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第3話 向学

ーー火曜日、夕方。 「晃!塾はどうしたの?」 家に帰ると、母が言った。 「え…塾?」 「そうよ、先週決めたでしょ!今日からのはずよ。」 「そうだっけ…」 そうだった気もする。昨日、頭痛がしてから、色々忘れているようだ。 「もう、しっかりしてよ。まだ間に合うから、早く行ってらっしゃい。」 「わかった。」 「これ地図ね。あんた、迷いそうだから」 「ありがとう…」 母から、なんだか抽象的な地図をもらった。 地図を見ながら歩いてみるが、なかなか塾に辿り着けなかった。 「地図だとこっちなのかな…でも、たしか駅の近くだったような。」 「よお、晃」 「! 皆月…」 「なんで急に名字なんだよ。昔から柊って呼んでただろ。」 「あ…そうだったな。柊。」 「急によく会うようになったな。」 「そうだな。」 「どこ行くんだよ。」 「塾に…でもこっちじゃない気がする。」 「どこだって?」 「ええと、可愛塾っていう…」 「ああ、東口のか?こっち、逆方向だろ。」 「そうだよな。母さんが地図をくれたんだけど、分かりづらくて。」 「これ、地図か?」 「まあ…たぶん。」 「こっち方面は住宅街だろ。ほら、行くぞ。」 「え、いいのか?」 「お前、よく迷うからな。」 俺は、昔から方向音痴だった。それでいつも、柊が手を引いてくれていた。 「ありがとう、おかげで着いた。」 「別に、暇だったし。」 「これからどこへ行くんだ?」 「ストバス。今日、部活ねぇから。」 「いいな。」 柊は、運動がよくできる。そういえば、バスケ部に所属していた。俺は走るのは好きだけど、球技はめっきり出来なかった。 「お前だって、やりゃ上手くなるよ。じゃあな、塾頑張れよ。」 「うん、ありがとう。」 柊は、塾には行かないのか?友達を塾に誘うのは、ちょっと違うのかな…。 柊が案内してくれたおかげで、授業時間より前に受付に着いた。 「あの、彩月晃と申しますが。」 「はい、本日入塾の彩月さんですね。」   「はい」 「今、担当教師を呼んできますね。」 受付スタッフの女性が奥へ行くと、すぐに別の若い男性スタッフが出てきた。 「こんばんは、彩月君だね?」 「はい。彩月晃です。」 「数学担当の無月です。よろしく。」 「よろしくお願いします。」 「じゃあ、教室に行こう。」 授業は数学1コマ50分。無月先生の教え方は分かりやすく、予習していた範囲でもあり、小テストも手応えがあった。 ーー授業後。 「彩月君。ちょっといい?」 「あ…はい。」 「今日、どうだった?」 「ええと…学校の授業のために予習していたので、なんとか付いていけました。」 「そうか。小テストの出来も良かったな。もし物足りなかったら、上のクラスもあるから。」 「上のクラスですか…。」 不安な表情を読み取ったのか、先生がすかさず言葉を続けた。 「どっちも試しに授業出てみたら良いよ。上のクラスは月曜日だけど、用事はある?」 塾は週2回、数学が火曜日で、英語が木曜日。数学を上のクラスにすると、月曜日になる。 「月曜でも平気です。」 「じゃあ来週は月曜の同じ時間に来るように。気をつけて帰れよ。」 「はい、分かりました。失礼します。」 外はすっかり暗くなっていた。 明日の予定はない。 あのカフェに電話してみようーー。

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