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第2話:上司と部下の、出会いと現在以降の日常。

綾斗と伊藤がセフレになったきっかけは、 ほんのささいな事が、きっかけだった。 部長である伊藤の付き添いで、綾斗はよく出張に同行していた。 ただ今までは日帰りであったため、 今回もそのはずだった。 この会社では2年に一度会社全体で忙しくなる。企画部の部長である伊藤は普段は飄々としているが、忙しいと生き生きする男だ。 部長である伊藤は部署全体の進み具合を見ながら、上との連携を上手く取っていた。 それをフォローし、部下との連携を調整するのが課長である丸山綾斗の役目だった。 伊藤と綾斗の2人は取引先の会社で、優柔不断な社長の答えを聞くために5時間も要してようやく答えが出た。綾斗が電話で部署へ連絡して、企画にGOを出した。 綾斗がふうとため息すると、伊藤がスマホで電車の時間を確認した。 「帰りの特急がない」 「え」 中々の田舎で特急に乗り過ごした。 仕方なく翌日のチケットを取り、今日はホテルを探した。 まるでドラマの様な展開だなと内心苦笑いをしながら、綾斗は伊藤と取ったホテルに向かった。 正直綾斗は内心緊張していた。 偶然とはいえ、今まで泊まりでの出張は初めてだったから。 あまりプライベートの事は一切話したことがなかったし、なんせ上司だ。 しかも、 「え、同じ部屋!?」 「急だったから一部屋しか取れなかったんだ」 と、伊藤はいつものように飄々と答えた。 「・・・そうですか」 これは違う意味で緊張する。 部屋は普通のツインルームでシングルのベッドが2つ並んでいる。 いつもと違う戸惑った様子の綾斗に、 「丸山、荷物置いたらホテルのラウンジに飯食いに行こう」 「え、あ、はい」 綾斗はなんとは冷静を装うとして、端的に返事をした。 ホテルの1階にあるラウンジで、簡単な食事をして2人は部屋に戻り今日の仕事の打ち合わせをした。 「じゃあ、週明け企画詰めよう」 「はい」 返事をして、綾斗は書類を片付ける。 伊藤はネクタイを緩めながら、 「風呂、先入っていい?」 綾斗はドキッとしながら、風呂というキーワードにドキマギした。 「・・・どうぞ」 彼を見ずに答えた。そのままカバンに書類をしまう。 数秒後、シャワーの音が聞こえると、 綾斗はベッドに腰かけながら、頭を抱えた。 「・・・どうしてこうなった」 よりによって、彼と同じ部屋に泊まることになるなんて。 綾斗は伊藤に片想いをしていた。 職場の喫煙室で煙草を吸っている姿がやけに色っぽくて、一瞬で恋に落ちた。 それから、ガラス張りの喫煙室の外のベンチでコーヒーを飲みながら、 彼の煙草を吸う姿を盗み見ていた。 煙草を一本口にくわえた時の唇の形や、シルバーの細いライターで火を点ける仕草も、 煙草の煙を吐きだす横顔も、 全てが綾斗にとっては特別に見えた。 それから密かに想ってきたが、別に付き合いたいとかではない。 ただ、声を聞いているだけで、一緒に働いているだけで十分だった。 なのに、 さっき伊藤がネクタイをはずした仕草を見るだけで、そのシャツを脱いだ姿を想像してしまった。自分はなんて邪なんだろうか。 「大丈夫、風呂に入って眠るだけ・・・・眠るだけ」 と、一人自分を言い聞かせていると、 ガチャ バスルームのドアが開いて、 「次どうぞ」 と、バスローブ姿の伊藤が部屋に戻ってきた。綾斗のすぐ側に立っている。 綾斗は下を向いているため、伊藤の膝から下が見える。 (顔を上げるな) 綾斗は自分にそう言い聞かせながら、 「じゃあ、俺も次入ります」 と、伊藤の姿を見ないようにバスルームに速足で向かう。 バタンッ 逃げるようにバスルームに向かった綾斗を伊藤は、濡れた髪をタオルで拭きながら見送った。 綾斗は10分ほどで出てきた。 すぐに眠るれるように、髪はドライヤーで乾かした。 部屋に戻ると伊藤はベッドサイドのソファに腰かけて、スマホを眺めていた。 その姿を見ないようにしていたのに、見てしまったら一瞬で目が離せなくなった。 バスローブからのぞく彼の綺麗で長い脚。いつも長めの前髪をオールバックで固めているが今日は降ろしている、まだ半乾きの髪。 しばらく目が離せないでいると、伊藤はふいに、綾斗を見つめ返してきた。 それにドキッとする綾斗。 「君ね、ちょっと意識しすぎじゃない?」 「は・・・?」 綾斗は冷静を装うとするが、こちらを射抜くような眼をする伊藤から目が離せない。 