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第61話:初めまして?

少しずつ意識が覚醒していくのが解った。 ピクピクと耳が、周りの音を拾う。 ううぅ・・・ん。なんか、騒がしいなぁ・・・・。 煩ささから掛かっていた掛布を引き上げようとして、フィガロの手が止まる。 あれ・・・? 僕・・・、獣化してたはずじゃ・・・??  パチッ と、目を開けると、そこは見慣れない豪華な部屋だった。 えっ???? 飛び起きると、フィガロが3人寝ても余裕のある寝台は、ふかふかでサラリとした掛布は、手触りが良く、上質な物だと馴染みの無いフィガロでも理解出来た。 ・・・ルテの所じゃない? キョロキョロと部屋の中を、寝台の上から見渡す限り、ここが裕福な事は感じとれた。 その事に、フィガロは最後に意識があった時の事を思い出す。 ま、まさか・・・ここって・・・。 ドクドクと自分の鼓動の音が大きくなる。 それに比例するように、部屋の外で聞こえていた音が、扉の前まで近づいてきていた。 ど、どうしよう・・・ボク・・・。 バンっ!!! 「!!」 ポンッ 「えっ!?」 扉が勢いよく開けられたタイミングで、フィガロは獣化した。 それも、部屋に入ってきたボルテの前で。 「!! フィー!! 目が覚めたんだね!!!!」 「何!」「オイ!ボルテ!!待て!!」「コラっ!!静かに!!」 ベットの上のフィガロへ突進しそうなボルテの襟首に手を引っ掛け、グリズがそれを阻止する。 「ちょ!! 隊長!首、絞まって・・・」 「なら、大人しくしろ!」 「そうですよ!ボルテ・・・ほら、フィー君もネロウさんもびっくりしてますよ。」 ボルテ、グリズの後ろから、シュベールと共にフィガロの兄、ネロウが立っていた。 「・・・フィガロ!!」 ネロウが寝台の上で獣化したフィガロを見て、駆け寄った。 「「!!!!!!」」 「ネロウ兄さん!!」 「フィガロ!!」 そのままフィガロを抱き上げたネロウに、ボルテが思わず威嚇してしまう。 グルルル!! 「フィーから手を離せ!!」 「あ、こら!!ボルテ!!」 ネロウに飛び掛かろうとしたボルテをグリズが取り押さえる。 「・・・ネロウ兄さん。なんでここに?」 「ああ、知り合いが、ノーザにお前が居るって教えて貰ってな・・・。」 「・・・知り合い?」 ネロウが扉の方を向くと、ピンイとフェイが立っていた。 「それでだ・・・フィガロ。」 「・・・そ、その前にボク、獣化解きたいんだけど・・・。」 「そ、そうだな・・・。」 そう言うとネロウは、そっと寝台の上にフィガロを降ろした。 扉の外で、グリズ、シュベールはネロウを威嚇しそうなボルテを取りさえていた。 しばらくして、内側からフィガロが扉を開けた。 「あ、あの・・・中にどうぞ。」 「!! フィー!」 「コラッ!!ボルテ!!!」  「フィガロ!!」 「ちょ!! 中に入って!!」 フィガロに飛び掛かってきそうになったボルテとネロウに待ったをかけた。 「ふふっ。元気そうで安心したよ。」 「ボルク様!また、勝手に!!」 ボルテ達の後ろから、従者を連れ現れた獣人にフィガロは覚えが無かった。 「ああ、君がフィー・・・フィガロ君だね。 私も、中で話をさせて貰ってもいいかな? あー、身体が冷えてるじゃないか・・・。寝台で横に成りながら、話そうか。」 「えっ・・・あ、はい。」 流れる様に、フィガロの手を取るとボルクは、寝台へとフィガロをエスコートしていく。 気が付くと、寝台に入った状態で、ボルク、ネロウ、グリズにフィガロの寝台は囲まれた。 カチャカチャと、従者がお茶の用意をすると、ボルクが話始めた。 「まず、何から話そうか・・・。って、ボルテ・・・。