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6. 見上げた空の下で
「し、失礼します……」
先輩とまともに顔を合わせるんは、あの日以来やった。
「おー、モモ。ごめんな、急に。……ってか、そんな畏まらんでも。今俺一人やから」
宿題でもしてたんか、机に向かってた先輩は、立ち上がって俺をドアのところまで迎えに来た。
「モモ、今日来てもらったんはな……って、あれ? なんか、大丈夫か? 唇、血出てる。それに顔赤いで」
急に頬っぺたに触られて、その手の冷たさに思わずのけ反る。
「いやっ、大丈夫ですっ……。その、ちょっと走ってきたから、コケてもて……」
「え? 大丈夫か? てか、何で走ったん?」
「りょ、寮長に言われて……先輩が待ってるって。やから、その、急いで……でもほんまに大丈夫です!」
俺の言い訳を聞いた途端、先輩は噴き出して笑うと、ぎゅっと手を握ってきた。
「モモはドジやなぁ。あ、ほんまや。手もあったかいわぁ。別に全然、走らんでもよかったのに」
困ったみたいに眉を寄せながらも、嬉しそうな顔。ほんまに、大好きや。ずっと先輩のこんな顔が見たくて見たくて堪らんかった。
「モモ。あんなぁ、今日来てもらったんはなぁ……俺、どうしてもモモにちゃんと謝りたくて」
それやのに、俺は。
「ごめんな。モモ。あん時は、俺が悪かった。ほんまごめん」
俺は……。
「まさか、モモがそこまで考えてると思わんくて、びっくりしてもうてん。ぶっちゃけ、お互い卒業するまではそうゆうことせんやろって思ってたから」
寮長 の言いなりで。
「それに、実は俺そうゆうん初めてで、やり方とかもあんま知らんくて……。カッコ悪いん嫌やって、やからあんな風に……。でも、それでモモのこと傷付けたよな。ほんまごめん」
今も、俺の身体の中には……。
「モモが俺と先に進みたいって思ってくれてたことは、ほんまに、ほんっまに嬉しかった。でも、モモが怒ってるんもわかってる。謝って済むことじゃないかも知れんけど、もしモモが今でも……」
「先輩。もうやめましょ、その話」
「え?」
頭に血が上るんは、自分の不甲斐なさのせいや。何でこんな、何でこんなことせなあかんねん。何で先輩のこと傷つけなあかんねん。
「もういいんです。俺、やっぱそういうん無理です。男同士でとか……無理でしょ」
「え? 待って、どうゆうこと?」
「やから、俺が男やから嫌やったんでしょ? 男に挿れるんとか気持ち悪いって思ってるんでしょ?」
「はぁ? そんなん思ってへんよ。何で? 何でそうなるん?」
先輩の顔が見れへん。払い除けたはずの先輩の手は、また俺の手を掴もうとしてくる。
「落ち着けって、モモ。思ってへんよ。そんなん、もし思ってたらモモの告白受け入れてへんし。俺、ほんまにモモのこと好きやし、大切に……」
「触らんとってください!!」
思わず叫んでしまったことで、腹の底にぐっと圧力が掛かった。そのせいで、さっきまで弄られててまだ敏感なままの部分が、じわりと熱くなる。中のもんが出てきてしまわんように意識すればするほど、むず痒さともどかしさが募る。
「もう、もう俺のことはほっとってください。無理です。無理でしょ? 別れましょう。何 もかも終わりにしましょ」
ほんま情けない。こんな方法しか見つけられへん自分が、大っ嫌いや。
「モモ……」
でも、限界や。これ以上、ここにはおられへん。これ以上、先輩のこと好きなままではおられへん。先輩の顔も、匂いも、声も、もう何 もかも忘れたい。こんなんしてたら頭おかしなる。
「モモ、ごめん。ほんまごめん。俺、何回でも謝るから、何でもするから、やから……」
「それなら、もう二度と話し掛けんとってください。さよなら」
「モモ!!」
俺の名前を叫ぶ先輩の声を無視して部屋を飛び出した。人がいるのも構わず廊下を走り抜けて、トイレの個室に駆け込む。
息を整えようとしても無理やった。嗚咽が込み上げてくるのと同時に、ケツん中がむずむずする。いっそこの場でソレを取り出そうと思ったけど、あいつにバレたらどうなるんか考えたら怖くて何もできへんかった。
◇◇◇
「なんやねん。せっかく俺がチャンス作ったったのに、仲直りセックスできんかったんかぁ。ん? せっかくすぐヤれるようにしたったのになぁ」
いつもの部屋で、いつもの格好で、四つん這いになった俺の身体をおっさんが撫でる。
「残念やなぁ。また伏見にフラれたんか。俺からあいつに、お前のナカがどんだけ気持ちいか教えたろか?」
「もう……もういいでしょ。先輩のこと、何も言わんとってください」
「なんや、えらい反抗的やな。ケツにこんなもん入れてよう言うわ」
ぶら下がったチューブをおっさんが引っ張ると、それに釣られて俺の腰も動く。挿入してからポンプで風船みたいに膨らませたソレは、入り口のとこで突っかかってそう簡単には抜けへんみたいや。
「あぅ……は、早く、抜いてください。そんなん」
「まぁまぁ。もうちょっと伏見との話聞かせてや。あいつ、何て言ってお前をフッたんや」
「俺の方から別れましょ言うたんです。だからもう、先輩のことは……」
「へぇー! 桃山、お前そんなに俺のチンポがええんか」
おっさんが前に回り込んで俺の顔を覗く。何回見ても腹の立つ、この世で一番汚い大人の顔。
「そうかぁ。やからもう伏見のことはどうでもええんかぁ」
ガシガシと乱暴に俺の頭を撫でてから、おっさんは嬉しそうに笑った。
「それなら、今日はいつもより気持ちいいセックスしたろ。ほんまもんのセックスや」
「あっ……」
ケツの中に入ってるもんの空気が抜けて、圧迫感が開放感に変わる。それと同時に、先輩と会う前に中出しされた精液とかローションが隙間から漏れ出ていくのを感じる。
「トロットロやなぁ……。ぐっしょり濡れて、その辺の女よりよっぽどエロいわ」
濡れた部分に空気が触れて、その冷たさにゾクゾクする。
「桃山、今日は仰向けや」
嫌や。
「そんで、お互いの顔見ながらヤろう」
嫌や。そんなん。
「キスもしたるし、その小 さい乳首もいっぱい弄ったるわ」
嫌や。そんなんやりたない。
「ほら、はよ仰向けなれや」
嫌や。そんなんやりたない。俺は絶対――……。
心の中で何を思っても、どれだけ抵抗しても、もう何も変わらへん。硬い布団に背中を預ければ、薄汚れた天井と、大っ嫌いなおっさんの顔と、今まで何度も俺の中を出入りしたモノが目に入る。
「まずはしゃぶれ。その後挿れたるわ」
舌を伸ばしながら、腹の奥が、ケツの中が、何かを求めてヒクヒクと疼くんを感じとった。
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