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第2話

俺の足は自宅のマンションではなく、自然と電車を降りると歓楽街に向かっていた。 ちらほらと居酒屋も開店し始めている。 人波を縫いながら、俺は1軒の居酒屋の引き戸を開けた。 炭火焼きの匂いが鼻を掠める店内のカウンターに案内され、とりあえずは生を頼んだ。 店内は数人の会社員らしきスーツ姿の団体ばかり。 「お待たせしました」 バイトだろう若い女の子がキンキンに冷えたビールジョッキと突き出しをテーブルに置くと、俺は一気にビールを喉に流し込む。 顎を上げ、瞼を閉じ、あっという間に半分以上を一気に飲むと、ジョッキを叩きつけるようにテーブルに置いた。 はあ、と息が漏れる。 酒を浴びるだけ飲んで、記憶を飛ばしたい。 全て、夢だったと思いたい...。 「飲みっぷりがいいね」 不意に笑みを含んだ声で我に返る。 声を辿ると、隣の席のスーツ姿の男性がグラスを片手に俺を目を細めて見つめ、微笑んでいた。 体にフィットしたグレーのスタイリッシュなスーツ、ネクタイも品が良く、男前だな、と思った。 「...飲まなきゃやってられない、て感じで」 視線をテーブルに戻し、残り僅かなジョッキを見据える。 「まあ、若いと色々あるよね」 そう言うと、男性はハイボールらしいグラスを傾けた。 年齢的には30はいっていないだろう。 落ち着いた感じから既婚者か?と左手を見たが、指輪はなかった。 俺はビールを飲み干すと、メニューを手に取り、視線を走らせた。 「すみません」 すぐにバイトの女の子がオーダーを取りに走って来た。 「日本酒を」 「日本酒ですか?銘柄はどうされます?熱燗だとか冷やだとか」 そう聞かれても、今まで日本酒なんぞ頼んだことのない俺はちんぷんかんぷんで、再びメニューに視線を落とす。 「ちょっと。大丈夫?君」 「大丈夫です」 隣の男性が咎めるのを無視し、女の子におすすめを尋ね、彼女は、かしこまりました、と笑顔で会釈し、他のオーダーを取りに声を上げ走っていく。 その背中を目で追った。 美由と別れたばかりで、特に何も感じはしない。 ただ、良く働くなあ、と感心するだけだ。 「飲めるの?日本酒なんて」 「平気です。未成年じゃあるまいし」 「見たところ、大学生?」 「はい。三年です」 「なら、ハタチか21?若いなあ」 きょとん、と俺はその横顔を見つめた。 「...お兄さんも若いじゃないですか」 えー?と男性は肩を上げて笑い、 「もう三十路だよ、三十路。27なんだ」 「へえ...会社員、ですか?」 「うん、まあね。あ、俺も飲み物、もう無いや。俺もたまには日本酒もいいか」 すみません、と男性はバイトの女の子を呼び、慣れた様子で俺とは違う酒を頼んだ。

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