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第62話:初めまして!
ごそごそと衣擦れの音にさっきまでペッショッとしていたボルテの耳がソワソワと立ち動く。
トントンとボルテの肩を叩くと、ボルテが勢いよく振り向いた。
「わぁ! ・・・えっと・・・、はじめまして?でいいのかな?」
ボルテの勢いにびっくりしつつも、フィガロは笑顔でボルテの前に立っていた。
黒く艶やかな髪に三角の黒い耳。金色の瞳に、色白の肌は、少し栄養が足りなくなっているのか青白さも感じさせていた。ピンク色の唇は、少しかさついてしまっていたが、チラチラとのぞくピンクの舌から、ボルテは目が離せなくなっていた。
視線をそらした先に見えたのは、フィガロの生足だった。
意識が無かった時に、従者が着せた前開きの服は、手触りは良かったが、フィガロの膝位の丈の物だった。
慌てて、視線を上げた先にあったのは、フィガロの細首に巻かれた銀色の紐状の物だった。
「・・・それ・・・。」
「・・・ん、ああ・・・・。」
ボルテが指さした先に、フィガロの手が触れた。
「・・・フィー。」
気が付くと、フィガロはボルテの腕の中に抱き込まれていた。
「えっ? る、ルテ?」
「・・・・フィーはやっぱり・・・サウザに行くの?」
「えっ・・・。」
そう言われて、ボルテの匂いに混ざる悲しみにフィガロは気が付いたところで、扉の向う側が騒がしくなった。
「フィガロ!!大丈夫か!!フィガロ!!」
「ちょっ、お兄さん!!もう少し・・・」
どんどんどんどんと扉を叩く音に、ボルテもフィガロも会話を続ける気に成れず、ボルテの腕がフィガロから離れた。
「・・・フィーは寝台に戻って。身体冷えちゃってるから。」
「・・・あ・・うん。」
ボルテが扉を開けに行くと、ネロウがフィガロの傍に駆け寄る。
その後ろを、ボルク達も一緒に入ってくる。
グリズが、ボルテの背中をポンと叩くのが見えたが、今度はボルテはフィガロの傍に駆け寄る事は無かった。
「・・・さて、二人とも、もう話を進めても大丈夫かな?」
ゆったりとした口調で、場を仕切り始めたボルクの話の内容に、フィガロは頭を抱えた。
「まずは、フィガロ君。私個人として・・・、お礼を言わせてほしい。」
「・・・え、お礼ですか?」
「ああ、ここにいるボルテは私の甥でね・・・。幻影魔獣にやられたと聞いた時は、さすがに・・・。それが、こうしてここにいるのは、君のおかげだ。」
「そ、そんな!!」
「それに、ノーザの統治者としてもお礼を言わせてもらいたい。」
「えっ?」
ノーザの統治者?
それって、北の大陸の一番・・・偉い・・・。ん? ボルテが甥???
「今回の件で、ボルテが完全獣化する事が出来る様になったんだ。」
「えっ?」
フィガロは、思わずボルテの方を見ると、ボルテのオッドアイと視線がぶつかった。
「君の獣種は、完全獣化することが自在に出来る様が・・・、実は歴代の大陸の統治者達も完全獣化を自在に出来る者が多いんだよ。」
「そ、それじゃ・・・・ボルク・・様も?」
「あー、私も出来なくは無いと思うけど・・・昔一回なった位なんだ・・・。
それでも、一族の中で私が、獣性が強く出たから、こうしてこの大陸を統治させて貰ってるんだけど・・・。」
チラッとグリズの傍にいるボルテに視線を向けるが、ボルテの視線はフィガロにしか向いていなかった。
(・・・本当、狼の獣性がここまで強く目覚めるとはな・・・。兄さんも、馬鹿な事をした・・・いや、そのおかげで目覚めたのなら・・・それもまた・・・。)
ボルクはふぅと一息つき、言葉をつづけた。
「今回の件で、ボルテは次代の統治者に内定した。」
「!?」
「よって、フィガロ君。キミには、ノーザ統治者として褒美を給えようと思うのだが、何か希望はあるかい? ノーザに、家屋敷でも構わないし、金貨でも良い。それに、もしキミの力を使わせてくれるのなら、君たち家族もこの私が責任を持って最後まで面倒を見ても構わない。」
「なっ、なんだと!!!!!!」
ボルクの言葉に、黙って聞いていたネロウが反応した。
「オレらは、フィガロの力を利用して暮らす気なんか更々無い!!」
「・・・ネロウ兄さん。」
「・・・だろうね。キミのその傷・・・、きっとフィガロ君なら治せるんじゃないかな?」
「ああ!!だけど、そんな事オレは望んでない!!そんな事をして、フィガロが危険な目に遭う方がよっぽど嫌だね!!」
「・・・麗しい兄弟愛だね。でも、どうだろう? フィガロ君は、キミのその目を見て・・・何も感じないのかな?」
ボルクの言葉に、フィガロの顔が一瞬強張る。
その表情に、ネロウも言葉を詰まらせる。
「ふ、フィガロ・・・お前・・・。」
「・・・。」
ボルクの言葉は、フィガロの気持ちの核心をついていたのだった。
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