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 妙に意味深な物言いだ。いつでも理路整然、黒は黒、白は白、そして灰色は灰色、と物事の趣旨を明確にして話す父らしくない。  物思いに耽っていたら、気付けばゲームは一ラック終わっている。六回戦の時点で栄田が四回勝利。ミノルは思わず舌打ちを漏らした。 「あーあ。今日はあかんわ。それともハルオさんがツイてるんかな」 「実力さ、実力。ハンデ付けるか」 「いらん」  今夜は何の騒ぎか学生や社会人の客が多く、壁際の椅子で順番待ちが数組出来ている程だった。「もう僕の負けでかまへんよ」と、さっさとキューをラックに戻す。そのままカウンターでちびちびサントリーのオールドを舐めていた父の方へ身を逸らし、「遊びに行ってきてかまへん?」と声を張り上げた。等閑に振られた手を合図に、ミノルは栄田の腕を引いた。 「ハルオさん、明日なんか用事ある?」 「特には」 「せやったら、もう夜通し遊び倒そ。こんなネクラしかおらんとこやなくて、もっとパーッと」  「ネクラとはなんや」と周りの常連客がヤジを飛ばすのへ笑顔を振りまく。抵抗しないと言うことは、栄田もそろそろ退屈していたのだろう。余りにしょっちゅう店へ顔を出すものだから、それ以外の時は何をしているのかと以前聞けば、パチンコを打つか、映画でも行くか……で列挙が止まってしまったので、全く呆れる他ない。 「そういうとこも意外やなあ」 「趣味を作った方が良いとは分かってるんだ」  ようやく帰宅ラッシュから抜け出した堺筋線で揺られながら、栄田はきまり悪げに頭を掻いた。 「なんと言うか、俺の家はそう言う文化的素養が無い。親父も昔から仕事人間だし、お袋だって暇さえあればテレビだ。小さい頃から歌舞伎に連れて行って貰えるなんて、羨ましいよ」 「ええやん、ちゃんと働いてるお父さん。うちの父親なんて、あんな閑古鳥鳴いてる店でどうやって食うてるんやって、昔から友達に聞かれる度めっちゃ難儀したわ」  南森町で乗り換えて5分足らず。どこ行くんだと尋ねる栄田に、ミノルは店へ辿り着くまで「秘密」と繰り返し続けた。 「大阪のおもろいところ。通天閣とか道頓堀みたいな、お上りさんが観光するとことちゃうで……でも、ハルオさんは東京もんやし、大概の事知ってるかなあ」  角田町へ入った辺りで、夜の空気が濁りを帯び、猥雑な匂いを放ち始めたと感じたらしい。栄田は微かに眉根を寄せる。 「この辺りには来たことが無い」 「嘘やん、もう何日こっちにおるんよ……じゃあ、ちょっとビビるかも。ハルオさん、刺激的なんは嫌い? 怖い?」 「……いや」  それは恐らく最後の言葉への返事なのだろう。有言実行。導かれるまま、寂れたビルに足を踏み入れる時も、栄田は躊躇しなかった。  店は地階にある。小便臭いエレベーターへ乗り込んだ直後、駆け込んできた二人連れに、慌てて擦り切れた「開」のボタンを連打する。  一人は瞼に昔のジュリーみたいな濃いアイシャドウを施し、もう一人はこの季節なのにセーブルの襟巻きを首に巻いて、すっかり得意がっている。ふわふわ、ちくちくした毛皮が間近に迫り、栄田は一歩壁際に後ずさった。ジャケットの肩パッドが耳に付きそうなほど、その身は強張っている。 「ここ……」 「飲めるクチやろ。ハルオさん、ハンサムやし、めっちゃ奢って貰えるで」  ごとんと到着を知らせる鈍い衝撃と共に、傷だらけの扉が開く。次に耳を聾する程の大音量で全身を突き上げて来たのは、グロリア・エステファンの新曲。