何とかごまかそうとするが、言葉が思い浮かばない。 伊藤はゆっくりとソファから立ち上がり、綾斗の前で止まる。 同じバスローブを着ている綾斗の、胸元をじっと見つめながら、 「俺と同じ部屋で、ドキドキしたでしょ?」 「なに言って」 「君、いつも俺が煙草を吸ってるの見てるよね?」 「・・・なんのこと」 ごまかそうと、伊藤から視線をそらす綾斗。 「馬鹿な事言ってないで、もう寝ましょう」と、眠ることを促すが、 伊藤はどかない。目の前の綾斗の顎をグイッと動かし、自分の方に顔を向けさせる。 「ツインルーム取ったのわざとだよ」 「へ・・・」 驚く綾斗の唇を伊藤は黙って奪う。 吸いつくようにキスをされて、綾斗の心臓は跳ねあがる。 今すぐ口を放して、勘違いだと言いたい。 なのに、綾斗はその甘く柔らかい唇を放せない。 遠くで見ていたあの色っぽい唇が今自分の唇と重なっている。 夢なら覚めないでほしい。 気が付くと綾斗は伊藤の肩を抱いて、そのキスに夢中になっていた。 その夜、綾斗は初めて伊藤部長を抱いた。 翌日何事もなかったかのように2人は早朝の新幹線に乗りそれぞれ帰宅した。 土日を挟んで、翌週月曜日、 出張の書類を整理し社内で共有した。 その後特に何事もなく、繁忙期は終り、 ようやく落ち着いてきた金曜日。 「丸山、今日帰り飯行こうか」 伊藤が帰り支度をしながら、同じく帰る準備をしている綾斗に声かけた。 「え、まあいいですけど誰誘います?」 「?2人だよ」 「え?」 当然のように答える伊藤に、 しばし綾斗は沈黙する。 「あっと・・・、今日は用事が」 「嘘つけ」 と、踵を返そうとする綾斗の襟元を伊藤はぐいっと掴んで離さない。 「なかったことにしようとしてる?」 おしゃれな焼き鳥屋の半個室で、伊藤は腕を組みながらも柔らかく言っているのに 綾斗にとってはまるで尋問のようだった。 はっきりとは言わないが、先日の出張の時のことを言っている事だけは理解した。 なんの告白もなく、セクシャリティの話もなく、 伊藤に唇を奪われて、なし崩しのように彼を抱いた。 それを一生の思い出にしようと綾斗は心の中で決心したばかりなのに。 「・・・何の話でしょうか」 「セックスのことだよ」 「忘れてください」 と、彼の方は見ずに綾斗はビールを口に運ぼうとする。だが伊藤はじっと綾斗を見つめて、 「・・・良くなかったんだ」 と、ワザとらしく傷ついた様な顔を作り俯く。 綾斗は気まずそうに、後頭部をくしゃくしゃとかく。 確かにあの日綾斗は、伊藤からのキスをきっかけに彼を抱いた。 とろけるようなキスをされて、白くて滑らかな彼の肌に触れて綾斗にとっては夢のような一夜だった。でも密かに片思いしている相手を勢いとはいえ抱いてしまった。 恋人もでもないのに。 綾斗にとっては不誠実であったと後悔した。 今の自分では恋人はおろか、告白する資格もないと。 だが、そんな綾斗の気持ちを知ってか知らずか、 伊藤は機会があればあの日以来何もない事に不満があった。伊藤は今まで体を重ねた相手から放置された事なんて一度もなかったから。 「気持ち良くなかったの?俺が相手じゃ不満だった?」 「・・・何聞いてんの」 と、完全に頭を抱える綾斗。 その態度を見て、伊藤にとっては彼が男を抱いた事を後悔しているのだと認識して、 はあっと、ため息を吐いた。 「悪かったよ」 「・・・」 「男を抱くなんて普通いやだよな」 「・・?」 「綾斗上手だったから俺も夢中になっちゃって」 「・・・!」 「また、機会がないかなって期待してたのが悪かった」 「!?」 そこで綾斗が、がばっと顔を上げる。 「えっ!?」 すると、伊藤は腕を組んだままじとっと彼を見つめていた。 綾斗は観念したのか、ため息を吐いて、 「・・・良かったよすごく」 あの時の感想を白状した。 「でも、次なんてないと思ってたから。つきあってるわけでもないし」 「付き合わなくても、することはできるじゃん」 「え?」 綾斗の疑問に、伊藤はビールを飲みながら、 「お互い気持ちいいんだから、たとえばセフレとか」 セフレというセリフが伊藤の口から出てきた事に驚いていた。 また抱いていいってこと? あの伊藤部長が? これは夢か? 現実味がない綾斗は、しばらく目をぱちくりさせる。 ここは勇気をもって聞いてみるか。 「それって、俺にまた抱かれたいって事?」 