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第48話:グリズ隊長?
ドンドンと激しい音と共に、聞き覚えのある声が響く。
「ボルテ! 起きてるか!! 緊急招集だ!!!」
その声に、頭を抱えていたフィガロも顔を上げる。
ボルテが扉を開け、呼びに来たグリズがボルテに耳打ちすると、ボルテは手早く身支度を済ませる。グリズと、扉の隙間からフィガロは目があった気がした。
その眼光に、フィガロの背が一瞬ゾワっと逆立つ。
!!
今のって・・・!?
「る・・・。」
「フィー。良い子で留守番しててくれ。」
さっと、フィガロを抱きあげると、鼻先にキスをしてボルテはグリズと共に行ってしまった。
扉が、閉まるとフィガロは、獣化を解いた。
フィガロの首には、相変わらずボルテの毛と金貨の入った革の小袋が揺れる。
フィガロは指先で、首に巻かれている毛に触れた。
さっきの、あの眼・・・。
あの眼には見覚えがある。けれど、なんでボルテの隊長が?
っと・・・、さっさと着替えなきゃ・・・。
魔石の補充された暖炉は、室内を十分に暖めていた。
「あ、グリズ隊長ちょっと先に、ラビさんの所に寄っても良いでしょうか?」
「・・・ああ。」
「ありがとうございます。 っと、隊長?」
ボルテと逆方向へ歩き始めたグリズの腕をボルテは咄嗟に、掴んでしまう。
「っと・・・すまない。ラビの元に向かうんだったな・・・。」
「え、ええ。ところで、グリズ隊長・・・、緊急招集っって・・・。」
ボルテは兎まい亭に向かいながら、グリズに緊急招集について聞こうとしたが、兎まい亭の前でラビが黒髪金眼の獣人と話している姿に、ボルテの尾が逆立つ。
「!!」
「フィー!! なんで?」
「うわっ! ぼ、ボルテか・・・どうしたんだ?!」
ラビは急に、掴み掛かってきたボルテを躱わすと、そのままボルテの背後に廻った。
「だ、だってフィーが・・・って・・・あれ? きみは・・・?」
「あ、あの・・。」
黒髪に見えた姿は、灰色の毛色に長い耳。
ふわりと花が綻ぶような笑みを浮かべた、その獣人の顔にボルテは見覚えはなかった。
「ああ、ボルテ、グリズ。外れの方から来た迷子らしい。」
「迷子・・?」
「グリズ、そうだろ?」
ラビが振り返ると、そこにいたはずのグリズの姿は無かった。
「なっ!?」
「グリズ隊長!?」
「「!!!!!」」
急な殺気に、ラビとボルテが後へ飛び間合いを取る。
「なっ!!!た、隊長!?」
「ぐ、グリズ!?」
「ボルテ、ラビ!! お前らこいつがなんなのか気が付かないのか!?」
グリズの腕が、さっきまで笑みを浮かべていた獣人の首を締め上げる。
「た・・・たすけて・・・。」
「ぐ、グリズ!!」
「た、隊長!!!?」
ぐぐぐっと締め上げられ、つま先が浮いていく。
「た、たすっ・・・グッ・・・。」
締め上げられ、唇の端に血が垂れる。
だんだんと瞳から、光が失われていく。
「た、隊長!! か、彼女が一体何を・・・?!」
「ボルテ、お前・・・、これを見てもまだ気が付かないのか?!」
「えっ?」
ゴキッツと骨の砕ける音と共に、その場に打ち捨てた獣人の姿がみるみる変化していく。
色々な姿に変化し、最後は黒く、額に四本の角の生えた魔獣へと姿が固定された。
「こ、これは・・・。」
「幻影魔獣だな。」
「「!!」」
「ボルテ、ラビ・・・お前ら、何も気が付かなかったのか。」
「・・・すまない。妻の昔の姿に似て・・・ああ、なるほど。これが、幻影魔獣の幻影か・・・。」
「・・・ボルテ、お前もこいつの姿が、別の者に見えたんじゃないのか?」
グリズの眼が、ボルテを捉えボルテはその眼光に、一瞬身が震える。
「・・・グリス隊長・・・。」
「答えろ。」
「・・・はい。私には、黒髪、金眼の獣人に・・・。」
「ほぅ。黒髪・・・金眼か・・・。」
「・・・、グリス隊長?」
「グリズ?」
グリズの口元がグニャリと歪んだ様に見えた。
その表情に、ボルテは違和感を覚えた瞬間、ボルテとラビはその場に倒れた。
「グ、グリズ・・隊長・・・?」
「・・・ここの隊も大した事ないな。」
息だえた幻影魔獣の頭を踏み砕くと、黒い煙が周囲に立罩める。
その煙が、引くと共にその場にいたはずのグリズの姿はなくなっていた。
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