57 / 77

第57話:オリジナル

「さて・・・と、どうしようかな・・。」 左足の鎖をシャラシャラと鳴らしながら、フィガロは部屋の中をうろうろとしていた。 サンキャッチャーのつけられた窓は、指二本分程度しか開かず。そのから入り込んでくる風の温度に、この場所がどこなのか判断がつかなかったのだ。窓の外は、壁で覆われ景色を見る事はできなかった。鎖ギリギリで届く事の無い扉は、鍵はついていなかった。 フィガロに着せられた服は、ノーザだったら外に出た瞬間に凍える様な薄手の物だという事に、さすがにフィガロも気がついてはいた。簡易的なトイレに、手洗い場。中央に配置されたベットに、さっきまで食事をしていたテーブル。それ以外は、姿見に窓。 フィガロは、もう一度首に結ばれているボルテの毛を触ると、獣化した。 カシャン 左足につけられていた足枷は黒猫となったフィガロには意味をなさず、その場に落ちる。 もう一度、獣化を解き扉を少し開け、外の様子を覗き見る。 ヒヤリとした空気に、裸になってしまったフィガロの身が震えた。 ・・・行くしか無いよな。 再度、獣化すると音をたてずに、広く寒い通路をトコトコと進む。 微かに香る、外の匂いをたどり進んでいく。 何度目かわからない階段を降りていく。 一段一段が大きく高い階段は、フィガロには重労働だったが獣化を解くよりも猫の姿でいる事をフィガロは選んだ。 外の匂いが強くなってきた頃、階段近くから足音が聞こえ思わず、フィガロは近くにあった排気口へと入り込んだ。 うわっ!! 勢いよく入り込んだせいで、排気口を転がり落ちる。 ゴロゴロと転がり落ちると、一気冷たい空気と共に、鼻につく臭いにフィガロはその場に嘔吐してしまう。 な、何・・・この臭い。うっつ・・うげっ・・・。 うっ・・・。 ひとしきり胃の中の物を出し、周囲を見渡すとそこには檻の中で寒さに固まり暖をとっている獣人たちがいた。 その獣人達が、猫の姿のフィガロを見た。 その瞬間、フィガロの息が止まる気がした。 ヒッ!!な、何これ・・・。 四方に置かれた檻には、数人の獣人が入れられていたが、その獣人全てが同じ顔をしていた。 それも、さっき姿見で見たフィガロと同じ顔だった。 ただ、個体差なのか・・、よく見ると金色の瞳は、薄い黄色だったり。黒髪ではなく、濃い藍色だったりと、檻によって差があった。 「な、何これ・・・。まさか・・・。礼って・・・・」 空になったはずの胃から、迫り上がる物をフィガロは耐えきれす吐き出した。 それを、じっと見る檻の中のフィガロに似たような獣人達。 少しすると、檻の中が騒がしくなる。 遅れて、館自体が騒がしくなりフィガロは咄嗟に檻の中へと身を隠した。 「おい!!ここにもいないぞ!!!」 「そう遠くにはいけないはずだ!! 探せ!! オイ、お前らはオリジナルに近いモノだけ運べ!!! 残りは、置いていけ!!!」 オリジナル? 騒ぎ聞こえた声に、フィガロは自分が隠れた檻の中を見上げる。 そこには、薄い黄色の瞳や、光の加減で斑らに濃さの違う黒髪。肌の色が、褐色のフィガロに似た獣人達がいた。 ガガガガと、大きな音と共に一つの檻が動き出す。 その振動に、中の獣人達は一つに固まったままうずくまる。 ど、どうしよう・・・。あっちに行ったほうがいいのか?!あああああああ!!もう!  動き出した檻に向かって、ぴょんぴょんと黒猫のまま檻と檻を渡っていく。 動き出した檻に辿り着いて、フィガロの呼吸は止まりそうになる。 金色の瞳に、黒い髪。頭上にあるのは、三角の黒い耳。性器までもが、フィガロ自身の記憶にある色や形にそっくりだった。 な、何これ・・・。 き、気持ち悪い・・・。 そう思いつつ、檻の動きが止まった瞬間、フィガロは紛れるように獣化を解いた。 「さっさと運ぶぞ!!」 檻全体を隠すように、布がかけられ外側から木枠が嵌められる。 8頭立ての騎乗魔獣の荷台にカモフラージュしたそれを、荒々しい声をあげていた獣人が動かした。パシっつと空を切るように鞭が入れられ、騎乗魔獣が嘶き動き始める。 「オイ!!そこの!!止まれ!!!!」「逃すか!!」「フィー!!どこだ!!!!フィー!!」「止まれ!」「うるせー!!!」「クソが!」「おとなしくするんだ!」 さまざまな怒号の響く中、フィガロはの耳にボルテの声が聞こえた気がした。 ルテ!!!! ルテの声!!  布をかけられ、木枠を嵌められた檻の中でどんなに外に向かってフィガロが叩いたところで、騒音にかき消されてしまった。

ともだちにシェアしよう!