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シロという名の少年

僕はなぜ生きているのだろう。 両親は愛し合っていなかった。貧しい生活の中、間違えで生まれた僕はいつも両親から『いらない子』と言われた。 白い髪と白い肌、赤い瞳は異質で、周りの子から化け物と罵られた。太陽に当たればヒリヒリと肌を刺激する。すぐに赤くなり気分も悪くなる。働くことすら出来ない僕に人間の扱いはされなかった。 悲しい、寂しい、そんな思いはゴミ箱に捨てた。愛を受け入れることも諦めた。 だから何をされてももう何も思わないはずだった。 「世にも珍しいアルビノの少年でございます。1000万からどうぞ!」 金額が跳ね上がっていく。怪しい仮面をつけた人々が札を手に金額を告げる。誰が買ってもどうせ扱いは変わらない。足に顔を埋めて、眩しい光に目を瞑った。 「10億!」 「じゅっ、10億です。10億が出ました。他は、他はありませんか!」 ガベルが叩かれ、落札される。それは、10億もの金額が動いた瞬間だった。 僕を買ったのは黒髪の男だった。男は自分のことを吸血鬼だと言った。そして、僕を彼の弟分の餌として捧げるのだという。 「大金を叩いて、他の人にあげるの」 「俺は子供はすかん。血が甘すぎるからな。だが、あいつは子供の血を好む。金は大したことはない。全てあいつが全盛期の時に稼いだ金だ」 「子供ならわんさかいる。なんで、僕なの?」 「吸血鬼は人間とは違う嗅覚を持つ。お前の匂いはあいつの好みの匂いだ。それに、たまには嗜好を変えてやった方があいつも満足するだろう」 その弟の住む屋敷は林の奥に聳え立っていた。人間の住む村から遠く離れた林の中。コウモリが鳴き、怪しい光が指す。屋敷というより古城に近いかもしれない。 僕は恐る恐る門を潜った。 「アルク、アルクはいるか!」 「リルリエール様。お久しぶりです」 「アカか。アルクはどこにいる」 アカと呼ばれた少年は僕をチラリと見ると不快そうに顔を歪めた。 「また……、新しい子供を連れてきたのですか」 「あいつはすぐに飽きたと言って、俺に子供を渡すだろ。定期的な補充が必要なんだ」 「そうですか。あまり増やし過ぎないで下さいね。父様は自室で寝ているところです」 男は一つ頷くと、僕の手を引いて2階へと続く階段を登り始めた。 「彼も吸血鬼なのですか?」 「アカのことか。あれはただの人間だ。赤子の頃からここにいて、育てたのがアルク、俺の弟だから父と呼んでいる」 通りで、恐ろしい牙を持たぬ少年だと思った。でも、とても執着を感じた。どうしてだろうか。どうしてあんなに僕を睨んできたのだろう。 「アルク、ここにいるのか」 ドアを叩いた男は返事のない部屋の主に痺れを切らし、ドアを無理やりこじ開けた。 「アルク!」 「リルリエールか」 「いるなら返事くらいしろ!」 布に包まった何かが、そこから這い出る。眠たげな目を擦り起き上がった男と目があった。 「あ……」 それはとても美しい存在だった。 銀色の髪がさらりと落ちる。赤い瞳と目が合った時、僕はぞくりと震えた。 「だれ?」 「新しいメシだ」 「また持ってきたの。いらないって言ったのに」 「はぁ……、俺がやらねーと血を吸わなくなるだろ。この前の子供も一回吸ってすぐに飽きやがって。ほら、アルビノの子供だ。また違う味がするだろ」 僕は腰を抜かしてしまった。美し過ぎて怖かった。とても、とても怖い存在に感じた。 「あれはアルクレート・ジエル。皆、アルクと呼んでいる。お前の名は……、いやいいか。どうせアルクは覚えられない」 「失礼だ。そのくらい私も覚えられる……。おいで、シロ」 シロ。それは誰のことなのかすぐに分かった。僕のことだ。 「おい、名前」 「僕がつけた名前。これなら覚えられる。ほら、おいで、シロ」 僕はその手を掴めずにいた。あの手を握れば、たぶんきっと、自分は変わってしまう気がしたから。でも……、もし握れば優しく包み込んでくれるのかな。 震える足を一歩前へ。 無意識にその手を握った。 「いい子だね。痛いのは初めだけ。大丈夫、そのあとはきっと気持ちがいいから」 彼は僕の首筋に牙を立てた。ちくりとした痛み。針よりも太い牙だ。 「あうっ……」 痛みはそのまま、奥から血が溢れ出ている。それを耳元でジュルジュルと飲んでいる。吸われてる。痛い、痛いのに、むずむずする。腰を動かして、誤魔化す。何これ、何これ、何これ。おちんちんがむずむずして、なんかおかしい。おかしいよ。 「ジュルッ……。はぁ、美味しい血」 「あの……、僕、あの……、あの……」 「勃っちゃった? よくあることだね。子供だから射精はまだかな。いいよ、ほら、触ってあげる。