彼が困ってるから、離れなさい。」 「・・・・。」 「嫌だ。」 寝台の上で、フィガロの背後からボルテは腕にしっかりと抱きかかえて顔をフィガロの首筋に埋めたままだった。スンスンと匂いを嗅ぎながら、ボルテの腕がしっかりとフィガロの事を抱えた。 お腹の前で、クロスされたボルテの腕にフィガロの手が重なった。 その手の暖かさに、ボルテの身体がビクッと反応した。 「・・・あの、すいません。 ルテと二人にさせて貰えますか?」 フィガロの言葉に、ボルテの腕の力が少し強くなる。 その様子に、ボルクが苦笑しつつも、了承した。 「フィガロ・・・。」 「ネロウ兄さんも。」 「・・・。解った、部屋の外にいるから、何かあったら大声だせよ!」 パタン 「・・・何かって・・・。ルテ・・・、ねぇ、ボルテ。」 「・・・。」 「ねぇ、ボルテ? ちょっと、ボルテ・・・?」 ウゥーーーーーーーーーー。 「!? ぼ、ボルテ・・・?」 唸り声を上げたボルテに、フィガロが慌てて後ろを振り向こうとするが、さらに強い力で抱き抱えられる。ポンポンと、ボルテの手を叩くと、唸り声はおさまった。 「・・・ルテだよ。フィー。」 首元で、ボソボソッとボルテが話すのがくすぐったくて、身を少し捩ろうとするとボルテの腕の力が強くなった。 「・・・ルテ、苦しい! もう!」 ポンッ! 抱きしめられてた腕からスルリと獣化したフィガロはすり抜け、前のめりになったボルテの頭に、たすっと前足を乗せた。 「もう! ルテ! ボク、家猫獣人なの!」 「・・・・・・。」 「さっき出て行ったのは、一番上の兄さんでネロウって言うんだ。」 「・・・・・・うん。フィーが、寝てる間にそう教えられた。」 「そっか・・・。ねぇ、ルテ。ボク、獣化解いても良い?」 「!!」 頭に乗せられていた重さが無くなり、ボルテが顔を上げた。 目の前には、金色の瞳をした黒猫がこてっと首を傾げなら、ボルテの事をジッと見ていた。 「ボクの獣人の姿は、嫌?」 フィガロのその言葉に、ボルテの耳がペショっと倒れる。 上げていた顔も、下がってしまったボルテに、フィガロがすり寄る。 「・・・ルテ?」 「・・・フィーが、本当はフィガロって言う事も、あのネロウって奴に聞いた。」 「うん。そう、ボク、フィガロって言うんだ。」 「・・・フィー・・・フィガロって呼んだ方が・・・」 「・・・え? あー、別にどっちでもいいよ。」 うずくまったままのボルテの横に、ピッタリとフィガロが寄り添い丸くなる。 ぺしょりとしたままのボルテの耳に、鼻先を近づけながらフィガロを匂いを嗅ぎながら、特に気にすること無く答えていた。 「それに、ラビさん達にはボク、フィーガって名のちゃったしね・・・。」 「・・・・。」 スンスンと匂いを嗅がれ、ボルテの耳がくすぐったそうにピクピクと動く。 いつものボルテの匂いに、少し悲しい匂いが混じっているのを感じ、フィガロは不思議に思う。 何が、ボルテは悲しいのかな? ペロペロと、ボルテの耳を毛づくろいし始めたフィガロの喉がゴロゴロと鳴り始める。 「もう、フィーってルテは呼びたくない?」 「!! そ、そんな事ない!!」 「なら、フィーってルテは呼べばいいじゃん?」 勢いよく顔を上げたボルテに、金色の瞳が笑った。 「やっと、顔上げた。」 「フィー・・・、僕に本当の姿を見せてほしい。」 「・・・うん。あー、それ・・・離して、ちょっとアッチ向いてて。」 ボルテが頭を下げていた所に、さっきまでフィガロが着ていた服がそのまま抜け殻の様にあった。 言われた通りに、ボルテが動いたのを確認しフィガロは獣化を解いた。

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