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第50話:獣人。

「・・・ラビ総隊長、話を聞いても?」 「はぁ・・・シュベール、総隊長はやめろと言っただろ。」 「ですが、今更「ラビさん」と呼ぶのは恐れ多くて・・・・。」 「あ、あの・・・ラビさん、フィーガって・・・?」 ボルテはシュベールとラビの間を割る様入った。 ずっと、ボルテには引っかかっていた事だった。 「・・・ああ。ちなみに、フィーガがうちで働く事になったのは、本当に偶然だからな・・・。あー、少し待ってろ。」 そう言って、ラビはキッチンから暖かなスープをカップに入れて持ってきた。 「初めは、北の外れから来たんだと思ったんだが・・・、その、グリズがおまえの「家篭り」の相手じゃ無いかと言ったから・・・」 「え?!」 「「・・・・。」」 ボルテは思わず、グリズとシュベールの方を見た。 「それに、フィーガからおまえの匂いもしてたからな。だから、てっきり「フィー」は愛称なんだと思ってたんだが・・・。それに、お前が倒れていた間、ずっと看病していたのはフィーガだ。」 「えっ・・・!?」 ラビの言葉に、ボルテだけでなく、グリズとシュベールの表情も変わった。 「それに、噂で聞いた「フィー」の特徴と、フィーガの特徴もそんなにかわらなかったしな。」 「って・・・事は、フィーガも黒毛に金の瞳なんですか?」 「あ、ああ。そうだが・・・・、その・・ボルテお前は、フィーガの姿を見た事ないのか?」 「・・・はい。フィーはずっと魔獣の子だと思ってたんで・・・。」 「「「・・・。」」」 ボルテのその言葉に、なんとも言えない顔になりながらもラビは言葉を続けた。 「最近だが、フィーガに手紙が届いたんだが・・・、その手紙を受け取ったフィーガの様子が変だったってナミが言っててな・・・。それに・・・。」 ラビはボルテの方を見た。 「・・・ラビさん、あなたの知っている事を全部教えてもらってもいいですか? 私は、「フィー」がどんな獣人でも、手放す気はありません。」 「・・・そうか・・・。だが・・・。」 今度は、グリズとシュベールの方を、ラビは見た。 グリズはその視線の意味に、心あたりがあった。 「・・・ラビさん、お手数をお掛けしますが、私たちと一緒に中央まで同行していただいてもよろしいですか?」 「な、なんで・・・中央ですか!?」 「・・・ボルテ、お前に問う。本当に、「フィー」が何者でもお前の気は変わらないんだな?」 「え・・・あ、はい。「フィー」を手放す気はありません。」 「「「・・・・。」」」 「なら、やはり・・・この続きは、中央でしよう。すでに、フォックスとピンイ、フェイにも向かってもらっている。ラビさん・・・、ここにも私の信用できる部下達を置いていきます。同行をお願いしても?」 「・・・わかった。ナミに伝えてくる。」 軽いノックの後に、部屋の中に入るとベットの上のナミが小さな兎の姿をした我が子にミルクをあげているところだった。ベットの足元には、リサがうずくまるように寝てしまっていた。 「・・・ちょっと、グリズ達と中央へ行ってくる。」 「ああ。やっぱり、フィーガは特別な子だったんだね。」 「・・・そうみたいだな。」 「あんた、この子の為にも絶対にフィーガを守ってちょうだいね。」 プハっとミルクを飲み干した子の頬をつっつきながら、ナミがラビに笑う。 「ああ。お前とこの子の借りはちゃんと返すさ。」 ナミと腕の中の子、リサにラビはキスをし、部屋をでて行った。 その腰には、部屋の飾りと化していたかつての相棒を携えていた。 「・・・グリズ、待たせたな。」 「いえ・・・・。ラビさん・・、産まれたばかりの所申し訳ありません。」 「気にするな・・・。フィーガには借りがあるんだよ。」 「・・・借りですか。」 「ああ。それに、リサも懐いてるしな。まぁ、あいつが要らないって言ったら、うちの子にするつもりだったんだよ。」 