すると伊藤はくすりと笑い、綾斗の耳元に顔を近づけ、 「今までシた中で一番気持ちよかったよ」 言いながら、するっと綾斗の肩から腕へと撫でて、 じっと彼の目を覗き込んで、 「もっと気持ちよくして」 と、そっとキスをした。 それから2人のセフレの関係が始まった。 そうして紆余曲折を経て、 現在の2人ははれて恋人となった。 その後、 会社では今まで通りの部長と課長として上手く仕事をこなしていた。 「伊藤部長、確認お願いします」 と、女性社員が会議資料を伊藤の所へ持ってきた。 伊藤はその資料を確認しながら、 「杉崎さんありがとう。確認しておくね」 と、返事を返す。 すると、杉崎という女子社員は、あっと小さく声を上げて、 「部長、首赤くなってますよ」 と小声で教えてくれる。 「ん?・・・ああ」 と、伊藤は自分の襟を直しながら、 ふと自分の方を見ていた綾斗とバチッと目が合う。 どうやらさっきの会話を聞いていたのか、伊藤の首のアザに心当たりがある顔をする。 伊藤はニヤリと笑い、デスクから立ち上がりトイレに向かう。 「悪かったですよ」 トイレの鏡を見ながら、首のアザにバンソーコを貼っている伊藤に声かける綾斗。 その彼を鏡越しに見ながら、 「構わないよ」 「・・・わざとだな」 と、綾斗は少し恥ずかしそうに腕を組む。 恋人になった2人はセフレの時よりは夜は甘くなったと思うが、伊藤には少し不満があった。綾斗がなかなか2人きりになろうとしてくれないのだ。 首元のキスマークにバンソーコを貼り、鏡で襟元から見えるかどうかを確認する。時々少しだけ見えるがまあいいかと、鏡から離れる。 トイレに誰もいない事を確認してから、手洗い場の上に少しだけ腰かけ、 「俺はね、君が恋人だって世界中に言いふらしたいと思ってるんだよ?」 その言葉に綾斗は目を見開いて驚いていた。 まさか伊藤がそんな事を考えているなんて思っていなかったから。 現実的には難しい事なのにそれを当然のごとく口にする伊藤に、 綾斗は緩みそうになる頬を慌てて手で隠した。 「・・・なに、言ってんだよ」 自分でもびっくりするくらい小声になった。 綾斗にとっては伊藤は理想の上司で憧れの存在だった。 ずっと片思いをこじらせてきて、 今は恋人と認められているのさえ信じられないくらい。 「戻ろっか」 と少しだけ寂しそうに綾斗の前を通り過ぎて、オフィスに戻る伊藤。 その後姿を切なそうに見つめる綾斗。 その日の夜、 綾斗は伊藤の家に来ていた。 一足先に帰ってきた伊藤はデパ地下でデリを数点購入してきてくれて、 冷蔵庫からいそいそと取り出した。 「ここのデリお勧めなんだよねー。サラダが絶品で・・・」 と嬉しそうに話す伊藤の前に綾斗は立ち、 「どうし・・・」 自分の前に立つ綾斗を見上げ話しかけるその瞬間、伊藤は唇を奪われる。 吸いつくように深くキスをされて、目を閉じる伊藤。 綾斗は彼の腰に手を添えて、ぐいっと自分の方に引き寄せる。 伊藤の頭の後ろに手を当てて、抑え込む。 いつもと違い熱烈なキスをされて伊藤は内心喜んでいた。 「どうした?」 「抱きたい」 「食事は?」 「後で」 と、綾斗はせっかく冷蔵庫から出したデリを、そそくさと冷蔵庫にしまいなおし、 綾斗はそのままダイニングテーブルの上に彼を座らせ、キスをしながら伊藤の服を脱がし始める。こんな積極的な綾斗は初めてだった。 「あっ綾斗・・・今日どうしたのっ?んっ」 キスをしたまま綾斗は自分のシャツをボタンをはずして、伊藤と肌をくっ付けるように彼を抱き締める。そのまま綾斗は伊藤のはいているスウェットパンツの背中からお尻の方に手を入れていく。尻の割れ目にゆっくりと指を添わせながら、そのまま後ろの穴に指を挿入していく。 「んン」 そのまま彼のズボンとパンツを脱がして彼の下半身のすべてを撫でまわす。伊藤は撫でられながら、綾斗のズボンのファスナーを下ろしもうガチガチになっているモノを上下にしごく。 綾斗から色っぽい吐息が漏れるのを感じて、綾斗は彼の耳元にキスをすると、 「挿れるよ」 「あっ」 綾斗はすぐに伊藤の後ろの挿入して何度も突いた。 ダイニングテーブルの上で一度シてから、ベッドに移動して2回ほどして力尽きる。 ベッドの上で仰向けになっている綾斗に、伊藤は嬉しそうにチュッとキスをする。 あれだけ強引に抱いといて、その不意なキスに少しだけ赤くなる綾斗。 「今日はやけに熱烈だったね」 「・・・悪かったよ」 どうやら我に返ったのか、頭を抱えて謝罪する綾斗。 伊藤は彼の隣に寝転がり、 「本当はいつもあんな風にしたかったの?」 