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5. 地獄の底から
あの日から、俺は頻繁に寮長 に呼び出されるようになった。登校前でも、部活終わりでも、消灯時間の後でも、呼ばれればいつでもあの臭くて汚い部屋へ行って、服を脱いでケツを差し出す。おっさんのチンコも乳首もケツの穴もしゃぶったし、俺もしゃぶられた。伏見先輩と俺がイチャついてる動画がある以上、俺はあいつに逆らえへんかった。
伏見先輩からはいっぱいメッセージ来てたけど、結局一つも返事できへんかった。もう見るのも辛いから、今はブロックしてもうてる。寮内で顔合わすこともあるけど、話し掛けられる前に逃げ出してる。
「桃山、帰ってきたで……って、ビチャビチャやん。よう感じるようになったなぁ。若いってほんまええわ。何でも吸収しよる」
部活のない日曜日。朝から呼び出された俺は、いつものように全裸で腕縛られて、目隠しされたまま放置されてた。乳首にはローター、股間には電マ、ケツの中には複数のローターとアナルパールとかいうオモチャが使われてる。どんくらい時間が経ったんかわからへんけど、帰ってきたおっさんの口はカレー臭かった。
「どうや? 何回イッた?」
目隠し外されて、天井の光の眩しさに思わず目を細める。おっさんはそんな俺を見て、嫌そうに舌打ちをすると乳首をローターごと捻り上げた。
「っ、あ……痛……」
「なんや、お前。まだ俺のこと睨む元気あるんか」
「ちが……違います。ほんまに、もう許してくださいぃ……」
実際、もう何回もイッてて限界やった。体中の粘膜が敏感になりすぎててヒリヒリする。
「ごめんなさい、やろ? ちゃんと謝れよ」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ほんまに、もうしません」
「……まぁ、今日は許したろ。ほら、しゃぶれよ。喉乾いたやろ」
縛られたまま、何とか顔を持ち上げておっさんが取り出したモノを口に咥えた。体勢を変えたせいで、身体に触れるオモチャの角度も変わって刺激が増す。
「うまそうにしゃぶるやん。もうすっかり俺のチンコの虜やな」
うまいわけがない。苦くて、しょっぱくて、何よりめちゃくちゃ臭い。アンモニア臭とかイカ臭さとか、そんな単純なもんじゃない。この世の臭いもん集めて煮詰めたみたいな、そんな感じや。それでも、早くこの時間を終わらせたくて、俺は鈴口も皮の内側も金玉も全部舐める。
「あー、気持ちええわ。このまま一回……」
その時、扉をノックする音が部屋に響いた。それから、「失礼します」という声も。
「チッ……。誰やねん、こんな時に」
おっさんは腹いせに俺の肩を蹴り飛ばすと、立ち上がって寮長室に面した窓のカーテンを覗き込んだ。ぼんやりとその光景を眺めていた俺は、こっちに視線を戻したおっさんの不気味な笑顔に息を呑む。
「おぉ、よかったなぁ、桃山。伏見先輩が来てくれたで」
「な……」
屈みこんで俺の身体に手伸ばすと、おっさんは全部のオモチャの振動を強くした。
「んンッ……!!」
「ちゃんと声我慢せぇよ。伏見が気付いて入ってくるかも知れんからな」
急に押し寄せる刺激に、唇を噛んで声を殺す。何回もイッたはずの身体は再びゾクゾクと疼き始めて、全身の血液が、光に群がる虫みたいに敏感な場所に集まっていく。
「おー、伏見。どうしたんや。俺に用か?」
「はい。この書類に寮長のサインが必要で……」
わざと薄く開いたままにされたドアから聞こえてくるんは、紛れもなく先輩の声やった。
そこに先輩がいる。絶対にバレたらあかん。そう思えば思うほど、心臓の鼓動はどんどん速くなって、快感の波が押し寄せてくる。
「サインいるんはこの一枚だけか?」
「はい、それだけです」
「あー、このペン、インク切れてるわ。ちょっと待ってな……」
早く帰ってくれ。もう無理や。我慢できへん。
俺は首を捻って枕に顔を押し当てると、力いっぱい唇を噛んだ。その瞬間、腹の奥に溜まってたもんがブチ撒かれるみたいにして、腰が大 きく跳ね上がった。
「……んっ……ンぐぅっ……!!」
くぐもった声は途中で途切れる。一瞬だけ意識が飛んで、どれくらいの大声が出たんか自分でもわからへん。
「んっ……ふう……ふぅ……」
息もますます荒くなって、それだけでここに人がいるって悟られそうで怖かった。
「よし、これでええか? ハンコは?」
「ハンコはいらんらしいんで、これで大丈夫です。では……」
バレてへん。大丈夫や。早く。もう、次は声我慢できるかわからへん。
「あ、ちょい待て。伏見」
「はい?」
何でや。はよ帰らせろ。あかん。あかん、またイク。止まらへん、無理……!!
「んんン゛ン゛ッ……!! ん、ぁ、あ゛……」
腹ん中がビクビクと痙攣し続けて、口ん中に血の味が広がる。息するごとに絶頂してるみたいで、目の前が白くなったり黒くなったりして、もう何 もかもどうでもよくなりそうやった。
「――桃山ですか?」
突然、先輩の声が耳に届く。その声で久しぶりに呼ばれた自分の名前に、ハッと我に返る。
「桃山がどうかしました?」
「いや、あいつ最近元気ないやろ。伏見は仲良かったから、何か知ってるか思て」
身体はまだ絶頂の余韻と予兆に揉みくちゃにされてんのに、意識だけは外に向く。
何で俺の話してるんや。何を……。
「あー……実はちょっと前、喧嘩みたいになって」
「お前らが? 珍しいな」
先輩が何て言うんか知りたい。俺のことどう思ってんのか知りたい。
「いや、でも、俺が悪いんです。連絡もずっと無視されてて……。早いとこ謝らなって思ってんのに、なかなかきっかけもなくて」
辛そうな声に、胸の奥がぎゅってなる。違う。謝らなあかんのは俺の方やのに。
「そうか。まぁ、何があったかは聞かんけど、あいつも意地っ張りやからな。伏見のが先輩やし、そう思ってんならお前から声掛けたって」
「はい。……あ、今日あいつ見ましたか? 昼、食堂におらんくて……」
「あー。なんか親御さんと用事あるって朝出掛けてったで。ちょっと待ってな」
最悪な状況やのに、俺は心の底からホッとしてた。先輩に嫌われてなくて、それどころか、歩み寄ろうと思ってくれてんのが嬉しくて。
「うん。一応予定ではもうすぐ帰って来ることなってるわ。帰ってきたらお前の部屋行くよう言っとこか?」
「……いいんですか?」
「おう。さっさと仲直りせぇよ」
先輩の「失礼します」の声と、扉の閉まる音がして、足音が遠ざかっていく。
おっさんは部屋に戻ってくると、腹抱えて笑いながら、オモチャのスイッチを一つ一つ切って取り除いていった。
「桃山、お前、声全然我慢できてなかったで。くっさい臭いもしてるし。まぁ、伏見が天然で助かったな。ネズミか何かやと思われてるやろ」
「ん、ふ、アッ……」
ケツの中から最後の一個のローターが引き抜かれて、ようやく俺は地獄から解放される。
「聞こえてたやろ。お前、これから伏見んとこ行って仲直りしてこい。俺がそのための準備したるわ」
咥えるもんがなくなってヒクつく穴を見ながら、おっさんは嬉しそうにそう言った。
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