちゃんはお昼ご飯の後で大丈夫って本当に言った?」
「・・・ううん。本当は、パパがお昼の用意する前から、ママはお腹が痛かったんだけど・・・。」
リサの言葉を聞いて、フィガロは慌てて中に入ると、ラビがキッチンで仕込みをし始めていた。
「ら、ラビさん!! 今日は、お店閉めませんか!? 赤ちゃんが、今日生まれるって・・・。」
「ん? あぁ。リサが言ったんだな。最近、ずっと同じ事を言っててな。サラも初めてのお産じゃないし・・・そんなに心配しなくてもいいって言ってるんだが・・・・。」
寸胴の中に、切った野菜を入れながら、ラビは手を止めなかった。
フィガロの裾を、リサがぎゅっと掴む。
「ラビさん・・・僕、ナミさんについててもいいですか? ナミさんに追い出されたら、戻ってくるので・・・。」
「あぁ? そうだな・・・。好きにしたらいい。リサ、お前はグリの様子を見るんだぞ。」
ラビの言葉に、フィガロよりも先にリサが嬉しそうに返事をした。
「うん!わかった!」
リサに手を引かれ、フィガロはナミが横になっている部屋へと案内された。
ノックと共に、リサと中に入るとナミが唸りながら、ベットカバーを握りしめていた。
その様子に、慌てて近寄るとバッシャと勢いよく、ナミの足元から水音がした。
「な、ナミさん!?」
「くっっつ・・・う“う“・・・ら、ラビを・・・よ、よんで・・・あぁあ!!」
「ま、ママ!!! ぱ、パパ!!!!!!!!ママが!!!」
「だ、大丈夫ですか!?!」
ナミの背中をさすりながら、水音のした足元を見るとそこには水に混じって赤黒い血液が流れていた。
「!!?」
まさか、これが・・・、リサが言ってた事?!? それなら。。。
「うぁ・・・を・・・ふぃが・・・。ああぁ・・・あっ“”・・・。」
唸りとも悲鳴ともわからない声をあげるナミの元に、リサと共にラビが、産婆を連れて入ってきた。
「な、ナミ!!大丈夫か?!」
慣れた手つきで産婆の兎獣人がナミと赤ちゃんの様子を診ると、慌てた顔でラビに言いつけた。
「こ、こりゃいかん!! ラビ!!一度、診療所に戻って爺さんと手術道具を持ってこねば!!
このままじゃ、ナミも赤ちゃんも死んでしまう!!」
「ナッ?!! ふぃ、フィーガ!!ここを頼んだ・・・!!」
「は、はい!!」
バタバタと、出ていったラビと産婆の後ろでグリを抱き抱えていたリサが、青白い顔をして立っていた。
その顔をみたフィガロの決意は固まった。
「ナ、ナミさん、リサ・・・・・これから、僕がする事は出来れば、誰にも言わないで・・・。」
そう言って、フィガロは着ていた服を脱ぎ始めた。
「な・・・?!! 何を・・・!!!?? い、いっだだっだ・・・・」
「お、お兄いちゃ・・・ん!?」
2人に隠れるように、全てを脱いだフィガロは獣化し、ナミのお腹の上に飛び乗った。
「お、お兄いちゃん!!?」
「いっつ・・・。は、はぁ・・・・。」
その衝撃に一瞬、息が詰まりそうになったナミだったが、お腹の上に乗っかったフィガロの喉がなり始めると、痛みと呼吸が治りだした。
ゴロゴロゴロ・・・
ナミさんが無事に出産できますように。
赤ちゃんが元気で産まれますように・・・。
そう願いながら、フィガロの喉が鳴る。
ゴロゴロ・・・・
すると、フィガロの周りに光の粒子が煌めく。
「! お兄ぃちゃん・・・。」
「フィーガ・・・あんた・・・。」
「・・・今見たことは、出来れば秘密にしてください。」
「「!!!!」」
獣化した姿のまま、フィガロが話すとナミもリサも驚きで、言葉を失った。
「あ、あんた・・・・獣化しても話せるのかい!?」
「え、はい。・・・あぁ・・・ナミさん、もう少ししたら強く息んで見てください。赤ちゃんが出たがってるみたいです。」
そういうと、フィガロの喉がまた鳴る。
キラキラとした光の粒が部屋中に広がったタイミングで、ナミが息んだ。
「フォォギャー。」
「な、ナミ!!!」
赤ちゃんの産声と同時に、ラビが産婆と医師の老夫婦を連れて部屋の中に入ってきた。
それと同時に、フィガロはナミの腹の上から飛び降り、部屋の隅で急いで獣化を解いたのだった。
「な、なんと!! さっきまで、臍の緒が絡みついておったのに・・・!! ら、ラビよお湯をもってこい!赤ちゃんのいれてやらんと!! 爺さんや、ナミの様子はどうじゃ!?」
「なぁーに、心配いらんよ。 気が抜けたんじゃろ。」
意識を失ったナミの脈を取りながら、産婆と医師の老夫婦はリサに笑顔をみせた。
「よかったね。おかぁさんも赤ちゃんも無事だよ。」
「うん!!」
湯おけを持って、戻ったラビは、綺麗に拭かれた赤ちゃんを見て、ラビは言葉を失ったのだった。
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