その問いかけに、綾斗は彼から顔を背け、 「ムカついたんですよ。あんたの言葉に」 「え?」 「自分ばっかり好きみたいな事言って・・・」 会社のトイレでの事をいっているんだと気が付く。 綾斗は彼の方を見ないまま、 「俺の方が・・・ずっと前から、あんたの事好きだったのに」 そういって、ちらりと伊藤を見つめた。 伊藤はきょとんとしている。 綾斗はいつもなら余計な事を言ったと後悔しているところだが、言わないときっと伊藤には通じない。そう思って勇気を出して言葉にした。 「ふと、あんたが喫煙室で煙草を吸ってる姿に目を奪われて、目が離せなくなって、それからずっとあんたのこと見てた」 最初に見た時の事を思い出しながら、一言一言大切に語った。 綾斗は元々ゲイじゃない。 学生時代は彼女もいたし、男性を好きになった事は今までなかった。 でも、心を奪われた。 一緒に仕事をしていくうちに尊敬が、いつしか恋になっていった。 でも本当は最初に見た時から恋だったかもしれない。 「そんな事初めて聞いたな」 「・・・こんな事言うつもりなんてなかった」 「でも聞けて嬉しい」 伊藤はそう言って、仰向けになっている綾斗の肩に沿うように自分も寝転ぶ。 「あんたはさ」 「蒼だってば」 蒼はいつも伊藤の名前を呼ばない。照れくさいからだ。 「・・・蒼さんは、どうしてあの時俺にキスしたの?」 2人が出張で初めて泊まった時、伊藤は綾斗にキスをした。 綾斗には伊藤の本心が見えなかった。ずっと。 伊藤は彼の横顔をじっと見つめて、 「君の事はタイプだったよ、ずっと前からね」 「え」 「君と違って俺は昔から男しか好きになれなかったから」 自分がゲイであることは、幼いころから自覚があった。 女にも男にも正直モテた。 でも、付き合っても本気に好きになる相手には巡り合えなかった。 「入社した時から君の事は可愛いと思ってたけど、君はゲイではないようだったから。その対象にはならなかった」 なのに、ある日熱烈な視線に気が付いた。 はじめは勘違いかと思ったが、不意に肩がぶつかったり、手が触れただけで少しだけ頬を赤らめる自分を必死に隠そうとする綾斗に、確信を持ってあの日キスをした。 「だから、ツインの部屋を取ったのは俺なりの賭けだった」 初めて伊藤の本音を聞いて、綾斗は驚いた顔をした。 綾斗の視線に気が付いてはいたが、勘違いの可能性もあったし、そんな簡単にセクシャリティを超えられるとは思っていなかったから。 でも、綾斗は伊藤の賭けにまんまとはまってしまったらしい。 「君がまさかセフレなんて乗ってくるとは思ってなかったし、それほど君に性欲があるとは思わなかったし」 「その言い方やめろ」 「でも乗った」 「・・・どんな形でも、あんたと関わりたくて必死だったから」 誰にも渡したくなかったし、誰にも譲りたくなかった。 「ふうん」 と伊藤は綾斗の半身にかぶさるように抱きつく。 綾斗は黙って彼の頭をそっと撫でた。 後日、会社にて。 「あれ?丸山課長、伊藤部長まだですか?」 書類を手に伊藤を探している女子社員。 側の席にいる綾斗は、 「ああ坂崎さんおつかれ。部長なら今朝取引先に寄ってから来るから、午後出社だよ」 と、ホワイトボードの社員それぞれの予定を指さす。 部内ではホワイトボードに社員それぞれの予定を明記している。 特に部長である伊藤と、外出が多い社員は予定は逐一確認する必要がある。 課長である綾斗は、部内の仕事の進捗を把握する必要があるため、ほとんど外出はない。 にしてもだ、 「課長、部長は?」 「今日は午後からの出勤だ。何かあったか?」 「担当企画に変更が出そうで」 「急ぎか?」 「いえ、今日中に相手に返答できれば問題ないです」 「わかった。部長には話しておく」 「ありがとうございます」 若い社員は自分の席に戻る。 (・・・みんな何で俺に聞いてくるんだ?) などと疑問に思いながら、すぐさま伊藤にメールで報告する。 「ああ、俺が言ったから」 と、昼から出社した伊藤が飄々と綾斗の疑問に答える。 その返答に綾斗は一瞬きょとんとして、 「え、何てですか?」 すると、伊藤はいつものようないたずらっ子のような顔をして、 「『俺の事を知り尽くしている男に聞いて♡』って」 とニヤニヤする伊藤に、綾斗は冷静に、 「馬鹿言ってないで、本当は何て言ったんですか?」 すると伊藤は、 「だからさっき言ったろ」 「ん?」 「うん」 「え、ほんとに言ったんですか?」 「うん」 これはマジな返事だ。 綾斗は急に動揺しだした。 