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第63話:フィー、フィーガ、フィガロ。

兄妹達と初めて離れて暮らした土地で、フィガロは色々な事を経験した。 ボルテに世話をされる事になったのは、予想外の出来事だったがそれが有ったから、兄妹と離れた事を寂しいと嘆く事は無かった。 兔まい亭で働き始めた時も、皆がボルテが「フィー」を大事にしているから、「フィーガ」を大事にしてくれた事も肌で感じていた。イースでは感じる事の無かった他者からの好意をノーザでは普通に感じる事が出来た。 幻影魔獣にボルテが倒れた時は、自分にこの力があって良かったとさえ思った。それに、ナミを助ける為に、この力を使った事も後悔は無かった。 だからこそ、ネロウやトネリの怪我を思い出す度に、胸が痛んだ。 家族だから助けたい。家族だから守りたい。その気持ちは、フィガロにも痛い程理解は出来ていた。 けれど、ネロウが言ってくれた様に、フィガロも家族を傷つけてまで自分を守りたいとは思えなかった。 「それと、今回フィガロ君を救出した事で、サウザとウエスの統治者達からも褒美を出したいと親書が届いているしね。ある程度の事は叶えてあげれると思うよ。」 ボルクがサラリといった事を、フィガロは流す事は出来なかった。 「・・・サウザと、ウエスからもですか? あ、あの・・・。」 言いかけて、ネロウの方をちらりとフィガロは見た。 その視線の意味に、ボルクは気が付き、笑みを深める。 その後ろで、ビシバシと感じる視線にボルクは肩を眇めた。 「まぁ、私からは以上だ。要望が纏まったら、ここにいるグリズにでも伝えてくれ。」 そう残して、ボルクは従者と共に部屋を出て行った。 「さてと・・、ネロウ!オレ等も、先に宿に戻るわ。」 「ああ。オレはフィガロと少し話がある。」 ピンイとフェイがその言葉に頷くと、部屋から出て行った。 「・・・ボルテ、私たちも戻りますよ。」 「・・・。」 シュベールが、そう切り出すがフィガロを見たままボルテは動かない。 「はぁ・・・。ボルテ、ここは家族で話あって貰った方が良い。医者の許可が出ない限り、ここから出る事はないから安心しろ。」 「・・・わかりました。」 グリズが溜息交じりに言った言葉にしぶしぶとボルテが頷き、踵を返す。 シュベールとグリズの後を付いて出ようとした所を、フィガロは思わず引き留めてしまった。 「あ・・・ルテ、待って。」 寝台から、ピョンと獣化してボルテの足元へとフィガロが駆け寄る。 「・・・ふ、フィー?」 足元をカリカリと前足でかくと、ボルテが屈んでフィガロを抱き上げる。 抱き上げられて、近くなったボルテの頬に鼻先をチョンと付け、おでこを擦りつける。 「・・・行ってらっしゃい。」 「! 行ってくるね。」 ボルテもフィガロの鼻先にキスをすると、ピョンとボルテの手の中からフィガロは飛び出して寝台の中へと潜り込んだが、扉が閉まる前に「にゃん」と小さく鳴いた声はボルテの耳にしっかりと届いた。

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