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第59話:ボルテ父
「・・・い、今のは!」
呆然としている、ピンイとフェイにグリズがニヤリと笑いながら未だ燃え盛る館の方へと向かっていった。
「さっさと追わないと、引き離されるぞ!! ・・・うちの副隊長を頼んだ!」
「「!」」
グリズの言う通り、獣化したボルテは残されていた、騎乗魔獣の匂いを追いその背中を捉えた。
ガウッ!!!
「ウオ!!!」
先頭を走る、騎乗魔獣の首に噛みつく。
その痛みに、暴れのたうち回るがボルテは喰らいついて離れず、そのまま騎乗魔獣を振り回す。
「なっ!!なんだ、てめーは!!!」
騎乗魔獣を操っていた獣人は、咄嗟に手綱を引いたがバランスを崩しそのまま地面へと倒れる。
腰につけていた、鞭を取りボルテに向かって、振り回すが暴れ狂う騎乗魔獣のせいで、近ずく事ができない。
ブンブンと振り回され、息絶えた騎乗魔獣をそのまま放り投げる。
手綱がついたままだった他の騎乗魔獣達も、その衝撃に混乱に陥り散り散りになって森を走り抜けていた。
「ガルルル・・・。」
「なんだ!この・・・クソ犬が・・・。」
鞭を構えた獣人を、冷酷な光を放つオッドアイが睨みつける。
その眼光に恐れを覚え、鞭を振り上げた瞬間
グルルルル、ガウゥ!!!!
一斉に、飛び出してきた犬型魔獣に、鞭を持った手や、足。喉元に喰らい付かれる。
「ナッ・・・!!! うわぁあぁぁぁあぁ・・・。た、助け・・・て・・・くれ・・・。」
「ガウッ!!!」
自分勝手に命乞いをする獣人を、同じ獣人だとボルテは思えなかった。
あの地下で、ボルテが見たのは檻の中で死んでいたモノ達だった。
碌な抵抗もできずに、檻の外から危害を加えられたモノ。
ところどころに鞭の様な傷跡のあったモノ・・・。
中には、言い様のない傷があったモノも、あの地下には、置かれていた。
鼻を引くつかせ周囲の匂いを嗅ぐ。
血生臭さの中に、ふわりと微かに香る匂いを頼りに、たどり着いた場所にボルテの獣化が解ける。
幼い頃の記憶と目の前の光景に、ボルテは言葉が出なかった。
母の好きだった庭は、いつの間にか薄暗く荒れ果てていた。
グルル
愕然とするボルテの横で、付き添ってきていた犬型魔獣がすり寄る。
無意識に、ボルテ魔獣の頭をひと撫ですると、庭から続いた室内へと入っていく。
犬型魔獣はその姿を見送ると、茂みの奥へと身を翻す。
迷う事なく、その屋敷の主人の元へとボルテは足を進めていく。
屋敷全体に漂う香の匂いに、ボルテの顔が顰められていく。
・・・この匂い。
腕で、鼻を塞ぎながらたどり着いた主人の部屋に入ると、籠りきった空気に息が一瞬詰まる。
扉に背を向け、椅子に座っていたまま動かないその獣人の姿は、ボルテに良く似ていた。
ボルテが、声をかけると、その音に反応するかの様に顔を上げ、一方的に喚き上げた。
「・・・父さん・・・。」
「なんだ、ボルテじゃないか!お前、猫獣人を囲っているそうだな!!!!良くやった!!!これで、私が次代の統治者になれるぞ!!!!!!!!!!私が、この私が!!!」
「・・・父さん。」
「よこせ!!猫獣人を、寄越すんだ!!!!!!!!!!ボルテ!!!!!!ガッ・・・!」
ボルテに飛びかかってこようとした父を思わず手刀を喰らわし、その場に眠らせる。
政務机の上に、吸いかけの葉巻と香を炊いた痕跡を見つけ、その量の多さに、ボルテの眉が顰められる。焚かれたままになっていた香と、葉巻の火を消し、ボルテは窓を開ける。
外の冷たい空気と共に、スッキリと晴れていく思考に、ボルテ自身も香の影響を受けていたのだと実感する。
はぁ・・・。
外の空気を深く吸い込み、地下へと続く部屋の鍵を引き出しから取り出す。
この家の主人だけがもつその鍵の存在は、昔、ボルテの母が、ボルテにだけ教えてくれた事だった。その時は、ボルテの身を案じた母が避難場所になればと子の身を思っての事だった。
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