「あげませんよ。」 「ボルテ!?」 ラビとグリズを待っていたボルテが、横から答えた。 「ラビさんでもフィーはあげません。あれは僕のです。」 「アレってなぁ・・・。フィーガはモノじゃねーんだぞ? それに、お前・・・フィーガの獣人の姿、見たことないんだろ?」 「っつ・・・。そ、そうですけど・・・。」 ボルテの耳と尾がシュンと下がる。 その表情、仕草はボルテが成獣前だと言うことを納得させたのだった。 「はぁ・・・、さっさと中央へ急ぐぞ・・・。」 「・・・はい。」 グリズの様子に、ラビ、シュベールは何も言わずに後をついて行ったのだった。 「なんだと!!! ボルテが、中央にだと!?」 「は、はい。先ほど、国境警備隊の馬車がボルク様の元に到着したと連絡がありまして・・・。」 「あいつは、どこまでもワシの邪魔をするつもりか!!」 「だ。旦那様!! まだ、ボルテ様がボルク様の後継になったわけでは・・・」 「黙れ!! 出なければ、ワシの元にこんな封書が届くわけがないだろう!」 「そ、それは!!」 バサバサっと音を立てて散らばった書類には、ボルテが幻影魔獣の毒から目覚めた時の事が書かれていた。そこには、一匹の猫の存在があり、その猫獣人のおかげでボルテは次期頭首となる事が約束されたと書かれた封書は、ボルテの父の元にいつの間にか届いたものだった。 「猫獣人なんて・・・穢らわしいものに頼りおって!!」 ノーザに暮らす獣人ではあるが、ボルテの父は統治者であるボルクの様には成れず、獣種差別主義者であった。転移者が認めない猫獣人など、家畜魔獣以下の認識でしか無かった。 そんな家畜以下の存在の力を借りてまで、自分の邪魔をしようとする息子に対して、一切の愛情もボルクの父は湧く事は無かった。 むしろこんな報告書が届いたことにより、ボルクの存在を疎ましいとすら思っていた。 「旦那様!!」 執事が、慌てて声をかけたが、その声もボルテの父には届かなかった。 「おやおや・・・随分と、猫獣人がお嫌いなようで。」 「だ、誰だ!! 」 「ああ、これは勝手に失礼いたしました。その報告書、気に入って頂けましたか?」 勝手に現れた男に、激しく怒鳴りつけたが男は怯む様子もなく部屋の中へと入ってくる。 「!! 貴様!! こんなもの、なんのつもりだ!! 私を馬鹿にしているのか!!」 「・・・とんでもない、私はただあなたのお手伝いができればと思って来ただけですよ。」 「手伝いだと?」 「ええ。」 「・・・何が目的だ?」 「おや、話が早い方ですね。」 「・・・その格好、私も馬鹿じゃないんでね・・・。どうぞ、お掛けください。あなたの話を、お聞きしましょうか・・・」 その言葉に、口元がニヤリと上がった。 「・・・旦那様よろしかったのですか? ボルテ様は、奥様に一番・・・。」 窓から、男の姿が見えなくなるのを眺めていたボルテの父に、執事はすっかりと冷めたカップを下げながら問う。 「だからだよ。あんな、女に似たせいで! この高貴な狼の血が、犬如きに染るなんて・・!」 「・・・・。」 「ああ、お前ももう下がっていいぞ。その書類も捨てておけ。」 「かしこまりました。」 両腕に書類を抱え、執事は部屋を後にするとその書類を焼却処分しに屋敷の裏手へと向かった。 屋敷裏へと続く道で、屋敷裏から来た新顔の駒遣いの狐獣人と執事がぶつかる。 「うわっ」 「おっと・・・こら、ちゃんと前を見なさいといつも言っているでしょう。」 「あ、はい!申し訳ありません。 あ、僕が代わりに捨てに行きますよ!」 「・・・そうですか・・・。では、こちらの焼却処分を、お願いします。」 「かしこまりました。」 新人ながらにも、色々と気遣いが上手いこの獣人に、執事は手にしていた書類を全て渡し屋敷の中へと戻っていった。

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