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第13話
1年半後…
ホシザキジュンの話
就職した大手印刷会社の営業の仕事は面白かった。
思っていたのとは全く違っていたけど、前任者から引き継いだ様々な企業の広報と、うちが抱える代理店や制作会社を繋いでものを作り上げてゆくのが性に合っていた。
メディアがデジタルに移行して規模は小さくなっているとはいえ、製造業ではまだ紙ハードの印刷物の需要があるのは意外だった。
今日はいつも見積もりから大きく叩かれる得意先から毛色の違う注文が入った。
ヨーロッパ本社とは違う、日本向けのパンフレットを作りたいと話だった。今手が空いているフリーのデザイナーや制作会社、印刷所の根回しと取り纏めを任された。
リストを辿る視線がさっと過ぎた一行に引き戻された。
カタカナでユウヤとあった。まさかな、と思いつつクリックして実績を確認し、先輩に聞く。
「あぁ、いいんじゃない。手堅くまとめてくれる人だよ」
承認をもらって連絡した。
彼だった。記憶の中の声とは少し違う、仕事をしている人間の声だった。
案件の概要とスケジュールの空きを確認して切る。星崎、と名乗ったが特に反応はなかった。自分が、気づいて欲しいのかすらよく分からなかった。
3日後、簡単なサンプルを作って貰って一緒に客先に行った帰り、制作メンバーとの顔合わせという名目で懇親会をすることになった。僕の顔を覚えてもらう会でもあった。
「こんばんはー、遅くなりまして」
「松田さん、先に飲み始めてますよ」
「はいはい。あ、これ、うちの新人の星崎です」
「はじめまして、今回担当になった星崎です、どうぞよろしくお願いします」
お辞儀をして顔を上げると、机の奥に見覚えのある余裕そうな笑顔があった。
「久しぶりだね、星崎くん」
背筋に冷たい何か走った気がした。
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