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第55話:囚われのフィガロ。
シャラッ・・・。
身を捩ったフィガロの耳に、金属の揺れる音が聞こえる。
「んぅ・・・。」
ゆっくりと目を開けると、ボヤけた視界がだんだんとクリアになっていく。
・・・ここは?
体を起こし、周囲を見回すと窓際に飾られたサンキャッチャーが、シャラシャラと風に揺られながら部屋の中に太陽の光を反射させていた。
ガチャ
「だ、誰!?」
「・・・。」
「!!!」
料理の乗ったワゴンを、フィガロと同じ顔をした獣人が運んできた。
こ、この顔・・・。僕の顔だよな?
思わず、ジロジロと見てしまうが、その視線を気にする事なく食事をベットサイドの机にセッティングしていく。
「あ、あの! ここは・・・」
フィガロが声をかけるも、その獣人は一切フィガロに視線を向ける事もなく、入ってきたときと同じようにワゴンを押し、部屋を出て行った。
ゆっくりとベットから降りると、フィガロの左足首には足枷が嵌められていた。
「!」
足枷についている鎖をたぐると、部屋の隅に設置されていた金具につながっていた。
その鎖は、部屋の中を自由に動けるほどの長さがあった。
ペタペタと自分の体を触ると、手触りの良い服を着せられていた。
くぅぅぅ・・・。
小さく鳴った腹に、思わず手をあて食事の置かれた机を見る。
鼻腔をくすぐる香りに、足枷の鎖を気にしながらも机に近寄る。
・・・食べても大丈夫かな?
スープに焼きたてのパン。丁度いい焼き目の付いた肉。彩に添えられた果実。
そのどれもが、フィガロの食欲を誘った。
クンクンと匂いを嗅いだ。
「・・・、変な匂いはしてないよな・・・。」
スープをひと匙掬い、口をつけた。
「・・・美味しい。」
そこからは、夢中だった。
気がついたときには、全て平らげた後だった。
「追加を持ってこようかい?」
「!!」
するりと後から顔を撫でられら、手にしていたスプーンを落とし、咄嗟に横へとずれ椅子から転げ落ちる。撫でられた頬に手を充てながら、撫でた相手を見上げた。
フィガロをジッと見下ろす黄色の眼は、獲物を品定めしている様に冷たい光を放っていた。
その左目には、縦一文字の傷がその男の冷酷な顔をより際立たせていた。
「どうした、逃げないのか?」
「・・・。」
じりじりと後ろに下がるフィガロを、ゆっくりと追い詰める。
カシャカシャと、左足の鎖を鳴らしながら、ズリズリと後退していくと、トンっと背中が壁に打つかった。
「あっ!」
「さて、行き止まりだな?」
「・・・、僕をどうするつもりですか。」
フィガロは初めて男と視線を合わせた。
フィガロの金の瞳に、自分の姿を見た男の薄い唇の端が上がる。
男の足元にある、鎖をつま先で弄ぶ。チャカチャカと音を鳴らすと、小さな振動がフィガロの左足に伝わる。その振動に、自分の自由が制限されていた事を思い出し、フィガロの顔から血の気が引いていく。カシャン・・。
「ああ、その顔・・・。いいねぇ。君を泣かせたくなるなぁ。」
「・・・。」
「まぁ、いい。もう一度、聞こう。」
「・・な、何を・・・?」
「さぁ、選ぶといい。」
スッと男の顔が近づく。思わず、顎を引くとフィガロの後頭部が壁にぶつかる。
「おかわりは必要かい?」
「・・・。」
キュルルとフィガロの腹が小さく鳴く。
その音が聞こえた男の口元がニヤリと上がる。
思わず羞恥から、フィガロの顔が赤くなる。
「・・・、興醒めだな。」
男は、チリリリンと、机の上にあったベルを鳴らした。少しすると、同じ様にワゴンに食事を乗せたフィガロの顔をした獣人が入ってくる。
さっきと同じ様に、机の上にセッティングしていく。
空の皿を乗せ、ワゴンを押し部屋を出ていこうとしたところにフィガロが声をかけたが、視線を向ける事なく部屋を出て行った。
「・・・これは礼だ。」
「・・・礼?」
「ああ、君の顔の礼さ。」
「そ・・それって!!」
そう言って、男も部屋を出ていった。
な、なんだったんだ? 今、礼って言った?
顔の礼? 何それ・・・。顔って、僕の顔の事だよな・・・。
壁にかけられていた鏡に、フィガロの姿が映る。
そのこには、普段から見慣れた姿の自分が変わらずいた。
・・・、特に僕に変わった事はないよな?
イースから出るときにつけていた革の小袋は無いが、フィガロの首に変わらず銀の三つ編みに編まれたボルテの髪が結ばれていた。その結び目にそっと触れた。
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