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第12話
ホシザキジュンの話
夕方と言ったけど服を返しに行くのが少し遅くなってしまった。ドアをノックして声を掛けたら中から「開いてるよ、どうぞ」と言われた。ユウヤさんはハーフパンツだけ履いて、上半身裸で片手にスマホを凝視していた。
「お借りした服とタオル、ありがとうございました」
それだけ言って部屋を出るつもりだった。
画面をしばらく見ていたユウヤさんが硬い表情でため息をついて、顔を上げた。
「あ、机に置いておいて…」
部屋に入って奥の机に置き、ユウヤさんの方を見る。
黙ったままこっちを見ている目に強い光がある、こんな表情もするんだ。
まっすぐ歩いて近づいてくる。あれ、もしかして…、なんてのんびり考えていたら…
期待が膨れ上がりきる前に強く肩を掴まれて、唇を塞がれた。
後頭部の髪を掴まれて、のけ反らされながら、驚いて開いてしまった口に舌が入ってきた。
唐突で乱暴な動きに感情がついて行かず混乱する。口の中を舌で舐め回されながら、どんどん押されていって背中が壁に当たった。探し物でもしているように雑に身体をまさぐられる。下半身に手が伸びて、お尻を掴まれた。全然性的に興奮できる状況じゃないのに、ちんこがちょっと大きくなった。怖い?いや、怖くはない。
俺に覆いかぶさっているこの人の方が、悲しそうだ。
体をひねったり、服を脱がそうとする手をもがいて押し返しながらも、そうか、レイプってこんな風にされるのか、とどこか冷めた自分がいた。
唇が離れ、首筋を舐められた。
「っや、やめて…やめて下さい!」
無言で俺の脚の間に体をねじ込まれる。
「ユウヤさん!ユウヤさん!痛い!」
その時、白々しくスマホの着信音が鳴った。デフォルトのマリンバのやつだ。
ユウヤさんの動きが止まる。
「電話!出てください」
ゆっくりと顔を上げたユウヤさんは、泣きそうだった。
「ごめん…」
呟くように言って、ゆっくりと背を向けてスマホに手を伸ばした。
「もしもし…あぁ、うん…」
小さく聞こえる会話を背中で聞きながら俺は部屋を出た。
翌日、彼はホテルにはいなかった。
面白そうな町があるからそこに行くって言ってた 、と同室の男から聞いた。
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