「シンディ・ローパー流してやあ」とミノルが喚きながら足を踏み入れれば、一緒に乗って来た襟巻きの方が、「これだからミーハーな奴って困っちゃう」とぼやく。  ミラーボールで粉々にされた光の中、『クリストファー』のダンスフロアは今夜も盛況だった。ここは近隣にある似たような趣旨のクラブと違い、トイレへさえ行かなければ店内は比較的綺麗で、壁に貼り付けられた鏡が割れているなんてこともない。客の年齢層が若いのも、全く気楽で良かった。  ここで味をしめた連中は皆数筋向こうのサウナで男を漁るようになる。この店へ通い続けると言うことはある意味、純潔と書かれたシールを身体へ貼っているのと同義にもなり得た──勿論、上手く立ち回り続ければの話だが。  赤い絨毯の上で既に踊るような身のこなしのミノルを呆然と眺めていた栄田は、やがてはっとした顔で後を追いかけてくる。 「ここって!」 「ええ?!」 「ここって!!」  腕を掴んだ手指はまるで鉤爪のように強張っている。どう考えてもラテンのムーブへ身を任せるほど緊張を解けていない男に、ミノルは「ああ」と肩を竦めた。 「せやね。一杯飲んで調子上げよか!」  バーはごった返していたが、幸いミノルは朝の御堂筋線のホームですら、スルスルと人へぶつからず進む事が出来る身のこなしを習得している。無事にカウンターまで辿り着けば、幸い隣に陣取っていたのは20代後半の、この店では少しトウが立ったと言える、真面目そうな男だった。典型的な、傷付くのが怖い年増のネコタイプ。にっこり笑って「僕と、このお兄さんに一杯奢ってや」とねだると、どこか媚び諂うような笑みと共にビールを頼んでくれる。 「俺が払うよ」 「かまへん、かまへん。人様の親切へは素直に乗っかっとき」  まあ僕はあの人の尻へ乗っかることは無いやろけど。内心呟き、グラス入りのバドワイザーをぐっと傾けるミノルへ、栄田はまだ信じられないものを見るような眼差しを突き刺し続けている。 「ここって、ホモセクシャルの店か?」 「うん? ああ、心配せんでも、絶対ナンパしたり、されたりせなあかん訳でもないよ。僕にくっついてたら大丈夫」 「君は、その」 「それな。実を言うと、よう分からんねん」  らしくも無い歯切れの悪さで口篭るのを、眺めて楽しむ悪趣味さはない。さっさと先回りし、ミノルは正直に答えた。クロム素材と大理石で出来たカウンターへしがみつくような体勢の栄田をこれ以上黙って見ていたら、うっかり笑い出してしまうかも知れない。 「女が好きか、男が好きか……そう言う区切り、あんまり意味ないように思えて。好きな人が好き、それでかまへんのちゃう?」 「だが……」 「とにかくここへ来たら、タダで酒飲めるし、何よりも、おもろい人がいっぱいおるやろ。見てて飽きへん。僕、人間観察が好きやから」  その返答に、栄田はほんの少しだけ警戒を解いたらしかった。ビールグラスを取り上げ、ぐいと一気に飲み干してしまう。 「人間観察か」 「ちょっと前まで、将来は俳優になろう思ててんで」 「今からでも目指せばいいのに。君は綺麗な顔立ちをしてる」 「お世辞でも嬉しいけど、ハルオさんに言われたら皮肉に聞こえるわ」  結局その後は栄田に何杯か奢って貰い、彼の方も同じだけきこしめて、すっかり良い気分。難波の赤提灯で牛すじの煮込みを肴に、日本酒3本空けても飲み足りなさそうな顔をしていた男が、今日はすっかりアルコールに酔っている。或いは、周囲の熱気と、四方八方の壁に反響して押し寄せてくる音楽に。一度かくっと頭を仰け反らせ、栄田はハハハ、と一人でに笑い声を立てる。  