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第67話:ボクの帰りたい場所・・・
ボクの帰る所・・・。
そう、思ったらいつの間にか、獣化してた。
窓の隙間から、外に出ると冷たい風に身体が震えたけど、それよりも早く帰りたい気持ちが勝って
一心不乱に、フィガロは走っていた。
見たことの無い場所だったが、かすかに感じる匂いを元に走り続け、やっとフィガロの知っている所まで帰ってきた。
そう無意識にフィガロは感じていた。
カタン
いつもの様に、出入りしていた所から中に入るとフィガロは、いつもの場所へともぐりこんだ。
ドロドロの両手足もそのままに、自分が一番安心出来る場所に収まると、いつの間にかスピスピと寝息を立て始めていた。
追い詰め吐かせた犬獣人は、中央の・・・それも、叔父の直属の部隊の制服だった。
其のことに、フィーに何かあったと思ったが、まさか居なくなったとか・・・。
すぐに、あの「兄」が連れて行ったのかと思ったが、匂いを辿って追ってきたと言われ、すぐに自分も獣化した。
フンフンと北の大陸の空気の匂いを嗅ぎ、フィーの匂いを探す。
目覚めたばかりだったフィーは、常に魔石で綺麗にされていたから匂いが殆どしなかったが、寝台でしっかりと嗅いだ匂いをボルテは嗅ぎ取っていた。
その匂いのする方へと、しばらく走り・・・フィガロの向かった場所に思い当たった。
その事に、ボルテの尾がはち切れるぐらいブンブンと揺れ、暗闇に銀色の残像を残した。
ガ、ガタガタン
フィガロよりも数倍大きなボルテは、少し空いていた窓に鼻先を突っ込み、無理やり中へと入り込むと、すぐに獣化を解いた。
「・・・サムッ。」
暖炉に魔石を灯すと、匂いのする方へと向かった。
小さく盛り上がった自分のベット。
「うわっ・・・フィーの足跡・・・かわいい!」
ペタペタと泥の足跡を、ボルテも同じ様に辿る。
盛り上がった所と優しく撫でると、モゾモゾと小山が動く。
「んぅ・・・。」
「・・・フィー?」
「んんぅ・・・。ルテぇ・・?」
もそもそと小山が動き、ひょこっと黒猫が顔を覗かせた。
まだ、寝ぼけているのかひくひくと鼻を動かしながら、ボルテの匂いの方へ顔を向けると、徐々に金色の瞳が開かれる。
「・・・ん・・・お帰・・・りぃ・・・、あ、あれ!?」
「ふふ、フィー。ただいま。」
「な、なんで??? ボクここに??」
「うん。フィー、お帰り。」
「え・・・あ、うん。ただいま?」
こてんと小首を傾げながらも、フィガロはボルテに挨拶を返した。
「フィー、お風呂入ろうか?」
「えっ・・・??? あ!!なにこれ!!」
ボルテに前足を持ち上げられて、泥の靴下を履いている様になっていることにびっくりする。
「ね。だから、綺麗にしてあげるね。」
「え・・あ、うん・・・・ん?」
ヒョイッとわきの下にボルテの両手が差し込まれたと思ったら、すぐに抱き上げられてしまう。
「あ、あれ?ま、って・・・ルテ! ボク、獣人って言ったよね!?自分で出来るよ!?」
「ん? けど、フィーは目覚めたばかりだから・・・何か有ったら大変だよ?」
「そ、そっか・・・。で、でも・・・獣化したまんまは・・・。」
「なら、獣化解いて入ろうね。」
「えっ・・・あ、うん。」
そう言われて、そのまま獣化をフィガロは解いた。
ポンっ
「って・・・えっ!? ぼ、ボルテ?!」
獣化を解くと言ったから、下に降ろされるのかと思っていたフィガロは、獣人の姿になってもしっかりとボルテに抱かれたままだった。
猫の姿の時と違い、ボルテの腕にしっかりと抱き抱えられ、肌と肌が密着している事に、フィガロは急に恥ずかしくなった。
「あ、あの・・・ボルテ・・・。」
「・・・フィー、忘れたの? ルテ・・・でしょ?」
ボルテの甘い声が、フィガロの三角の耳をくすぐる。
「ぅぅ・・・ルテぇ。 どうしよう・・・ボク恥ずかしいぃ・・・。」
そういって真っ赤になった顔をフィガロは両手で隠したが、まだ乾ききっていなかった泥が顔について、慌てて手をどけた。
「うわっ・・・あ・・・。」
「・・・プッ。フィー、顔に泥付いたね。」
「・・・あー、もう! ルテも道連れ!」
ペタリとボルテの両頬をフィガロの泥だらけの手が触れる。
ペタペタ。
指先三本分両頬についた顔に、フィガロは思わず笑ってしまう。
「ふふ・・ルテの顔かわいい。」
「・・・そう?なら、僕の顔は洗わなくてもいいかな?」
「そ、それはダメだよ!! ちゃんと洗わないと!!」
「なら・・・フィーが洗ってくれる?」
「えっ? ボクが・・・?」
「うん。フィーは僕が洗うから、洗いっこしよ?」
「う、うん。わかった。」
いつも、フィガロが入れられていた桶は、今日はひっくり返されフィガロの椅子替りになっていた。
その横で、ボルテが膝立になりながら、フィガロの泥の付いた手を泡立てた布で丁寧に洗っていく。
指先から掌、肘に脇と徐々に洗われていく。
獣化していた時と違い、フィガロの視線の先には、ボルテの身体が近く、姿やかに動く筋肉に視線が行った。
・・・やっぱりボクとは全然、身体付きが違う。
「フィー、今度は反対の手。」
「うん。」
両手を泡だらけにされながら、未だ指ひげの泥跡をつけたままのボルテをフィガロはジッと見ていた。
「フィー、次は・・・」
「えいっ。」
泡だらけの両手を、さっきと同じ様にボルテの顔にフィガロは付けた。
「ボクもルテの事、洗うんでしょ?」
「・・・そうだね。洗って?」
そういって、ボルテが顔をフィガロの前に出す。
泡が入らない様に、目をつぶったボルテの顔を泡の付いた手で撫でながら、いつもは隠れているおでこも優しく泡を付けた手で洗っていく。
「あ、洗い流すのは・・・・ルテが自分でやって・・・。」
そういって、椅子にしてた桶にお湯をいれて目を閉じたままのボルテに手渡すと、頭からボルテはお湯を浴びた。
「えええっ!!!」
「ぷはっつ。」
ぶるぶるっと頭を左右ふって、雫をボルテが飛ばす。
びしゃびしゃになったフィガロは、お返しとばかりに未だについていた泡を今度は、ボルテの頭、身体にも付けた。
「もう!!ルテ!!びっくりした!!」
「えー、だって目に入ったら痛いし。」
「もぉ!!」
「ほら、続き・・・。」
ひょいっとフィガロを膝の上に乗せた。
「わっ・・・あ・・・。」
向かい合うような形になり、フィガロの金色の瞳に、ボルテの顔が映る。
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