「何言ってんだアンタ・・・」 と、頭を抱える。 「誰も真面目に取らないよ」 「・・・ならいいですけど」 そう言って綾斗はパソコンに向き直り、仕事にもどる。 しかし伊藤は知っている。 この職場には腐女子社員のグループがいて、 自分と綾斗がよくネタにされていることを。 伊藤はそれを密かに楽しんでした。 女子社員が給湯室で15時の小休憩を取っていると、 給湯室の入口をドアをノックするようにコンコンとしてから、 「坂崎さんいる?」 ひょこっと顔を出したのが、綾斗でそこにいる3名の女子社員は目を丸くした。 さっき呼ばれた坂崎は午前に部長がいないか、綾斗に聞きに行った事もあり急に綾斗に名前を呼ばれ思わず飲んでいたほうじ茶を噴出した。 「ケホッ、課長お疲れ様です」 「大丈夫?驚かしたかな?」 「いいえ、午前の書類の事ですか?」 「うん」 「でしたら、課長に伝えたすぐに部長から連絡ありまして、午後よりも早く対応できました」 「そっか」 「すぐに部長に連絡してくれたんですね」 「一応、部長の留守中は、早めに案件を耳に入れておいた方がいいからね。ただいつ対応できるかは部長次第だけど」 と、肩をすくめる綾斗に他の女子も、 「いいえ、課長がすぐに部長に連絡してくれるおかげで、いつも部長からのリターンも早くて助かっています」 「そ?ならいいけど」 と、少しだけ心配しすぎていたようだと綾斗は安堵した。 そして、少しの間を置いて、 「あのさ・・・ちょっと聞きたいんだけど、皆部長の案件俺に聞いてくるけど、それってなんで?」 『えっ』 3人は思わずドキッとする。 しかしそれには気が付かず、綾斗は少しだけ言いにくそうに、 「もしかして・・・あの人に、なんか言われてる・・・?」 その一言に、 あの事かと3人は同時に思ったが、 それに答えたのは坂崎だった。 「ああ・・・うちの部長って、他の部署よりも声かけやすいんですけど」 「うん」 「やっぱり忙しい方ですし、おちゃらけてても部長ですから部署にいれば直接声かけれるんですけど、どうしても外出中は連絡ししにくいというか・・・」 それらしい返事を返す。 それを聞いて他の女子も、 「そうなんですよ。だから課長が間に入ってくれるから、仕事がやりやすいんです」 「私も」 それを聞いて、綾斗は数秒考え、 「そうか。変な事聞いて悪いね」 『いいえ』 3人は同時に笑顔で綾斗を見送る。 しばらく綾斗が給湯室から離れていく足音を聞いて、 「・・・何なんあれ、課長可愛すぎ」 「萌えますね、今日も」 「尊い・・・」 と腐女子3人はそれぞれ、幸せをかみしめていると、 コンコン 「おつかれさま」 と、今度は部長である伊藤が給湯室に顔を出してきて、 3人は思わず同時にお茶を噴出した。 それをみて、クスクスと笑う伊藤。 「みんな大丈夫?まだ面白い事言ってないけど」 と、平然としている伊藤に3人は明らかに動揺しながら、 「けほっ、平気ですすみません」 坂崎は口元をハンカチで拭きながら、 「例の案件、書類提出できました。外出中なのに対応ありがとうございました」 と慌ててお礼を口にして軽く会釈をする。 すると、伊藤は手をパタパタと振って、 「いやいや」 といつものように笑う。 そして、 「さっき、丸山課長来てたよね」 その一言に、3人は内心ドキッとする。 伊藤はニコニコしながら、一番近くにいる坂崎の耳の側により、 「可愛い所もあるけど、可愛いだけじゃなからね♡」 それを聞いた坂崎は、バッと耳打ちをされた耳を手で押さえ、 ひいっと小さな悲鳴を上げた。 その反応を面白がりながら、伊藤は給湯室を後にした。 遠くになった給湯室の方から悲鳴が聞こえたのを聞きながら、 伊藤はスキップで部署へ戻った。 「丸山、部長は?」 課長補佐である佐藤 直哉は課長である丸山に聞いてみた。 直哉は部長クラスの実力がありながら、出世に興味がなく現場で活躍したいと昇進の声を何度も断っている。数か月前に元恋人である本社の社員と復縁していずれ本社に行く予定だそうだ。直哉は丸山と大学時代の同級生ということもあり、取引先でない限り課長とは呼ばない。丸山もそれでいいと思っている。 すると、綾斗は半眼で、 「なんでお前まで部長の所在を俺に聞くんだよ?」 皆いつも綾斗に聞いてくる。が、その質問に直哉は黙ってじっと彼を見つめて、 「何でって・・・言ってもいいのか?」 その意味深な言葉に、綾斗はハッとして、 「いやいい!言わなくて」 綾斗は慌てて制する。 