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第11話 体裁

ーー木曜日。 昨日、放課後に柊の通う高校に行こうかと思ったがーーやめた。 柊は、バスケ部に所属していて、水曜日は練習があった気がする。 それに、何から喋れば良いのか、まだ整理できていない…。 今日は、塾の日だ。 ーー放課後、塾。 「晃。この前のテスト、良かったぞ。」 「え。」 この短期間で、生徒を下の名前で呼び捨てにするなんて…フレンドリーな先生なんだろうか。 そういえば授業中も、他の生徒を名前で呼んでいた…気がする。 「…あ、本当ですか?」 「模試が近いから、全体的に難易度を上げていたんだけどな。」 「難しかったです。時間ギリギリだったし…出来てましたか?」 「ああ、上位だった。」 「良かったです。」 あまり自信はなかったが、出来ていたようだ。 ふと先生を見ると、首筋が少し赤くなってる部分があって、妙に気になった。 「あの…先生。ここ、どうしたんですか?」 「え?」 「首のところ…赤くなってます。虫刺されですか?」 「え!?あ、そうか…!?」 「あ、でもこの時期まだ蚊はいなさそうですよね…。」 「あ、ああ…。」 「……。」 「……。」 「じゃあ、俺教室行きます。」 「ああ…。」 ……まずいな。ちゃんと、確認しておくんだった。俺としたことが…。 晃が教えてくれて助かった。 まだ教室に入る前だったし、ボタンを上まで閉じれば見えない。 これの意味、気付いているのか…? 無月は、色々と考えを巡らせながら、ボタンをきっちり留めて教室へ向かった。 なんだか間があったような…? まあ、いいか。 晃は… 全く、何も気付いていなかった。 「今日はこれまで。」 さあ、授業が終わった。 帰ろうか…。 「晃。ちょっといいか。」 晃が席を立つと、無月が呼び止めた。 「? はい…。」 他の生徒が教室から出て行くと、無月が口を開いた。 「あのさ。」 「はい。」 「さっきの…首んとこの」 「はあ。」 「いや、まず、教えてくれてありがとう。」 「い、いいえ、そんな大したことじゃ…」 「……。」 「…ペット、ですか?」 「え?」 「ペットに引っ掻かれたとか…。早く治ると良いですね。」 「……なーんだよ、も〜。」 無月は、体の力が抜けたように、項垂れた。 「え、何がですか?」 「やっぱり晃って、天然だよなぁ。」 「? あ、あの。」 「なに?」 「俺も、これ。」 晃は、手の甲を見せた。 「ん?これ…」 「引っ掻かれたんです。女の子に。」 「え!?」 「たまにあるんですけど。」 「あ、晃…それってどういう…」 「俺が、機嫌悪い時に触るからいけないんですけどね。気分屋なので…うちの猫。」 「は?猫?」 「はい。」 「あ…晃〜〜、お前、ユニークなんだか、天然なんだかどっちかにしろって。」 「ええ?」 「全く…面白い奴だなぁ。」 「はあ…。」 「引き留めて悪かった。教えてくれたお礼言いたかったんだ。もう帰らないとな。」 「あ、はい。」 「気をつけてな。」 「はい、失礼します。」 「はあ〜… 参ったなぁ。」 無月は、誰もいない教室で、そう呟いた。

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