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4. 嬲られても
人前で見られながら浣腸したとかありえへん。しかも全裸で。和室の隣の寮長専用のトイレで、ドアを閉めることも許されへんくて、恥ずかしいしムカつくし腹痛いしで、ほんまに人生最悪の経験やった。中のもん全部出し切った後、ウォシュレットでそこを洗ってフラフラになって立ち上がる。寮長はそんな俺を押し退けてトイレで用を足した。
「んじゃ、ケツの穴見せろ」
適当に洗った手をプラプラさせて水飛ばしながら、寮長は床に座る俺を見下ろしてそう言った。
「聞こえんかったか? はよ四つん這いなれや」
屈辱的っていうんは、たぶんこうゆうことを言うんやと思う。従うしかないから、言われた通りに布団の上で四つん這いになったら、思いっきりケツを蹴り上げられた。
「いたっ……」
「おい、桃山ぁ。お前、今舌打ちしたやろ?」
「えっ……いや、してません。そんなん」
「なんや、お前。俺に嘘つくんか」
「ち、ちが……」
「謝れや。桃山」
乱暴に髪を掴まれる。目の前まで顔を近づけられるとむっちゃ息が臭くて、思わず視線を逸らした。
「ほんまに……俺、そんなんしてません……」
「まだ言うんか。ほんなら、もうこれで終わりや。服着ろ」
「え」
突然、手離されて前につんのめったまま、俺は慌てて振り返る。
「終わりって、どうゆうことですか?」
「そのまんまや。終わりや。あとは伏見に聞く」
「ま、待ってください。だから先輩は何も……」
寮長は床に胡坐かいて煙草に火着けると、ふーって煙を吹きかけてきた。
「でもお前、嫌なんやろ? 俺に証拠見せんの」
「い、嫌って、そんなん、だって……」
「舌打ちまでされて、俺も腹立ってんのや。せっかく釈明のチャンス与えたってんのに。それなら伏見に聞いた方がええやろ」
「……そんな」
ここまでしたのに。それに、先輩に話聞くって、こいつは先輩にも同じことやらすつもりなんちゃうやろか。そんなん絶対ありえへん。先輩は何 も悪くないのに。
「はよ服着ろ」
「……嫌です。俺に、俺にもう一回チャンスをください」
「はぁ?」
寮長は灰皿に灰を落とすと、煙草を咥え直して俺に顔を寄せた。
「ほんならお前、俺に謝るんか?」
「謝ります。ほんまに、すいませんでした」
「ほんで?」
「せやから、証拠、見てください」
「ケツ見せながら言えや」
頭をはたかれながらも、俺はもう一度四つん這いになると、寮長の方にケツを向けた。
「み、見てください……」
「自分で拡げろよ。どこ見てもらえばいいかわかってんねやろ?」
人生最悪の経験は、さっきの浣腸やと思ってたのに。
「こ、ここです。俺の、ケツの穴見てもらったら……」
見てもらったら、何がわかんねん。何もわからんやろ。何やねん、これ。
「はっ。桃山。お前、結構おもろいな。そんなに伏見のことが大事か」
寮長の指が穴に触れる。
「おとなしゅうせぇよ。実際、見るだけじゃわからんのや。こうやって触ってな……」
「うっ……」
何も濡らしてない穴に太い指が容赦なく入り込んできて、ぐにぐにと内壁を押し拡げる。声を堪えるために、俺はぐっと奥歯を噛み締めた。
「奥の奥の方まで確認せなわからんねん。お前がサラピンかどうかは。……なぁ、桃山。我慢できるか?」
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。もう嫌や。やっぱやめたい。いや、でも、俺は……。
「返事はどうした? できへんのか?」
「……で、できます」
「よう言うたな。ほんなら、俺もお前のために頑張ったるわ」
◇◇◇
両腕を背中側で縛られて、口ん中に薄汚れたタオルを詰め込まれる。これも、俺のためらしい。暴れたり、大声出したりしてもうたら、ちゃんと確認できへんからって。
「一応解したるわ。まぁ、せっかくやからお前も楽しめよ」
寮長はうつ伏せになった俺の膝らへんに座って、ローションを垂らしながらでたらめにケツを揉みしだいた。
「それにしてもうっすいケツやなぁ。ガキ臭くて何もおもろない」
「んぅっ……」
散々触っといて何やねん、と思った途端に指を挿れられる。自分でするのとは全然違う。圧倒的な異物感。
「ん、う……」
「こらこら、力入れんな。リラックスせぇよ」
寮長は空いている方の手を後ろから股に差し込んで、俺のモノを弄り始めた。
「さすがに萎えてんなぁ。ほんまにつまらん。……伏見に触ってもらえへんのもしゃーないよなぁ」
竿と玉を転がすみたいにして触りながら、中に入れた指で何かを探すみたいに内壁を押し拡げていく。
「くく、伏見の名前出すとちょっと締まんねんな。いっつも『先輩、先輩』言いながらシコッてるもんなぁ?」
は? 何の話や。
振り返ろうにも、聞き返そうにも、俺には何の自由もなかった。
「あー、キッツ。指一本でそんな締めんな。何? まさか、部屋撮られてんのがあの日だけやと思った?」
「んンッ……」
強い刺激が腹の奥の方から下半身全体に駆け巡る。寮長の指が身体の中の敏感なとこを何度も何度も指先で押し潰して、それと同時に竿を前後に扱き始めた。
「ぜぇんぶ知ってるわ。お前らのこと、もうずっと前からな。お前があの日、伏見に挿れてもらえんで泣いとったんもなぁ」
「う゛っ、んんッ」
「暴れんなって。今さら抵抗してどうすんねん」
ローションがグチグチと音を立てる。こんなことのために、友達に譲ってもらったんじゃない。伏見先輩と一つになれると思ったから、俺は……。
「桃山、お前、俺に感謝せぇよ。伏見にしてもらいたかったこと、全部代わりにやったるからな」
寮長 の手の中で、自分のモノが硬くなってるのがわかる。悔しくて悔しくて死にそうやった。気持ちよくなんかないのに。興奮してなんかないのに。
「はー、さすがに若いな。もうガチガチや。イってええで。桃山」
「んっ、ぅんんっ……ん……」
「なんや? お前、泣いてんのか? 泣きながらイクとか、どんな変態やねん」
腰が震える。自分がほんまに涙流してるかどうかなんて、もうわからへん。ただただ消えたかった。この場から、いなくなってしまいたかった。
「自分だけイってヘバんなよ、桃山。こっからが本番や」
おっさんはべったりと精液の付いた手を俺の太ももで拭いながら、気色の悪い声で笑った――。
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