直哉は伊藤と綾斗が付き合っていることを知っている。 会社で言うとは思わないが、墓穴を掘るようなセリフを口にして綾斗は後悔した。 直哉はため息をついて、 「来週の企画について、そろそろ話す時だろ?」 「そうだな」 と、二人が話していると、部署に伊藤が戻ってきた。彼の姿を見て綾斗は、 「どこで油売ってたんですか?来週の企画会議しますよ」 「ああ、うん」 「お疲れ様です。部長、A会議室取ってます」 「ああ佐藤お疲れ、ありがとう。じゃ始めようか」 と、3人は会議室へ。   佐藤がある程度まとめてた企画書から、3人は進行過程と取引先との打ち合わせ日程などを調整する。 1時間の会議の後、 「じゃあ、俺会議の議事録纏めますんで」 「頼むね」 ノートPCを手に先に会議室を後にする綾斗。ヒラヒラと手を振って見送る伊藤。 綾斗が出ていった後、 「ふう・・・」 伊藤はめずらしく小さくため息を吐いた。それを見て直哉は、 「どうかしたんですか?部長」 「え?」 伊藤はきょとんとしている。 どうやらため息は無意識らしい。 「めずらしくため息吐いてるから。・・・綾斗となにかありました?」 2人が付き合っている事を知っている直哉は、少しだけ2人を心配した。 伊藤は数秒考えて、 「うーん、別にないよ」 「うーんて、なんですか」 と、苦笑する。 伊藤はいつもの何もないですよという顔をしたまま、 「なにもないけど・・・」 「ないけど?」 言葉を促す直哉の言葉に、 伊藤はそのまま顔を机に突っ伏して、 「・・・綾斗が、その、遠慮してるっていうか」 「はい?」 それは年上だし、大人だし、好きな人相手だからでは?と直哉は思ったが、 伊藤はいつもより何だか言いにくそうに、 「俺は、綾斗が可愛くて仕方ないし、されて嫌なことなんてないんだけど」 「ええ」 「だから、その・・・」 伊藤にしては随分言いにくそうだなと、直哉が思っていると、会議室の入口に人影。 それに気が付かずに、伊藤は机に突っ伏したまま、 「もっと、ベタベタしてほしいっていうか・・・」 『えっ!?』 声がハモって聞こえて、伊藤は入口の方を見ると、会議室に戻ってきた綾斗の姿。 直哉も伊藤らしくない言葉に驚いていたが、それよりももっと綾斗が驚いているだろう。 伊藤はやってしまったという顔をして、俯いて顔を手で覆う。 直哉はふうっとため息を吐いて 「俺が言うことじゃないけど、言いたいことはちゃんと伝えてくださいね。お互い」 と、直哉は入口にいる綾斗の肩をぽんと叩いて、会議室を出ていった。 会議室に残された未だ手で顔を覆ったままの伊藤と、それを尻目に机に忘れていったスマホを手にする綾斗。 2人とも喋らない。 伊藤は、ちらりと綾斗を見つめ、 「・・・なんか言えよ」 すると、無表情だった綾斗は自然とほころびる顔をスマホで隠しながら、 「初めて聞いた気がする」 「え」 「あんたの本音」 そういう綾斗の表情は、今まで伊藤が見た事のない表情をしていた。微妙な顔というか 衝撃を受けた顔、でも口元はほころんでいる。 綾斗は伊藤の側まで来ると、彼の耳元で、 「今日は、好きにするからな」 その言葉に、 伊藤は無言で頷いた。 2人で帰ったのは伊藤の部屋だった。 ドアが閉まった瞬間、 綾斗はゆっくりと後ろから伊藤を抱きしめた。 いつもと違う穏やかさに、伊藤はドキッとした。 綾斗はそのまま背後から伊藤のきれいな首筋に、チュッチュッとキスをし始めた。 背後からネクタイを外され、シャツのボタンを外されていく。そのまま綾斗は首筋から鎖骨へとキスを増やしていく。まだ玄関であることは分かっている。 綾斗は彼の耳元で、 「ほんとはいつも部屋に入ってすぐにあんたに触れたかった」 「綾斗・・・」 そのまま唇を奪われる。 甘く愛撫するようにキスをされ、段々と深くキスをして伊藤の口の中は綾斗でいっぱいになる。キスを浴びながらシャツのボタンを全部はずされて、綾斗の手が伊藤の肌をゆっくりと撫で、彼の弱い部分を撫で始める。片手で乳首を弄びながら、もう片方の手はヘソから下へと伸びていく。伊藤がビクッと身体を震わせる。 「ここでするの?」 「する。いつもすぐにしたかった」 綾斗が言い切って、自分の硬い股間を伊藤に押し付ける。 早く挿れてほしい。 ズボンを脱がされ後ろに指を入れられて解される。 いつもより優しくもちゃんと良い所を狙ってくる。そのたびに小さく喘いで身体をくねらせる伊藤に口から顎、首筋にキスをしながら綾斗は自分のズボンのファスナーを下ろして自分のモノを静かに扱いていく。