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3. 踏みにじられて

 この寮に住み込みで働いてる寮長のおっさんは、えこひいきするキモい奴。俺は割りと嫌われてる方らしくて、部屋が汚いとかでしょっちゅう注意されてる。  でも、今日はちょっと様子が違った。放課後、部活は行かんと寮長室へ来いって。よっぽど何かあったんやと思ってビクビクしながら部屋に入った。 「失礼します」 「おう、桃山。すまんな、部活休ませて。まぁ、そこ座って。茶飲むやろ」  なんか怒られるんかと思ったら、寮長はニヤニヤ笑いながらそう言った。いつもと雰囲気が違う。不気味やったけど、言われるがままソファに腰を下ろす。 「……なぁ、桃山。俺の仕事は、お前らの健全な生活を守ることや。せやからまぁ、お前らが変なことしてたら、黙って見過ごすわけにはいかへんのよ。わかるよな?」  寮長は湯呑をテーブルに置くと、なぜか俺の向かいじゃなくて隣に座った。それから、ポケットから取り出したスマホを俺に見せる。 「それでな、桃山。……お前、これ何かわかるか?」  動画や。誰かの部屋ん中。男二人が手繋いで、キスして……って、これは、こないだの俺と伏見先輩の……。 「え? は? 何でこんなん……」  ずしっと肩に重みを感じる。俺を腕の中に抱き込んだ寮長は、耳に息を吹き込むようにして聞きたくない名前を口にした。 「三年の伏見やな? お前ら、部屋で何してん?」 「し、知りませんっ。そんなん。俺らちゃいます!」  咄嗟にその腕の中から逃げ出して立ち上がる。テーブルに膝が当たって、揺れた湯呑からお茶が零れてその場を濡らした。 「知りません、てなぁ。桃山。これ、お前の部屋やで」 「ちっ……そ、そうやとしても、そんなんプライバシーの侵害やん! 大体、部屋行き来すんのは問題ちゃうやんけ!」 「おぉ。せやな。……それなら、お前は何を焦ってるんや?」  寮長も立ち上がり、壁際のキャビネットから袋を取り出して俺の足元に投げつける。ガチャンと音がして転がり出てきたのは、引き出しの奥にしまい込んだはずのローションとかゴムとか。 「そんなもん隠し持って、(なん)も悪いことしてへんって言えるんか? 子供が持ってていいもんちゃうやろ」  顔から血の気が引いていく。 「言い訳があるなら聞いたるけど……。そういや伏見は推薦決まってたよなぁ。進路、考え直しになるかもなぁ」  膝が震えて、立ってることもできへんくて、俺は床にへたり込んだ。 「許してください……。ほんまに、ほんまに先輩は何もしてへん。ちゃうんです。俺が全部悪いんです」 「どういう意味や? お前ら、二人でベッド入ったやろ」 「せやけど……。先輩は、先輩は途中でやめよって言って。やから俺が一人でしてただけなんです。それ、使ったんは俺だけで」 「一人でって何やねん。ようわからへんなぁ」  頭が回らへん。どうしよう。俺が一人で勝手にこんなん用意したせいで、先輩の人生が台無しになったら。 「とにかく、先輩はほんまに悪くないんです。俺が誘ってもうたんですけど、でも結局何もしてなくて」 「……ほぉ。そうか。まぁ、詳しいことは伏見にも聞いてみなな」 「待ってください!!」  寮長の足に縋りつく。 「先輩には……先輩には言わんとってください。俺が全部責任取りますから。やから、先輩には……」 「そういうわけにはいかんやろ。伏見は誘われただけやとしても、それを受け入れたら共犯や」 「せやから、受け入れてないんです!!」  ゆっくりと、分厚い手のひらが、太い指が俺の頭を撫でて、前髪を掻き上げた。 「ほんなに()うんなら、証拠見してもらおか」 「……証拠?」 「せや、桃山。お前が伏見とも、誰ともセックスしてないっていう証拠や」  どうするんが正解かなんて、俺にはわからへんかった。でも、もうこれ以上、先輩に嫌われたない。迷惑掛けたない。こん時は、それしか頭になかった。 ◇◇◇  寮長室の奥、普段寮長が寝泊まりしてるらしい和室は想像以上に汚かった。普段、俺らがベッド整えんかったらすぐ注意してくるくせに、布団は床に敷きっぱなしやし、食べ散らかしたゴミとか、灰皿とかがその辺に当然のように転がってた。  寮長はちっちゃい椅子に腰掛けると、俺を目の前に立たせて、上から下まで舐めるような視線を寄越した。 「脱げ、桃山」 「……脱ぐんですか」 「そうや。上も下も、全部」  ブレザー、セーター、カッターシャツ、アンダーシャツ、ベルト、ズボンを順番に脱いでいく。部屋の隅に落ちてる雑誌の表紙は水着のグラビアアイドルで、当然女や。このおっさんは、男の裸になんか興味ないはず。別にそういう意味で俺を脱がしてるんじゃないはず。 「ぱ、パンツも脱ぎます……?」 「当たり前やろ、お前。脱がな確認できへんやろ」  何をどうやって確認するんかなんて、今さら聞かれへんかった。逆らったら、何か隠してると思われるかも知れん。  男に全裸見られんのなんか、寮生活で慣れっこや。せやのに、なんでこんなに気持ち悪いんやろ。 「こっち来い、桃山」  一応前を手で隠しながら、寮長の方へ一歩近づく。もう、靴下しか残ってへん。 「見えへんやろ。手どけろ。もっとこっち来い」  腰を引き寄せられて、俺の股間を寮長の鼻先に突きつけるような形になる。寮長は俺のナニを指で摘まんで、皮を引っ張ったり、ふにふにと折り曲げたりしてしばらくいじくってた。 「フン。ションベン臭いな。まぁ、これは童貞ってことにしといたろかなぁ」  最後にピンと指で弾くと、今度はケツを揉み始める。 「桃山、お前、自分で浣腸できるんか?」 「……え」 「お前の持ち物ん中にあったやつ、使いさしやったやろ。自分で使(つこ)たんかって聞いてんねん」 「……そ、そうです」  寮長はケツを揉んでた手を止めることなく、顔を上に向けて俺の目を真っすぐ見て、にやりと笑った。その笑顔に、背筋がゾッとする。 「ほんなら、それ証明してみぃ。今から浣腸してみせろ」

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