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番外 後退けぬ穴*(尿道開発、小スカ)

 いつものスイの部屋で、使用人カナイも帰宅し二人きり。睦言にも猥談にも遠慮のない状況。相談があるんだけど、と切り出されたときにはもう、クノギはその相談事が行為に関するものだと察していた。何故ならスイはいつものあの面持ちでそわついた素振り、視線を浮かせて言いづらそうにしたので。  その表情はとてもそそる。クノギにも欲を移してその気にさせる。  二人が恋仲となって、関係の確認をするように積極的に触れるようになってからは久しぶりの間合いだった。なのでクノギも少し浮かれたような気分で微かな緊張感を味わい、話を待っていたのだが。 「……その、尻じゃなくて、性器のほうの穴も、挿れると気持ちいいんだって聞いて。その。手伝ってくれないかな、と」  ――ニビには今度苦情を言おう。  男同士の恋愛や猥談を城では話せないスイと、他の客との会話にも使える諸々の雑学を教えてもらうのが楽しいニビと、会話の需要も合って度々飲み屋で会っては仲良く飲んで遊んでいるとはクノギもスイ自身から聞いていたが。純朴そうな顔をした恋人にこのよからぬ知識を吹き込んだのもあの男娼に違いなかった。 「ちん……――そっちの穴?」 「なんと言っても性器なわけだし、奥の……根の部分にそういうのを司ってる臓器があると解剖書にも載っていたから、納得はいくというか」 「……何を挿れるつもりだ?」 「買ってきてあるんだけど。ニビさんが店を教えてくれてさあ、品揃えがすごくて――」  仕事場――この街で一番、国内でも五指に入る所蔵の書庫を使って医学書で裏付けをとり、道具を買ってきてしまったのはスイだが。  性欲旺盛な恋人に否定的な態度はとるまいと平静を装ったクノギの確認にも返事は迷いない。恥じらった雰囲気とは逆に――その誤魔化しにか、幾分かの早口でそそくさと動いて物を取っては彼の横へと座りなおす。  いつものようにシーツの上に広げられた包みの中、お馴染みになってきた張り形と共に仕舞いこまれていたより細身の布のケースを開けば、細長い金属の棒が現れる。先端は丸くよく磨かれて、身近な品で言えば編み棒や耳かきに似ていたが用途は先に述べていたとおり。挿れる場所は耳ではなくて陰茎だ。摘まみ上げるペンだこのある指よりずっと細く変哲の無い見目をしているが、そう思うと妙に存在感を放っている。  クノギは逡巡する。  なんでも相談してくれるようになったのはとても嬉しい、友人兼恋人として名誉にさえ思うが。それは隠しておかなくてよかったのかと心配にもなる。まったく妙なところで堂々とする。 「……一人でやろうと思わなかったのか?」  いや、既に一人で試した後だろうか。そう考えながら問うた彼に、スイはまた数秒言いづらそうにした。 「貴方のほうが器用というか、上手いかなと」 「ふーん……」  反応の鈍いクノギを不安げに窺いながら、新しい玩具を揺らして呟く。褒められているのだろうが複雑な気分でクノギは間延びした相槌を打つ。再びの逡巡。  以前に、我慢をするなと伝えた手前もある。頼ってもらえた喜びと見栄、スイの欲を叶えたい気持ちで秤が傾きつつある中、未開発の場所を暴いてみたい自身の欲求が擡げる。  尻のほうだって知らぬ間に一人であそこまで開発してしまった恋人だ。乳首だってもうかなり感じるようになった。ここで断って放っておいたら今度こそ隠して一人でやるだろう。道具だって手元にあるのだから好奇心を抑えてはおけまい。  それならどうせなら、自分もそこに与してしまいたい。 「いいぞ、手伝ってやる。期待に沿えるかは……俺よりお前の体次第だと思うけどな」  多少呆れた揶揄まじりにクノギが答えるとやはり、あのときと同じ安堵と期待が綯交ぜになった薄青の瞳が見つめ返した。クノギはこの顔にも弱い。いや、大体全部に弱いのだ。  漏らしちゃうほどイイ、などとも言われていたスイの提案で今日は浴室で遊ぶことになった。床は硬いし些か寒いが、浴室のほうが証拠隠滅は簡単だ。そうなるかもと知った上でも試したい、頼んできたというのがまた、その貪欲さと恋人への許容を表していてクノギの欲を煮立たせた。  スイだけすべて脱がせて、クノギは服を着たまま浴室に入る。これはクノギの提案だった。触れ合うにも少し余裕ができてきた近頃、興奮を高める意図だった。一方的に触れられるのだと意識することで昂る体をスイも分かっていたので強くはごねない。