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第37話:ど、どうしよう。

し、しまった・・・。 ど、どうしよう。 ボルテの腕に抱かれたまま、フィガロは固まってしまう。 猫獣人の住みにくいイースに、住み続けて居た理由の一つに・・・ 転移者の「ラッキーキャット」の話があった。 家族以外に使うなと言われた力が、そうなんだと理解したのは両親が亡くなった時だった。 それまでは、兄妹が怪我や病気をした時、早く良くなって欲しくて側に居たら、翌日には兄弟が良くなって居たが、フィガロ自身が今度は体調を崩すことが良くあったが、その時は幼い子によくあることだと周囲は思っていた。  けれど、ある日フィガロが父の前で、転んで怪我をした時にそれは父の中で確証に変わったのだった。  「だ、大丈夫か? 擦りむけて、血が滲んでるな・・・。」 「いったぁぁ・・・。ほんとだぁ、血が出てるや。」 目の前で転んだ、フィガロの様子に父親は少しの違和感を感じ、それは次の瞬間に確証となったのだった。 「ほら、フィガロ。水で洗い流そうか・・・。」 「えー、これぐらい大丈夫だよ。すぐ治せるから。・・・ほら。」 ゴロゴロと喉を鳴らしたかと思った瞬間、フィガロの周りを光の粒子が舞い上がり傷口を塞いでいくと、フィガロがその場に蹲りケホッと毛玉を吐き出した。 「!! フィガロ、見せてみなさい!!」 「う、うん。ほら、もう無いでしょ?」 「フィガロ、いいか。絶対に家族以外にこの力は使うんじゃないぞ。父さんとの約束だ。」 「え・・・でも・・・。」 「絶対だ!いいな!!!」 「う、うん。約束する。」 そう約束したその力を、父の時も母の時も家族は使わせてくれなかった。 それは、力の反動がフィガロに返ってくる事を理解しての事だった。 そして、そんな事ができるのは「ラッキーキャット」と呼ばれる猫獣人の力なんだと父の残した手帳に、転移者の言葉の記録として残されていた。 それからは、フィガロが兄妹達に対しても力を使う事はなかった。 兄妹達もまた、フィガロに力を使わせる事はしなかった。 小さな怪我や、少しの体調不良ですら、フィガロの力を頼ることはしなくなっていた。 あの日も、あんな姿になって帰ってきたトネリとネロウはフィガロの力を頼る事もなかった。フィガロ自身もそんな2人を治す事もしなかった。 治してしまった時の代償の方が大きい事を、わかっていたから。 わかっていたけれど、フィガロはボルテに力を使ったのだった。 どうしても、ルテと一緒にいたかった。 ただ、それだけだった。 使い続けて、わかったことがあった。 ダメージが大きいほど、吐き出す毛玉が黒く大きなモノで、フィガロ自身の消耗も激しく、ボルテに最初力を使った時は毛玉を吐いて動くことができなかった程だった。 ボルテが目覚める頃には、その毛玉の量も減り、安堵から気が緩んで朝方には獣化が解けていたこともあった。ボルテが目覚めたあの日も、獣化が解けていた事に気がついていたがボルテの温かな体温が心地よくそのままフィガロは寝ていたのだった。 そのせいで、ルテが目覚めた時に服を着てなくて・・・、獣人だって言うタイミング逃したんだけど・・・。 ど、どうしよう・・・。 固まったままでいると、部屋からラビが出てきたが、目に入った光景にラビも反応ができずにいた。

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