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第9話

「だからぁ。名前です。ほら、こういち、とか、こうすけ、とか」 「あー」 ビールグラス片手に天井を見上げ、口を開けてるコウ。 (...イケメンっちゃイケメンなんだけど、たまにバカっぽいんだよな。サトルは完全にバカだけど) 声にせずとも、ユウもダイチもそう考えながら、次、何食べる?とメニューを見合った。 「こうじ。光るに司、て書いて」 途端、すごーい!と光が甲高い声を上げた為にユウとダイチだけではなく、光やコウの周りも一瞬、体がビクッと跳ねた。 「一緒だ!俺もヒカル、て光る、のヒカルなんです!」 「え、あ、そう...」 光、と言えば、その漢字しか浮かばないが、と周囲は思ったに違いない。 「ユウさんは?ユウさんはなんですか?名前」 突如、光に振られ、 「俺?」 と、ユウから素っ頓狂な声が出た。 うんうん、と酒で少しピンクがかった笑顔でしきりに頷いている光がいる。 その隣のコウはそんな光をまじまじと見ているが。 「俺はゆうき。オスの雄に樹木の樹」 「オス?」 光がきょとん、とした後、屈託なく笑った。 「オスって!面白ーい!ユウさん!」 きゃはは、と笑う光はホント可愛いなあ、とユウもまた見つめた。 「飲みすぎなんじゃねーの、光。酒、弱い癖に」 ダイチの醒めた声に、ユウの顔が強ばった。 「...随分、光くんに詳しいみたいな言い方」 「そりゃ...友達だから...?」 元彼だからだろ、とユウはダイチの冷酒を取り上げ、睨みつける。 「あー、光はバーで勤めてたよね?今度、行こうかな」 コウがにこやかに光に話しかけた。 「いいですけど。二丁目ですよ?新宿二丁目」 しん、とその場が静まった。 ユウとダイチ、コウと光以外はそれぞれ酔っ払い、聞いてはないが。 「し、新宿二丁目...?」 「はい。あ、でも、売りとかそんなんじゃなくってー。料理も美味しいですよ、カクテルも豊富だしー。ママはよく喋るけど」 「ま、ママ」 ケラケラと笑う光と違い、コウが固まってしまっている。 「ママ、て言っても男なんですけどね、あ、ママに知られたら怒られちゃう」 きゃは、と光は笑い、お代わりくださーい!と店員に声をかけた。 「...ねえ、ダイチ。光くん、てあんな感じなんだね...意外」 「...酔うと、ああ。普段は...そこまで変わらないか。ちょっと我儘なくらいで」 「ふうん...可愛いと得だな」 「可愛い?あいつが?」 うん、と冷酒を小さく飲み、頷く。 「...可愛いのはお前の方じゃん?」 途端、顔から火が出たかと思ったユウだった。

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