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第3話
目覚まし時計がけたたましいアラームを鳴らす前に、目が覚めた。喉が渇いたのだった。
「……水……」
ずっと、あんあん喘ぎっぱなしで、喉が嗄れた。
喉の奥がひっついているんじゃないかと思うほど喉は渇いていたはずで……、そういえば、体中、酷いことになっているような気がするから、シャワーも浴びた方が良いのではないか、と思ってベッドから這い出ようとすると、がっちりと戒められていて、動けなかった。
まだ、触手が健在なのか……? と思っていると、どうも、何か違う。
「早いね。おはよう」
低くて腰に来る美声だった。いや、男の声に、ドキッとしても仕方がないが……。
男?
慌てて確認すると、俺のベッドの上で、真っ裸で、俺を抱きしめながら、男が悠然と笑っている。まれに見る美形で、長いプラチナ色の髪を持つ男には、見覚えがあった。
「えっ? クラスメイトの……鳳凰寺さんっ?」
そう。学校内でも有名な『色好み』。
毎日、沢山の取り巻きたちを引きつれて、その子達を食い散らかしているという噂の人物だった。
「なんだ、僕のことは認識して居たのか」
ふふっと笑ってから、俺の額にキスをする。
「っ!!? な、何してるんだよっ!!」
「キスだが?」
「いやいやいやいや。キスだが? じゃないよ!!! なんで、あんたが、こんなところで……真っ裸で……」
まさか部屋を間違えた? いろいろ考えるがどう見てもこの部屋は、俺の部屋だった。
「まず、水を飲んでおいで」
話はそれからゆっくりしよう。鳳凰寺さんは俺を解放した。それにしても、鳳凰寺さんは見事な身体だった。彫刻のダビデ像を連想するくらい、引き締まった美しい身体だ。
対する俺の方は、かなり貧相で恥ずかしい。そして、俺も、真っ裸だった。身体の奥が……何かが挟まったような、感覚があって、ちょっと変な感じがする。触手に襲われたのは、間違いなかった。
「とりあえず、シャワー浴びて、水飲んできます」
「うん、ゆっくりしておいで。僕は、もう少し寝ているから」
なんなら帰って欲しい。とは思ったが、とりあえず事情だけでも聞いておいた方が良いような気がして、「はあ」と生返事をしてから、シャワーへ向かった。
シャワーだけでも部屋に付いているのはありがたい。学校からの帰り、汗だくになってもすぐに身支度を調えられる。ふいに、鏡を見て驚いた。
「ちょっ!」
体中に、赤い痣が付いている。
キスマーク……や、噛みあとがあちこちに付いていた。これ、今が秋だから良いようなものの、夏だったらボタンも外せないし、腕まくりも出来ない。
あの触手の仕業なのは理解出来る。
しかし、なぜ、今日は鳳凰寺さんが、俺の部屋に居るのか。そして、なぜ、真っ裸なのか。鳳凰寺さんのお取り巻きたち(彼らは『ベイベー』と呼ばれている)ではなく、何故俺なのか。
もしや、あの触手は妄想で、単に、鳳凰寺さんが部屋を間違えて入って、それで、鳳凰寺さんにヤられただけ……?
いや、それもちょっとイヤだなあと思いながら、熱いシャワーを浴びる。身体の関節が、筋肉痛みたいにキシキシ痛んでいたのが、シャワーのおかげで少しほぐれる感じがあった。
ともかくシャワーを浴びて部屋に戻ると、ベッドの上に全裸男が……つまり、鳳凰寺さんが悠然と横たわっていたので、爽やかな朝の雰囲気など、皆無だった。
「遅かったな。念入りにシャワーするタイプなんだな」
さて、俺は一体どこに座れば良いのか迷いながら、机の椅子に座った。
「まずは、君にお礼を言わなければならない」
鳳凰寺さんは真面目な顔をしていうが、やはり全裸だ。大事な部分が、雄々しく屹立しているので、正直見たくない。
考えても見ろ、美術館に飾られたダビデ像のアレが元気にギンギンしてたら、そんなもん誰も見たくないだろう。
「お礼?」
というならまずは服を着てほしいが、そういえば鳳凰寺さんの服は見当たらない。
え、この人。裸のまま、廊下を通って、俺の部屋まで来て勝手に俺のベッドに潜り込んだの? ヤバくない?
「昨日、森の中で触手を拾っただろう?」
「拾ったけど……なんで、あんたが知ってるんだよ?」
「信じられないかもしれないが、アレは僕なんだ」
鳳凰寺さんは、実に真面目な顔をしていらっしゃった。そして、アレは元気なままだった。
「なんだって?」
「だから、僕があの触手だと。難儀していたところだったから助かった」
理解がついていかない。
「うちは古い家系でな。平安時代だったか、先祖が怨霊を退治したらしいんだが、困ったことに、その時、呪いを受けたのだ。それで、油断すると、触手になるのがわかった。一族の嫡男だけに現れる呪いだ」
どこのファンタジーだよ、と内心悪態を吐きながら、俺は「へー」と返事して、はた、と気づいた。
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