それを感じながら綾斗は彼のモノに自分のお尻を擦り付ける。 「早く」 言ったとほぼ同時に綾斗は伊藤の中に侵入していく。 いつもよりゆっくりとでも、 奥深くに。 もう何度も身体を重ねているはずなのに、 いつもより、いいところに当たって、そこをずっと行ったり来たりされて、 「っあ、や・・・と」 立ったままバックで挿れられて、いつもと違う感覚に感じすぎて伊藤は今にも崩れ落ちそうになって綾斗の腕をつかむ手に力を込める。それをみて綾斗は伊藤の身体を支えながら壁際に少し近づいていく。伊藤は壁に寄りかかりながら綾斗が次どう動くかを予見した。 綾斗は後からは抜かずに支えができて体制が落ち着いた伊藤に、優しくキスをして何度も腰を打ち付ける。 その度に伊藤はイっていて彼の精液が、床にぽたぽたとしたたり落ちている。伊藤はそれを自分でも驚くくらい冷静に見つめながらも、気持ち良すぎておかしくなりそうだと頭では感じていた。綾斗は一度イッた後、ベッドに移動した。 すると綾斗はペットボトルの水を持ってきてくれて、伊藤に渡す。 「休憩する?俺はいいけど」 伊藤は多少ぼーっとしながらも、 「もっと」 おねだりする。 「いいよ。朝まで遠慮しないけど」 綾斗は今日は我慢しないと決めていた。 いつも伊藤の半ば人を小バカにような飄々とした態度に、 翻弄されている。 遊びのように取り繕っていたのも、 着かず離れずの距離を保っている風を装っていたのも、 伊藤が綾斗の本音を試していたのだろう。 綾斗はベッドの上で伊藤の背後から身体をピタッとくっつけて、 彼の足の付け根をそっと両手で撫でる。そのまま彼の腰を持ち上げて再び彼の中に侵入する。 「あっ」 さっき入れられていたばかりで、敏感になっている身体を伊藤はくねらせる。 その動きがまたエロくて、綾斗は興奮して今度のは腰を激しく打ち付ける。その度に小さく喘ぎ声を上げる伊藤。綾斗は止めない。 この人は自分の事が好きなんだと思うだけで、たまらない。 腰を打ち付けながら、彼の耳から首筋鎖骨までキスで埋め尽くす。 それに気が付いて振り返る伊藤の顔は火照って赤くなっている。 「可愛い・・・蒼さん好き。俺だけのもの」 いつも言わない本音を小さく呟いて、綾斗は深く深く伊藤にキスをした。 何度も何度も。 その後仰向けにされた伊藤の首から胸までには、さっき綾斗が付けたマーキングの痕でいっぱいになっていた。それにまんぞくしながら綾斗は彼の両足を持ち上げ、いつも届かない部分に深く入り込んで今度はゆっくりと抜き差しした。 「ん・・・そのゆっくり、だめぇ・・・」 「気持ちいでしょ?」 「やぁ、おかしくなる・・・」 「もっと訳わかんなくなって、俺なしじゃいられないようになって」 自分の存在を分からせるかのように囁く。 2人とも気持ちよくておかしくなりそうだだった。 その日伊藤は初めて最中に気を失った。 「大丈夫?」 翌朝そう問いかけられたのは、 失神した伊藤ではなく事後に冷静になった綾斗だった。 ベッドの上で枕に突っ伏して動かない。 伊藤は回復していつものひょうひょうとした顔で水を飲んでいる。 「・・・俺は昨日酔っていた」 「素面だったじゃん」 「・・・催眠術」 「正気だったよ」 なんとか昨日の自分を何かのせいにしようとしているが、 彼は完全に素面だったし、 明らかに自分の意志で大胆な行動をした。 伊藤をこれ以上ないくらい甘い言葉を吐いて抱きつぶし失神させて、 今は昨日の自分をだんだんと思い出していた。 「・・・あんなの俺じゃない」 ほとんど泣きそうな声でつぶやいた。 恥ずかしすぎて伊藤の顔を見れない。 そんな綾斗を見て、伊藤はくすっと笑う。 照れ屋でいつも本音が言えない綾斗も可愛いくて好きだなと思いながら、 「・・・まあ、いつもあんなのじゃ身体が持たないけど」 といいながら、ベッドの端に腰かけ、 「でも、嬉しかった」 と、伊藤はいつもより柔らかく微笑んだ。 本当に嬉しそうに微笑むもんだから、その顔を見て綾斗はようやく起き上がる。 「照れ屋の綾斗も可愛いよ」 「・・・あんたが言うな。俺より可愛いくせに」 と伊藤をかわいいと思いながら、綾斗は顔を赤くして呟いた。 いつもじゃなくていい、時々は本音を見せてほしい。 2人は照れながらもいつもより優しく笑いあった。 おまけ。 11月11日、給湯室。 「はー、疲れた」 綾斗は肩をコキコキ鳴らしながら、 久しぶりに給湯室に入る。 