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第8話 疎通

ーー火曜日。 ガヤガヤ… 朝、晃の通う高校は、いつもと比べて騒々しかった。騒いでいるのは、一部の女子生徒達だ。 理由は…。 「ねぇ、見て。蓮くん登校してるよ!」 「ほんとだ〜!初めて見た…すごいかっこいい!」 「いつも早退してるみたいだから、中々会えないよねぇ。昼も見つからないし…。」 「誰かといるのかな?外に出てるとか?」 「今は1人みたいだけど…」 「声かけにくいよね、さすがに…」 「無理無理!」 「向こうも嫌だよ〜、きっと!」 「だよね!迷惑なことしたくない!」 「え〜、でも…クラス一緒の人羨ましい〜!」 そう、アイドル活動をしている二三月蓮が、いつもより早めに登校していたからだ。 「……」 二三月は誰とも視線を合わさず、無言で歩いていた。 「あ…。」 彩月だ。いつもこの時間なのか…。 二三月は、晃に声をかけようとしたが、少し躊躇した。 「!」 誰かと一緒だ…。 「なんかざわついてませんか?」 宇月は怪訝そうな顔をして言った。 「そうか?」 「そうですよ…」 宇月は周りを見渡した。 そして、自分と晃の後方にいた、二三月の姿に気付いた。 「先輩!斜め後ろの方に…」 「ん?」 「二三月蓮ですよ!」 「あ…本当だ。二三月!」 「!」 「おはよう。今日もいい天気だな。」 「…おはよう、彩月。」 宇月は、二三月に向かって控えめにお辞儀した。 「後輩の宇月だ。」 「あ、あの…宇月千聖です。」 「…よろしく。」 「はい!よろしくお願いします。」 「二三月、今日の宿題やってきたか?」 「昨日、休み時間に終わらせた。」 「え?全部?」 「ああ。持ち帰っても、やり忘れるから。」 「すごいな、いつやってたんだ?」 「お前がトイレ行ってる間とか?」 「あ、あんな短時間で…俺も見習わないとな。」 「正確性はないけど。」 「スピード重視か。」 「そんなとこ。」 先輩、二三月蓮と普通に喋ってる…。 ほんとに、先輩はこの人と友達同士なんだ。 二三月蓮…意外と真面目そうだし、関わりやすいのかな? 宇月は、2人を眺めながらそんなことを考えていた。 「じゃあな、宇月。俺たち、こっちだから。」 「あ…はい!先輩、今日は…」 「バイトだ。」 「でしたね…頑張って下さいね!」 「ありがとう。」 宇月と別れてから、二三月が晃に質問した。 「何の後輩?」 「ああ、宇月のお姉さんと俺が、同じ学年で知り合いなんだ。俺のこと、何かと気にかけてくれる。」 「ふうん…」 「あと、物知りでなんでも教えてくれる。俺より年下なのにな。」 「はは、そうなんだ。」 「俺は…最近思うんだけど、他の人に比べて知らないことが多くて。忘れっぽいし…」 「彩月はいいよ。そのままで。」 「…二三月は優しいな。」 「な、なんでたよ。どこが…」 「あ、そうだ。お土産、ありがとう。美味しかったよ。」 「え、ああ…それは良かった。」 「ところで、今日はお昼持ってきたか?」 「いや、持ってきてないけど。」 「今日は母さんが、お弁当作ってくれた。もし…良ければ一緒に食べないか?」 「え。」 「二三月が、嫌じゃなければ。口に合うかは分からないけど、俺は美味いと思う。」 「でもお前の分だろ?」 「かなり多めに作ってくれたから。これなんだけど。」 「その荷物、弁当だったんだ。」 ーー昼。 「…お前、これ。」 「どうぞ、たくさん食べてくれ。」 「三段重って!ははは、面白すぎ!初めて見た!」 「どう見ても1人じゃ無理だろ?この割り箸使ってくれ。」 「わざわざどうも…あ、これって。」 俺のために…わざわざ作って、持ってきてくれたのか? 「ん?」 「いや…ありがとう。」 「母さんが、二三月のお土産に感動していた。実は、この弁当はそのお礼なんだと思う。」 「やっぱりそうか…お母さんに、お礼言っておいてもらえる?」 「うん、伝えとくよ。」 「うまい。」 「そうだな。夕飯よりも豪華でうまい。」 「ははは!料理、上手なんだな。」 二三月は、意外とよく笑う。 食べてくれて良かったな、母さん。

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