ええ感じ、とミノルはほくそ笑んだ。こちらが兄貴兄貴と煽てていたせいもあるかも知れない。或いは体育会系らしい矜持のせいか。今まで栄田は、とにかく先輩風を吹かせたがって、どれだけ呑気そうに振る舞っていても、緊張の弦が一本、必ず引き絞られているようだったから。恐らく本人ですら意識していない気張り。  格好いい栄田は勿論大好きだが、そんな折目正しい彼を、少し可哀想だと思っていたことも確かだった。それが今はすっかりリラックスしている。あの頭の悪そうな笑みを口元にへらりと浮かべて、ミノルが何か言えばバンバン肩を叩いてみたり、大声で答えを返したり。  お待ちかね、シンディ・ローパーのミックスが掛かったのをきっかけに、栄田は寄りかかっていたカウンターから身を離し、滑るような足取りで、人混みから新たな人混みへと向かう。 「めっちゃノリノリやん」  今度はミノルが、栄田を追いかける番だった。ふらふら揺すられる彼の手首を捕まえたのはダンスフロアのど真ん中でのこと。ゆらゆらと、少しぎこちない身の揺らしかたは酒のせいでも、未だ気恥ずかしさに取り憑かれている訳でもない。 「踊るのヘッタクソ」  小さく呟いたつもりなのに、声音ははしゃいだ色になる。幸い栄田は気付きもせず、ミノルに掴まれたまま、くらげのように揺蕩っていた。  彼に合わせて、ミノルは踊った。「昼間に足りなかったものなんか忘れてしまおう。そうすればあの真っ白な街灯の下にある小さなチャンスが見えるかも」ローパーの可愛らしい声がディスコビートに飲まれ、狭い店の中へ吹き荒れる。ハリケーンへ巻かれたよう。そしてこのまま虹の国へ。  向かい合う栄田の瞳は今や色の無いガラスのように透き通り、ストロボの点滅も無防備に飲み込んでは瞬きに合わせてちかちか、火花が散る。目が離せない。ビールなんかで酔うはずも無いのに、身体も頭も熱くて堪らなかった。  衝動に任せるまま、ミノルは握りしめたままだった栄田の腕を引いた。ほんの少しだけ高い位置にある唇へ唇を重ねる。濡れた手で洗濯機を弄って感電した時みたいな、ビリッと来る感覚。恋をして、人に触れると、本当に痺れてしまうのだと、ミノルはその時初めて知った。  触れるだけの接吻が拒絶される事はなかった。汗でこめかみに張り付いた前髪を払う指先に目を細め、栄田は柔らかく口を開いた。 「君は19歳だ」 「気にするところ、そこなん?」 「それに……それに、少し酔った」  己の言葉へ操られるように足がもつれ、上半身が少しこちらへ傾ぐ。澄み切って、潤みすらしている瞳をじっと覗き込んで、ミノルはようやく気付いた。 「ちょっとハルオさん、なんか飲んだんちゃう?!」  正確には「飲まされた」が妥当か。全く迂闊だった、調子に乗り過ぎた。油揚を狙う鳶のように、獲物を掻っ攫うことを躊躇しない連中がこの世には大勢いると、すっかり忘れていた。 「大丈夫? 具合悪ない? くっそ、エクスタシーかいな」  子供なのは一体どちらだろう。手を引かれるまま群衆の中から連れ出される時、栄田は頭からつま先までぐにゃぐにゃ、通りすがりにべたべた触れられても意に介さないから、「見せもんちゃうぞアホンダラ」とミノルが追い払わなけらばならない。不機嫌な恫喝の破裂へ、ケラケラ笑う声が後頭部を殴り、上半身のそっくり返りを手のひらで感じ取る。もしも彼がもう少し正気だったら、自由な方の手でびんたの一発くらいかましていたかも知れない。  何とか地上まで戻り、タクシーへ押し込んだは良かった。けれどミノルが「家どこ?」と尋ねてもチェッカーズの古い曲を鼻歌しているばかりで全然答えてくれないまま。