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第4話 試行
ーー木曜日。
「先輩、この後、どこか行きませんか?」
下校中、宇月が声をかけてきた。
「あ…ごめん、この後は塾なんだ。」
「ええ!?先輩、勉強できるのに…まだ2年生になったばかりだし、塾要りますか?」
「母さんが、俺が塾に行ってると安心するみたいだ。」
「そうなんですか…」
「うん、でも週2だから。」
「そうか…じゃあ明日にします。」
「明日はバイト先の見学があって…」
「はい!?バイトって!?いつの間に!」
「昨日電話したら、明日になったんだ。」
「え、どんなバイトなんですか?」
「カフェかな。」
たしか店長は、コンセプトカフェと言っていたが…普通と違うんだろうか。
「先輩の家は、バイトは良いんですか?お母さん、塾に行かないと心配するぐらいなんでしょ?」
「基本、放任なんだ。勉強してさえいれば良いって…テストも見せているし。」
「塾=勉強ってことかぁ…。僕の家は、バイトは無理だなぁ。」
「別にする必要ないだろう?金に困っているのか?」
「そうじゃなくて!先輩が心配なんです!」
「心配?なんでだ?」
「それは…っ!だって…。」
「?」
「も、もういいです!でも、どんな感じだったか教えて下さいね!僕だって、いつかバイトするかもしれないし…知っておきたいんです!」
「そうか。分かった。」
先輩は、鈍感だ!
宇月はもどかしくなるが、晃には伝わらない。
結局、何が心配なんだろうか。
ーー夕方、塾。
「彩月君。どうも。」
「無月先生…。今日は英語のクラスだったような。」
「今日、急に英語の先生休むって連絡来てね。次の授業で待機してた俺が代理になったんだ。」
無月先生は、英語も出来るようだ。
授業はやはり、分かりやすかった。
授業が終わると、先生は女子生徒達に囲まれていた。質問を受けているようだ…。
晃が帰ろうとすると、無月が声をかけてきた。
「彩月君、ちょっと待っててもらえる?」
「はい…?」
「ごめん、ごめん。待たせて」
「いいえ。」
「彩月君は英語もできるみたいだし、やっぱり数学も上のクラスにすれば、新5大も狙えるかもしれないぞ。」
「はあ…。」
「あれ、知ってるよな?」
「ええと、知らないです。有名な大学なんですか?」
「ええ?大学の話、ご両親とするだろ?」
「あまりしないです。両親は、自分たちが教えられないから、塾行けと言うだけで。まだ大学は調べてません。」
「へぇ…。まあ、方針は家庭それぞれか。」
「難しそうですね。」
「それなりにな。でも大丈夫、彩月君のポテンシャルならいけるよ。ちなみに俺も、新5大のうちのひとつに通ってるから。」
「そうなんですか。じゃあ、俺もそこを目指します。」
よく分からないけど、授業の分かりやすい無月先生が入る学校だ。そこを目指せば、学力も上がるかもしれない。
「え…まじで?」
無月は、少し驚いたような表情を見せた。
「はい。月曜のクラスは、別の先生が担当ですか?」
「いや、俺だよ。」
「そうですか、良かった。」
「…良かった?」
「はい。先生のクラスが良いです。」
現役の人に教わった方が、試験の傾向も分かるはずだ。俺は優柔不断だから、目標はさっさと決めてしまった方が良い…。
「そうか…」
「頑張ります。」
「うん。彩月君てさ…天然だって言われない?」
「さあ…?言われないと思います。」
そして、鈍感なタイプだな。
無月の勘は、外れない。
晃は目指す大学が決まり、少し気分が高揚していた。
よし、頑張ろう。
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