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第56話:使用人
焚かれた香により、うっすらと靄のかかる部屋の中、グチュグチュと泡立つ水音に混じり、肉打つ音が響く。寝台の横には、何度となく果てては、滾り。外から見てもわかる程に、胎を膨らまされた者が、その場に倒れ込む。
「なんだ、もうおしまいか。・・・まぁいい。次を連れてこい。」
その言葉に、寝台の奥の扉から黒髪の獣人が口輪をつけられ獣の様に這いつくばって入ってきた。首には、首輪がつけられていた。
「ああ、その格好もよく似合うな。」
首輪の金具に鎖をつけ、部屋の中央に足先がつく程度に吊るしあげる。
「!!」
吊し上げられ苦しさにもがく黒髪の獣人の片足を持ち上げると、男はそのまま自分の固く反り上がった陰茎を串刺した。
その衝撃に、暴れ裂けた部分から、赤い体液が流れ出る。
ガシャンガッシャと吊るされた鎖が音を立てる中、男は気にする事なく吊し上げた獣人の身体を蹂躙していく。何色とも言えない水溜りが出来る頃、男は満足したのかその部屋を出ていった。
吊るされたまま放置された獣人が、降ろされても眼を開ける事はなかった。
「・・・またか。」
黒いシートに包まれた塊を見て思わず顔を顰めたのは、屋敷に仕える使用人達だった。
「ああ。今日は、3体だ。」
「一体、旦那様はどうしちまったんだろうな・・・。」
「さぁな・・・。それもこれも、あの方がここに来てからだよな・・・。」
「オイ、迂闊な事は言うなよ。お前も、これと同じ様にはなりたくないだろ!?」
「・・・、ああそうだな。」
屋敷の裏に掘られた穴へ、3体の黒い布に包まれたものが投げ捨てられ、火が放たれる。
パチパチと音をたて黒い煙を上げながら、勢いよく燃え上がる。
「しっかし、この匂い・・・」
立ち込めた煙に鼻を押さえながら、近くに生えていた草をむしると口の中に入れた。
匂いを誤魔化すためなのか、屋敷の周辺には色々な草木が植えられる様になった。
それと共に、定期的に運ばれる様になった黒い布に包まれた物。
一度、布からはみ出た一部を見てしまった使用人がいたが、気がついた頃にはその使用人の姿は見なくなってしまった。
昔から勤めていた使用人達も今は、自分以外にキッチンとメイドに数名残る位で、ほぼ入れ替わってしまった。
「・・・旦那様は一体どうしちまったんだろうな。」
何度ともなく、口をついて出てしまう言葉に、仕事覚えのいい新人に苦い顔をされる。
「ああ、すまん。お前にまで迷惑がかかってしまうよな。」
「・・・いえ。・・・そんなに旦那様は変わられたんですか?」
轟々と燃え上がる炎を眺めながら、新人のその言葉にその使用人はつい話てしまった。
この屋敷で禁句となっていた後継者について。
「・・・君は、ウエスから来たんだっけか?」
「・・・はい。」
「まぁ、どの大陸でも同じだろうが・・・、このノーザは昔から狼獣人が統治者として、この地を治めているんだよ。代々、統治者の血筋から狼の本質の強い方がね。そんな中で、原種に近付けようと近親婚を繰り返す系統もいたりとね・・・。」
「それって今は、禁止されてますよね?」
「ああ、だから近しい種族を意図的に混ぜるんだよ。今のノーザの統治者ボルク様も4分の1は大型犬種族の血筋だけど・・、彼は兄よりも狼としての資質が強くでたんだ。そして、ボルク様のところには、残念な事に統治者として求められる資質の子はいなくてね・・・。」
「それなら、養子を迎えればいいのでは?」
「・・・それは、旦那様が許さないだろうね。その為に、過去に何度か狼の資質に似た方がいる奥様をボルク様から奪う様に娶られたのだからね。けど、残念な事に御三方とも、旦那様の理想とする資質を持ってこられなくてね・・・。」
「・・・御三方?」
「旦那様にはもう1人、ご子息がいらっしゃるんだよ。」
「・・・へぇ。」
「だけど、その方は奥様の血を強く受け継いでしまわれてね・・・。」
「・・・なるほど。」
「最初は、旦那様にそっくりな姿で御生まれになられて、旦那様もそれはもう大変お喜びになられたのですがね・・・。それでも、まだ奥様がご健在だった頃は、子としては関心を持たれてる様だったのですが・・・。最近は・・・。」
ガサガサと茂みを掻き分け、現れた男に使用人達の顔が一瞬こわばる。
「おや、おしゃべりをしている暇があるのかい?」
「これはこれは・・・、第一隊隊長殿。こんな屋敷の裏手に如何なされましたか?」
「ああ、時間よりも少し早く着いたものでね。少し庭の散策をさせて頂いたんだが・・・。ここの使用人は随分と囀る事が上手な様だな。」
青白く光を湛えた瞳が、使用人を見たが、怯む事なく老齢の使用人は新人の背をやんわりと押し出した。
「おや、そうでございましたか? さぁさぁ、こちらはゴミ処理の場でございますので・・・、どうぞ屋敷の中でお待ちください。ほら、応接室へとご案内しなさい。私は、火の始末をしてから向かいますので・・・。」
ぺこりとお辞儀をし、新人に案内をさせその姿を見送った。
・・・本当に、旦那様はなんであんな男を屋敷に入れてしまったんでしょう。
パチパチっと燻っている穴の中を、横目に見る。
黒い布に包まれていた物は、炭状になっていたがその形は包まれていた物を連想させるような形に残っていた。それを、細かく砕く事までが使用人達の仕事だった。
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