そう言えば彼がアパートを借りているのか、知人の元へ身を寄せているのか、ホテルに住んでいるのかも知らない。休職中だと言ったが、何を休んでいるのか、その理由も分からなかった。  運動後の汗が冷え、生ぬるい風に撫でられただけで背筋がぶるりと震える。結局ミノルは隣へ乗り込み、ハンドルを指でコツコツ叩き続けている運転手に、自らの家の住所を告げた。  やんちゃは構わない。だが遊ぶならば綺麗に。岩松家の家訓その8か9辺り。普段ならばきっと、家の鍵を開けてくれと、真夜中に扉を叩いて騒いだりしようものなら、中へ引き摺り込まれるや否や父から盛大に雷を落とされるだろう。  だが今夜、抱えるようにしてタクシーからお荷物を下ろしたミノルには、そんな悠長な心配をしている余裕などない。幸い栄田は吐いたり気分を悪くしたりすることはなく、アルコールとの相乗効果で微睡の中へ落ち込もうとしているだけ。脱力した身体は、壁へ寄りかからせておこうものなら、すぐさま地面へ崩れ落ちてしまうだろう。植木鉢の下に置いてある鍵を取り出すのは難しい。  連打されるチャイムに「聞こえとるよ、近所迷惑は止めぇ」と外にも聞こえる声で喚きながらドアを開けた父は、予想通り二人の様子を見て眉を顰めた。 「何や、潰してもうたんか」 「ちゃうちゃう、クラブで何か変なもん飲まされたみたいやねん。多分よくある、お持ち帰り用の奴。家も分からんし、しゃあないから連れてきた」  反対側の腕を肩に担ぎながら、父は益々渋面を深める。 「仕事が仕事やのに、えらい無防備なこっちゃなあ」  気付けば寝息と呼んでも差し支えない程深まる呼吸を、覚醒まで呼び戻す事は至難の業だ。結局二階へ連れて行き、放り出したのはミノルの部屋のベッド。もはや完全に眠りの世界へ沈んでいった栄田を見下ろし、父は腕を組んだ。「ミィちゃんが連れて行った結果や、ちゃんとケジメ付けなさい。お父さん、今からハルオ君の親父に電話して呼ぶから、それまで様子おかしくならんか、見張っとき」 「分かっとるよ……なんて? ハルオさんの?」 「前にハルオ君が、ミィちゃんにって電話番号置いて行ってな。ちぃと知り合いに探らせたら、ホテルに泊まってるて、すぐ調べ付いたわ」  思わず声を裏返らせたミノルを見向きもせずに踵を返しざま、手はいとも容易く振られる。  連絡先を教えて貰えなかった事よりも、後半の台詞によって、心の中へ一瞬で暗雲が立ち込めた。  父が知り合いと呼ぶ連中は、大抵が碌でもない。指名手配されているか、最低でも前科持ち。しかもそれを誇っているのだから手に負えなかった。  今は80年代も終わりに近付いている。僅か十年ちょっとで、世間は新左翼を過激派と雑にカテゴライズし、あれは若者が一度は掛かる麻疹のようなものだったと結論付けていた。  父の人生を否定するつもりはない。彼のよく言う「心の滋養」を味わう舌が培われた事を、ミノルは心底幸運だと思っていた。  だが同時に、己の心で頭を擡げる感情を切り捨てる事が、どうしても出来ないのだ。『いちご白書』を読んでも腹は膨れないし、ましてや充足感なんか得られない。それよりもモエ・エ・シャンドンを開けて、シャンパングラスになみなみと注ぎ、真っ赤な苺を落として飲む生活の方が、絶対に楽しい。  嫌なことはしなくていい、心のままに生きなさいと父はいつも言う。  だからミノルは、己の胸に問いかけた。一体どうしたい?  「ハルオさん」  よだれすら垂らし、むにゃむにゃ寝言を零している栄田の様子から、普段の精悍さなど片鱗も窺えない。