今日は付き合わせているという気負いもあって、何もかも素直だ。  言われたとおりに風呂椅子に腰かけて待つのも大人しい。所在なさげに湯を張っていない浴槽やまだ乾いた床を見つめては、期待する体を宥める。  薄暗い浴室で緊張している白い背に目を細めながら、クノギは支度を始めた。共に買い求めたという軟膏を玩具に塗りこめる。そうして触れてみると思ったより太く長く感じられてクノギのほうも緊張してきたが、やっぱり止めようという冷静さは欠いていた。  そっと膝立ちに背に寄って、髪を結い纏めたままで晒された項に口づける。粟立った肌は熱い。  冷えるしどうせなら体も寄せたいのでこの体勢でと、背後から抱きしめる格好で濡らした玩具を見せてやると、ごくと喉を鳴らすのが間近のクノギにも聞こえた。 「興奮してんな」  空いた左手で腰から足の付け根を擽り――肩越しに見遣った前に指摘の言葉を零す。尖った乳首も見えたが、何より股間が如実だった。寒いだけとの言い訳は立たない。  既に半勃ちのそこを掴んで、柔く張った袋と幹を弄ぶ間は僅か。鈴口に指を持っていき、親指の腹で押し上げるようにしてその小さな孔を開かせる。  尿道の狭い粘膜が覗く。何度も体を重ねてきて、指先や舌で愛撫したことはあるし、そのときの反応のよさは知っているが。さてこれはどうかと案じながらクノギは玩具を構えた。 「こんなとこ、ほんとに挿れるか?」 「ん……」  耳にも口づけ囁いて問うが、声は完全に発情を窺わせるものだった。クノギも覚悟を決めなおして先端を宛がう。ひくと腹が震える。  緩く、浅く掻く程度の動きはいつもの刺激と大差ない。そこにも軟膏を塗るようにして、それからつぷりと慎重に沈める。こんなときには見慣れぬ金属の色が、案外に抵抗なく体の内へと潜っていく。 「いつ、っ――」 「やっぱ痛い?」 「思ったより、大丈夫」  痛みを訴える小さな声にはすぐ手を止めるものの、応じたスイは促す風だ。我慢しているというよりはやはり欲が濃く、様子見に緩く棒を回して滑りを広げると体が震える。それを押さえるように背に胸板を寄せ息を合わせながら、クノギは再び手を動かし始めた。 「駄目だったらすぐ言え。自分でやる、ってな。動くなよ」  いわゆるセーフワードの確認にスイは口を抑えて、こくと頷いて体を留める。クノギの腕に縋った手はさすがに常よりも強張っているが、そこ自体は抵抗の術はない。深く、入れられるだけ入っていった。  角度やら刺激の仕方やらはニビから受け売りのスイの説明を聞いていた。スイが期待したとおり、クノギはこのあたり加減を掴んでいて器用で上手い。反応を見ながら動かして無茶に突っ込むことはせずに細い道を開く。 「ぅ、わ……はいってる……」  その様子を凝視するスイの口から微かな声が漏れる。  硬い金属の玩具が、ゆっくりと陰茎の中を満たす。一切触れたことなどない粘膜を擦っていく。熱を持った感触は痛みもあろうが、鮮烈な状況への興奮がそれを上塗りした。そして、 「っ……」  先端が触れ、奥に生じたものに息を詰める。棒の陰茎分の長さが消えて、前立腺に届いた。快感の片鱗が見えた。 「――このへん? どうだ、感じる?」  雰囲気が変わったのを見てとったクノギが挿入から揺する所作に変え弱く小突いてみるのに、スイは何も取り繕えず逃げるように背を捩った。腰は押さえられて動けないし動くのも怖いが、じっとしていられない。 「ほんとに、漏れそ、くる……」  玩具が動くたびに体の内へ抜けて響く、尿意にも似た焦れる快感が走った。 「あ、っ……ん、ぅ――やば、ぁ」  小刻みに繰り返されるほどに強くなる。クノギの指は棒を摘まんでいるだけなのに、体のとんでもなく深いところを抉じ開けられて翻弄される。すっかり快楽を覚えた尻のほうにも熱が広がり腰が痺れるようだった。座っていなければ姿勢を保てなかっただろう。  それに、自分でやったならきっと手を止めてしまっていた。手元が覚束なくもなっただろう。恋人の手はそれがない。もう、もっと、の先をくれるのを、スイは知っていた。 「お前ほんとやらしいな」  如何に恋人相手とは言えど好奇心と性欲に押されて、こんなところを他人に委ねて。  評する声もより染みて、スイの意識を痺れさせた。 「っあ――ひ、待っ、て」  戯れに、玩具を咥えた穴の縁を掻かれる。上擦る声を上げるうちにも奥を突かれ、突き崩されていく。  クノギも久々に、興奮で頭がぐらぐらしてきた。痛そうだと身構えて萎えるのではとも思っていたのだが、ほんの僅かな指先の動きを過敏なまでに拾う様は尻を犯すのとはまた違った征服感を齎した。