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第20話 機転
ーー土曜日。
今日もバイト先のカフェは賑わっていた。
雰囲気は静かなので、賑わいとは違うかもしれないが、予約で満席だった。
昼営業も終わりに差し掛かり、晃はカウンターで洗い終わったカトラリーを整理していた。すると、レジで佐藤と女性客2名が話し込んでいるのに気がついた。
「ふう〜、終わったな。」
「佐藤先輩。さっきのお客さんは、常連なんですか?」
「え?ああ、さっきの2人はそうだよ。」
「楽しそうに話していたから…」
「うん、まあ…連絡先渡されたんだけどさ。」
「そうなんですか。」
「ほんとは受け取らない方が良いんだけど、向こうが勇気出して渡してくれてんのに、無下に断れないだろ?」
「まあ、そうですね…」
「こういう時はな、とりあえず受け取って、店のメールアドレスかSMSで繋がって、店の情報とか流すようにすんだよ。新メニュー出たとか、休業日の情報とか教えんのに便利なんだ。で、最後に俺の名前入れとけば、俺とメッセージしてるように思えるし。」
「なるほど…。きっとお客さんも喜んでくれますね。」
「そうそう。これ、店長からの指示でやってんだけどな!まあ、個人的なことでメッセージ来たらスルーするしかないけど。」
「はあ…」
「くれぐれも、個人情報のやり取りはするなよ?客は客、後で面倒なことになる可能性もあるからな〜。しつこい客だったり、扱いが難しい時は、まず店長に相談しろよ。」
「あ、はい…分かりました。」
「晃くんは隙が多そうだからなぁ。」
「そうですか?」
「そうだよ。てか、晃くんて、ほんとに高校生?」
「え…はい。高校2年です。」
「なんか独特の色気みたいなの?あるしさぁ。」
「色気…?」
「おい、何言ってんだテメェ。セクハラだぞ。」
近くを掃除していた鈴木が、佐藤に向かって言った。
すかさず佐藤が言い返す。
「あ?テメェのその捉え方自体がセクハラだっつの!サツに突き出すぞ。」
「先輩…」
「ああ、ごめん、ごめん。変な意味はないから!」
「はい、分かってます。」
「気を付けろよ、晃。何かあったら、俺に相談しろ。」
「なにイキナリ呼び捨てにしてんだよ、セクハラ野郎!」
「それはお前だろうが!」
また言い合いが始まりそうだ…
「せ、先輩!俺も、2人のこと下の名前で呼んでもいいですか!?」
「え、もちろん!俺の下の名前知ってる?」
「志恩先輩と、瑠維先輩…ですよね。」
「そうそう、さすが!」
「…別に良いけど。」
「晃が呼ぶと爽やかだよな〜。」
「俺らの後輩っていや…ムダに暑苦しいし、それ以外は下剋上狙ってる奴らしかいなかった。」
「そうなんだよ、寝首かかれないようにってずっとアドレナリン出てたもんな。晃みたいな後輩初めて♡」
「はあ…先輩方は、ずっと同じ学校だったんですか?」
「全然。ここまで1つも被ってないよ。」
「学年も違う。」
「あ、そうなんですね。仲がいいし、幼馴染なのかと…」
「晃にはそう見えんの?」
「1mmもそんなことねぇよ。」
「腐れ縁で中学ん時から知ってるだけよ。」
「中学からずっと知り合いだったんですね。」
「まあな〜。しょうもない理由でな。」
「マジ、晃に話すほどのことじゃねぇけど。」
「そうですか…」
きっと、俺には踏み入れることができない絆があるんだろう…。深入りは良くないな。
「今度、飯行こうね。晃。」
「やめとけ。こいつ、酒癖クソ悪いから。」
「下戸はだまっとけ。」
その時、店長がスタッフルームから出てきた。
「晃くんは未成年だよ、2人とも。」
「店長、飲み行きましょうよ!晃にはソフドリ頼みますから!」
「ちなみに店長はザルだ。」
コソッと瑠維が晃に耳打ちした。
「見えないですね…」
「まあでも、晃くんの歓迎会ってことで、今度ご飯行こうか?どう、晃くん。」
「はい、ありがとうございます。」
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