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第9話 仕事

ーー火曜日、夕方。 今日はバイト先の初出勤日だ…。 少し緊張するが、まずは店長や先輩の動きを見て、勉強しよう。 店長が貸してくれた辞書みたいな指南書は、なんとか読み終えた。 重くて肩が千切れそうだ…。 「今日から、よろしくお願いします。」 「うん、よろしくね!じゃあ、さっそくこの制服に着替えてきてくれる?」 「……」 これは… 普段、あまり見ないタイプのスーツだ。 辞書に載っていた、ロングテールコートだろうか。 「あ〜、やっぱりスタイル良いから似合うね!」 「あ、ありがとうございます。」 スタッフルームから出ると、誰かが店内に入ってきた。 「お疲れ様ーっす。」 「あ、志恩くん。お疲れ様!見て、似合うでしょ。」 店長は、なんだか得意げだ。 「おお、いいじゃん。背、俺と同じぐらい?俺よりちょっと低いか…そのうち、抜かされそうだな〜。」 「いいじゃない、どっちにしろ2人とも高いんだから。」 「そうっすけど。」 その時、店の扉が開いた。 2人目の先輩が入ってきた。 「…お疲れっす。」 「あ、瑠維くん。早いね。今日から、晃くんも一緒だから、よろしくね。」 「ああ…はい。」 それだけ言うと、鈴木はスタッフルームへ入って行った。 「あいつ、まじで愛想ねぇな。晃くん、気にしなくていいからな。」 いつの間にか、呼び方が下の名前になっていた。 「まあまあ。みんなが志恩くんみたいに、人見知りしない人ばかりじゃないから。」 「俺たち、もう大学生っすよ。人見知りってやばくないすか?」 「仕事中はそんなことないけどねぇ。」 「仕事中だって、コミュニケーションとるの大変なんすよ。こっちが色々譲歩しないと…」 「てめぇ、勝手なこと言ってんじゃねぇぞ。」 鈴木は、いつの間にか着替えて出てきていた。 なんだか、雰囲気が悪いようだ…。 「はいはい、2人とも。晃くん、初日だからね。お手本になるよう頑張って!オープンまでに、まず何する?」 「「掃除します。」」 2人は口を揃えて言った。 もしかして、気が合うんじゃ…? すごい目つきで睨み合っているけど。 「晃くん!掃除道具ここにあるから、こういうふうに…」 店長と先輩2人から、オープン前の準備の仕方を教わり、言葉遣いや立ち居振る舞いなどを復習した。 制服を着ているからか、なんだかやる気がみなぎってきた…。 オープンの時間になると、店長が扉を開け、客を出迎えた。 ほとんどが予約客で、女性が多い。 席への案内、メニューの説明などは、主に店長がする。 注文をとったり、食事を運ぶのが俺たちの仕事のようだ。 「晃くん。お客さん帰るよ。なんて言うかわかるか?」 「は、はい。いってらっしゃいませ、お嬢様。」 「行ってきま〜す! また来ますね〜!」 「そうそう、いいじゃん。声の大きさやトーンも良い感じだな!」 佐藤先輩は、褒め上手だ。 すると、後ろから、鈴木先輩に呼ばれた。 「おい。カトラリーの並べ方を教えてやる。こっち来い。」 「あ、はい。」 鈴木先輩は、教えるのが上手い。 最初に店長が、面倒見がいいと言っていたのを思い出した。 「…先輩。分かりやすかったです。ありがとうございます。」 「ん?うん…まあ、こんぐらいなんでもねぇし。」 「晃くん、メニューも覚えた方がいい。これ、メニューとその説明まとめたやつ、あげるよ。」 佐藤先輩が間に入ってきた。 また睨み合っている…気がする。 後ろから店長の声が聞こえた。 「仲良くねー!」 「「もちろんです。」」 またしても、2人は同時に答えていた。 本当は、仲が良いのかもしれない。 俺も早く仕事に慣れるよう、頑張ろう。

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