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第54話:執着2

ボルテの家に着くと、ボルテは異変に気がついた。 「フィー!!」 扉を開けると、倒された椅子がそのまま残され部屋の中は、暖炉の魔石が燃えていたおかげで暖かかった。ボルテは、部屋の奥へとフィガロを探しに行くが、家に気配が無い事に気づいていた。 「オイ!ボルテ!!!これ!」 扉の影に落ちていた革の小袋をピンイが見つける。 小袋を開けると、中から数種類のコインと、短い黒の毛束が入っていた。 ピンイから受け取ったボルテは、その毛束の匂いを嗅いだ。 「! これ、フィーの毛だ。」 「多分、これはフィガロの兄妹が渡した金だな。」 金貨、銀貨をピンイは指さす。 「こっちの銅貨は、兎まい亭でフィーガとして働いた分だろうな・・・。」 ラビに聞いた日数と渡していた銅貨の枚数がそのまま小袋に入っていた。 コインを全て小袋に戻すと、ボルテに手渡す。 その小袋の中に、ボルテはフィーの毛束を入れ、そのまま隊服の内ポケットへ仕舞い込んだ。 「・・・ピンイさん・・・、フィー・・フィガロを狙っている相手って・・・誰なんですか?」 「・・・教えても良いが、お子様犬にゃ太刀打ちできねぇ相手だぜ。」 「・・・・それでも、教えてください。」 真剣な顔付きのボルテに、ピンイも頷きその相手を話し始めた。 「フィガロを着け狙っているのは、イース大陸警備隊第一隊隊長だよ。見た目は転移者と似たような人間の様だが、第一隊隊長は蛇獣人なんだよ。」 「・・・蛇ですか。」 「ああ、このノーザにゃ、滅多にいない獣種だが、イースや他の大陸だと中央でも何人かいるんだよ・・・。」 「・・・権力って、まさか?」 「ああ。第一隊長は中央に顔が利くんだよ。」 「・・・・。」 中央と聞いて、ボルテの顔が険しくなる。 「オイ。いつまでもここにいても仕方ないだろ。フィガロを探しに行かなくて良いのか?」 建物の外周を見てきたフェイが、ピンイとボルテに声をかける。 「外に、騎乗魔獣の足跡があった。おそらくだが・・・、あの館に連れてかれたんじゃないか?」 「・・・だろうな。」 フェイの推測に、ピンイの顔が曇る。 「ああ、もう!! あんたの知っている事を全部教えろ!!」 ボルテの顔が険しくなり、ボルテの体から覇気を感じる。 「!!」 その気に当てられ、ピンイの背筋がゾクリと逆立つ。 こ、こいつ! この覇気! ゴクリとピンイは気がつくと唾を飲み込んでいた。 「ノーザの外れで、幻影魔獣が生成されてる可能性がある・・・。」 ピンイが話した内容は、ボルテには衝撃だった。 各大陸で、猫獣人の誘拐、失踪事件の裏にこの幻影魔獣生成が関係し。その生成場が、このノーザの北の外れにある館の地下施設。 そして、獣化できる猫獣人の中には「ラッキーキャット」と呼ばれる特殊能力を持つ猫獣人がいると。魔獣と掛け合わせることでさらにその特殊能力が強化された獣人が生まれる。 その為に、年間何十人者の猫獣人が被害に遭っていた。 稀に、ノーザで迷い獣人が現れるのは、その施設から逃げ出せた者だった。 森を駆けながらボルテは、怒りに目の前が赤く染まっていた。 転移者の報告書を読み、猫獣人に対しての差別を知り、その裏で、幻影魔獣の生成。「ラッキーキャット」に対する無理強い。全てはフィガロが獣化を解けないで居た理由だと思うと、ボルテは言い様の無い怒りが湧き上がっていた。 ボルテの後ろをピンイとフェイが騎乗魔獣に乗り追うが、どんどんと引き離されていく。 「あ、あいつバケモンか!?」 後ろ姿を辛うじて捉えながら、追いつつフェイは狼煙に火をつける。 「フェイ!! 先に行く!!」 「ああ! 無茶するなよ!!」 ピンイは、ドンドンと先に進んでいくボルテに追いつく為、フェイを置いて騎乗魔獣に鞭を入れた。北の外れに位置する館は、ある特殊植物で囲まれてた。 魔獣を引き寄せる香りの植物。猫獣人が嫌う植物。どちらも、ノーザでは自生しない植物だった。それらを隠すように、植えられた香りの強い草木が、ピンイの乗っている騎乗魔獣を酩酊状態にしていく。 「クソっ。こっから先は、走るか・・・。」 騎乗魔獣を近くの木に停め、ピンイはボルテの後を追う。 ボルテが走り抜けて行った所の植物が踏まれ、植物が倒れている。 獣道となった所を、鼻にバンダナを巻いたピンイも走り抜ける。 ボルテは、走りながら周囲も観察していた。 草木の中、所どこに白骨化したものが見えた。その向こうからボルテへ向けられる視線にも気がついてはいたが、屋根の見えていた館へと走っていく。 微かに、感じるフィガロの匂いを嗅ぎ分けて最短ルートで、館へと向かう。

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