イクだけなら、大丈夫かな」 僕のおちんちんに手が触れる。自分の手じゃない。触ってるだけなのに、気持ちいい。どうしよう、変だよ、これすごくへんっ! 「あ゛」 「よく出来ました」 吐息が漏れる。 初めての経験に頭がよく回らなかった。 「リルリエール、お腹が膨れたから私はもう一度寝るよ」 「はぁ……、そこに資料を置いておく。仕事はしろ。また来るからな」 男はため息をついて去っていく。僕はどうすればいいのか分からず、ベッドの上で右往左往する。 「シロ、おいで。今日は一緒に寝よう」 「はい、あの僕はなんとお呼びすればいいんですか」 「……そうだな。ここの子はみんな僕のことをアルク様と呼ぶよ。君もそれでいい」 「分かりました。ここには沢山子供がいるんですか」 「どうだったかな。そういうの管理してるのはアカだからよく分からないな。でも、確か10人くらいはいた気がする。だから安心しなよ。そう簡単に血は飲まないから。月に一回あるかないか」 アルク様は眠たそうに目を瞑りながら僕の髪を撫でる。 「とても綺麗な髪だね」 「僕は……、ただの白髪ですよ」 「そう。でも、とても綺麗だ」 「白い髪も赤い眼もみんな化物と言います」 「それなら、私はもっと化物だ。それに、いいじゃないか。赤い眼。私とお揃いだ」 お揃い。アルク様とお揃い。お揃い。 「嬉しい」 「嬉しい? そっか。なら良かった。明日、起きたらアカにここのことを聞くといい。良いお兄さんをして……くれ……」 アルク様は力尽きたように眠っていた。とても綺麗な顔だ。僕はまたおちんちんがむずむずして、自分でこっそり触った。アルク様はおかしい。とても、おかしい。だって、こんなにも僕をソワソワさせるから。 アルク様が言う通り、頻繁な吸血行為はなかった。一月に一度あるかないかの吸血はとてもドキドキした。 両親に育てられていた時と違う。 無理に外に出なくて良いし、本を読むこともできる。誰かに殴られることもご飯を抜かれることもない。吸血鬼は恐ろしい生き物だと誰かが言っていたけれど出鱈目だ。アルク様は優しい人だ。 「あれ、またいなくなってる」 アルク様の屋敷では度々子供がいなくなる。今回は一番上のお兄さんだった。確かアカより歳が上だった筈で、とても頭が良くてたまに文字を教えてもらっていた。 本を抱きしめる。 「あっ、アルク様」 「ん……? ああ、シロ。どうしたの?」 「また、一人いなくなっちゃいましたね」 「ん……? そういえばそうだったね」 アルク様は何かを思い出すような素振りをして頷いた。その素振りを見て思った。アルク様はお兄さんのことを全く覚えていないんだと。 僕も、ここからいなくなったら、アルク様に忘れられちゃうのかな。それは、とてもとても嫌だな……。 「アルク様……、どうしてお兄さんを屋敷から出したのですか?」 「なぜ? なぜだろう……? たぶん、年齢かな? 14歳を超えてたから」 「アルク様は子供の血が好きなんですね」 「子供の血……? うーん……、まぁ確かに子供の血は甘いから好きかなぁ……」 「そう……、ですか……。なんで、子供の血は甘くなるんですか? やっぱり成熟してないから?」 「うーん、どうだろう。大人でも甘い血の人はいるから私もよく分からないな。でも、もしかしたら子供は甘いものをたくさん食べるから血も甘くなるのかも」 甘いものをたくさん食べる……。 そしたら、大人になっても血は甘いまま。 甘い血が好きなアルク様は僕をずっとずっと屋敷に置いてくれるかも。 そしたらきっとアルク様の脳に僕が消えることはなくなる。お兄さんみたいに忘れられない。 「……その本は?」 「お兄さんに本を読んでもらおうと思っていたんです。僕、まだ文字が全然読めないから……」 「そう。……今から読みたいの?」 「はい。でも、お兄さんいなくなったし、他のお兄さん達も今は遊んでるし……。だから、後でにします」 「……なら、私が読んであげるよ」 「アルク様が!」 「いや?」 「ううん、お願いします!」 アルク様が読んでくれる! 嬉しい! 「私の部屋に行こうか」 通された寝室。吸血する日しか入らないその部屋に僕はいる。他の子達からは聞いたことがない。これってやっぱり特別なのかな。 「シロ、本を貸して……ここに座って」 しかも、膝の上に座ってって。 膝を叩いてるアルク様に頷き、膝の上に座る。 ドキドキした。アルク様の腕の中。 「読むよ」 本の内容はあまり覚えていない。 けど、とても幸せだった。 ずっとずっとこの時間が続くように、アルク様の隣にいられるように僕は祈っていた。 僕はずっと祈っていた。 それは今でもずっと……

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