穏やかで規則正しい上下を繰り返す胸までシーツを掛けてやり、ベッドの脇へしゃがみ込むと、ミノルは男の汗ばむ髪をそっと撫でた。例えどんなに無様な姿を見せられても、己は目を瞑り、この人のことを嫌いになどなれないだろうなと、唐突に気付きを得る。恋は盲目とはよく言ったものだ。 「ここまで来たら、もう大丈夫やで。喉渇いてない? 何か飲む?」 「何でもいい……」  階下へ降りると、店の中には嗅ぎ慣れた『ガラム』の、香辛料と南洋の果物を混ぜたような芳香が充満していた。蒸し暑い室内に広がる紫煙の奥で、散る火花が、吸い主の居場所を教えてくれる。 「もう来るで」  天を仰ぐようにして背もたれへ体重を預け、父はくっくと喉を震わせた。 「あいつ、電話の向こうでおおわらわやった」 「なあ。父さん。父さんは、ハルオさんのお父さんの事、よう知ってんのとちゃう」 「知っとるよ。ハルオ君が初めて店に来た時、すぐ気ぃ付いた」  悪びれもせず台詞を乗せる唇は、咥え煙草を落とさないよう緩慢な動きを作る。深々とした吐息に合わせ、また煙草の先端で火の粉がパチッと弾けた。 「ミィちゃんも、もう大人やからな。これは知らんとあかん……何も心配せんでええ。ミィちゃんはお父さんと、お母さんの子や。今から起こることを、ちゃあんと理解出来る」  まるで叩き割るような勢いでドアをノックされるのに、父は「開いとるで」と焦らず騒がず返す。  顎でしゃくられ、応対したミノルを目にし、その男は雷にでも打たれたように立ち尽くした。驚いたのはミノルも同じ事だ。その顔立ちは、栄田を50がらみにして、幾らか辛苦で揉んだと言ったもの。生き写しだった。余程急いできたのだろう。古びたスーツは汗で皺くちゃになり、全身から湯気を立ち上らせそうな有様だった。 「ミィちゃん、ワンツーからのボディや」  はっとなったのは二人ほぼ同時だが、動いたのはミノルが早かった。日頃の慣習かも知れない。或いは本能的な行動かも知れない。だが父の台詞が耳へ入って来た途端、ミノルは言われるがまま、目の前の男へ決めていた。  苦しげに呻いて身を丸め、玄関マットに甘酸っぱいものを嘔吐する男の元へ、父はまるで宙を歩いているかの如くすうっと歩み寄った。 「あかんなあ、福井さん。母方の苗字なんか使わせたら、すぐバレるやろ」  スーパーの刺身によく付いてくる、魚の形をした醤油入れから、手にした注射器へ吸わせながら、ちっちっと舌を鳴らす。 「最近はデカもすっかり腑抜けとんな……ああ、それともあの子はまだ、そこまで出世しとらんのか」  勿論、「メダカ」の中身は黒い色をしていない。無色透明で、一見何の害も無いように思えた。古いガラスのシリンジの中、指で弾かれると、余計にそう見えた。胃液で汚れる口元から荒げた息を吐き、福井と呼ばれた男は、血走る目で父を睨み上げた。 「……岩松、ハルオは」 「ちゃいますよ、あの子はほんまにディスコでクスリ盛られた。うちの倅の監督不行き届きや」  糾弾に少し首を竦めたミノルの前で、浮かび上がった太い頸動脈に注射針が潜り込む。余程濃いものだったのだろう。福井はドアにしがみつこうとして、結局そのままがくりと膝を折る。 「嫌やわ。お巡りさん? 父さん何したん」 「何もしとらん、しとらん。あっちが勝手に追い回してただけや」  意識を失った身体は、先程担いだ栄田よりもずっと重い。よっこいしょ、と抱え上げながら、父は言った。 「この人はな、ミィちゃんのお母さんの、お兄さんや」

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