するといつもの女子3人がお菓子を食べながら 休憩していた。 「おつかれさまです丸山課長」 坂崎は綾斗に気がついて、挨拶をする。 綾斗も自分のコーヒーカップにコーヒードリップをセットしながら、 やかんで湯を沸かし始めた。 「課長がドリップコーヒーって珍しいですね」 「なんかお客さんに美味しいやつだってもらったんだ」 「よかったら、甘いものもどうぞ」 と坂崎は自分たちのお菓子の山から、未開封のポッキーを箱ごと差し出した。 「え、箱ごとは悪いよ」 「たくさんあるんでどうぞ」 すると、 「ありがとう。もらうね」 嬉しそうにポッキーの箱を受取り、沸いているやかんに向かっていった。 その姿を見ながら、 「課長、今日何の日か知ってます?」 ふと聞かれた質問に、綾斗はきょとんとして、 「え?誰かの誕生日とか?」 「あ、じつは・・・」 と、言いかけた瞬間、 「はー、疲れたぁ」 と、綾斗と同じセリフで給湯室に入ってきた。 今日は外出が多くてフラフラらしく、入ってきてすぐに女子たちの席に参加して腰掛ける。 「部長お疲れ様です」 「おつかれー、なんか甘いものもらっていい?」 「どうぞ、好きなのを食べてください」 「ありがと」 坂崎含めた女子3人はすぐに部長を受け入れる。 伊藤が嬉しそうにお菓子を選んでいると、坂崎は近くにあるペットボトルのお茶を入れようとすると、 「部長、どうぞ」 と綾斗がさっき淹れたドリップコーヒーの入ったカップを伊藤の前に置く。 「あ、これこのあいだもらったドリップコーヒー?」 「疲れて帰ってくると思ってたので」 「さすがー」 伊藤に褒められて、当然だと言うような顔をする綾斗はなんだか嬉しそうだ。 その反面、テーブルを囲んでいる女子たちがポカンとしている。 彼女たちの内心は、 さっき綾斗が淹れたのは自分の分ではなくて、 当然のごとく部長のだったというのか・・・? ナチュラルに伊藤も受け入れてるし。 しかも自分のコーヒーも今淹れているし。 やはり付き合ってる疑惑は本当なのだろうか・・・? 綾斗は自分のコーヒーを淹れてポッキーを手に、 「じゃあ、お菓子ありがとう」 『いいえ』 給油室をでていこうとする綾斗に、 「何だよ、ちょっと座れよ」 綾斗に向かって自分の隣の席の椅子をポンポンと叩く。 「え、いや、報告書・・・」 「今日昼食ってないだろ?ほら」 伊藤の言葉に内心女子たちはざわついたが、 坂崎はすぐさま、 「どうぞ!」 すると、 「・・・じゃあちょっとだけ」 と、綾斗は伊藤の隣りの席に腰掛ける。 女子たちは内心戦々恐々としていたが、あくまで冷静を装ってた。 綾斗は伊藤の隣の席でコーヒーを一口飲むと、さっきもらったポッキーを開けだして一口食べる。確かに休憩が出来ずにやっと落ち着いたのだ。 伊藤はコーヒーを飲みながらちらっと女子たちの方を見る。そうして今度は ポッキーを食べている綾斗を見つめ、 「ねー、今日何の日か知ってる?」 「え?さあ」 すると、伊藤はニヤッとして綾斗を見ながら彼の持つポッキーを一本取り出して彼に咥えさせ顔だけ自分の方に向けさせ、ポッキーの反対側を自分で咥える伊藤。 「ぶ、ぶひょう?」 「ポッキーの日♡」 伊藤はそのままポッキーをポリポリとカリカリと齧っていくと、 キャー!! 給湯室から黄色い悲鳴が響いたのだった。 「ほんっと、信じらんねえ!」 綾斗は会社である事を忘れているのか、怒りながら廊下をズンズンと歩いて行く。 その後ろからマグカップを片手に、ポッキーをポリポリと食べながらついていく伊藤。 「あーあ、もうちょっとだったのに・・・」 給湯室でおもわずポッキーゲームをしかけられて、あと少しでお互いの唇が触れるかどうかで綾斗がポッキーを折って終了となり、給湯室が黄色い悲鳴で大騒ぎとなった。 「せっかくサービスタイムだったのに」 「誰に対してのサービスですか!?皆びっくりしてたでしょ?だめですよあんなんの」 「皆喜んでたけどね」 「んなわけないでしょ」 相変わらず綾斗は気がついていない。 あの給湯室は腐女子のたまり場となっていることを。 「2人きりだったらやってくれた?」 ぽつりとつぶやくその言葉に、 綾斗はじっと伊藤を見つめ、 「そのポッキー・・・残しておいて」 ぶっきらぼうにそう言うと、しれっと部署の部屋に入っていった。 伊藤はふふっと笑い、 「・・・了解」 一人嬉しそうに笑うのだった。 終わり。

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