着衣越しに腰に押しつけながら手を動かす。 「いく、っあ、い……!」  射精の感覚を長く引き伸ばすかのいつもと違う快感にわななき、譫言めいて繰り返す。掌で塞いでいても声と息はまったく御せず、肌を噛んでは身震いするスイの望みどおり、クノギは容赦せずに刺激を続けてやった。 「い、っう、――ん、うぁ……!」  積み重なり、やがて一際に強い衝撃になる。極まって擦れた声を上げ足を強張らせたところでようやく手を止める。  いっぱいに膨らんだ快楽に視界がちらつく中で、玩具は緩慢に間を持って引き抜かれた。灯りの下、こんな物が入っていたのだと示すように生々しく光る。ずると尿道全体が擦れる感触にも引き攣って、その後を追ってじわと熱が通るのをスイは意識の上辺に感じたが、止められなかった。 「ぁ……」  小水は細く迸って腿を濡らし床を打った。抉じ開けられた身はまるで堪えが利かず、尾を引く快感と羞恥の中でクノギの腕を掻き抱く。溜めていたわけではなかったが、普段どおりに少々の酒を嗜んだ後ではとても隠しきれない量だった。  隠す余裕もまるでなかったし、実は端からニビの言葉を口実にするようなつもりでさえいたが。こんな情けない姿を晒すのは自慰では味わえない後ろめたい快楽だ。 「っはー……」  ぴちゃぴちゃと滴る小さな水音が途切れる頃にクノギも詰めていた息を吐きだした。体温で熱くなった玩具を投げ出し、汲み置きの水を遠慮なく使って失禁の後を流す。  初めての尿道開発を完遂して、快楽浸しで前後不覚のスイの身を崩すようにして床へと引き下ろす。前ではなく後ろ、慣れた尻のほうに指を含ませるときつく締めつけた。 「い、や……待ってくれ、クノギ……」 「待たない。無理だ」  冷ややかな水や床の温度に少しだけ身が引き締まったような気でいたが、まだ落ち着いてないとの抵抗は平素に増してか弱く。いつもよりおざなりに慣らして、言葉どおり待ての聞かない物を宛がうクノギに押し切られる。昼にも一人で遊んでいた体は無理なく、硬く猛った一物を吞み込んだ。 「っあ、あ――! っ、あ、ああっ……!」  ぐっと奥まで突き入れられる、それだけで軽い絶頂へと追いやられて浴槽の縁へと縋る。膝に力が入らず腰が落ちると引き寄せられて挿入は一層に深くなる。クノギの腕がさっきまでと同じように回されて、指が鈴口を擦るのに息が震えた。反射的に締めつける体内には欲しかった圧迫感があり――自慰とは違って一息つくような逃げ場はない、さらに強い快感に浚われる。 「まだ開いてる。ここもこんなになるんだな」  玩具の名残がある敏感な孔をくじるように擦られると、突かれていた奥まで響く。腹の中を押しやられるのと同時に、数度扱かれただけで今度は精液が飛んだ。 「は……またイったな、スイ、気持ちいいか」 「ん、ぅん、もちい、――ぁ!」  それでもまだ続く快楽に絶え絶えに答えて喘ぐ。恋人の興奮が直に伝わってくるのに安堵も覚えて目を閉じると、体の表面が冷えてきたのに芯が熱い、自分たちの体がよく分かった。  汗ばんだ首筋に口づけて、クノギも中へと注ぎ込むのにそう時間はかからなかった。  もう一度、今度は二人とも下肢を流して部屋に戻り、冷えた体を温めるべく毛布に包まって身を寄せ合う。道具も片づけて落ち着き眠気も来つつあったが、今日は夜のうちに見送る約束だったので横になるのは避けた。 「ごめん、本当に漏らしたし……貴方は満足した?」  まだ体がじんわりと気持ちいいが、冷静になってくると恥ずかしさも増してくる。自分は思った以上に楽しんだけれど、と窺うスイに、クノギは目元を緩ませた。額に口づける。 「ん。可愛かった」  改めて考えてもなかなか凄いことに付き合わされたとは思うし、恋人といえど甘やかしすぎだろうかと省みなくもないが、今は謂わば蜜月だ。照れて腿を揉んでくるのもそれはもう愛おしい。目の届かぬところでこっそり何かやられるよりは、自分がその欲を満たしたいと思ってしまう。これも欲、独占欲だろうが、恋人ならこのくらいは許されるはずだ。  ――ニビにはやっぱり、感謝を伝えるべきなのかもしれない……。 「今度クノギもやってみる?」 「いや俺はやらんが……――もう一回お前にするのはアリかなあ」  単なる思いつきでの問いかけには即答して、自分も深みに嵌ってきたなとぼんやり思うクノギだった。

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