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第14話

ユウヤの話 「知り合い?」 「はい、僕が旅行した時に偶然同じ宿にいらっしゃってお世話になりました。お久しぶりです、お元気でしたか?」 松田さんの問いに星崎くんが端的に答える。 俺、って言ってたのが僕になっていた。さすが社会人、さすが星崎くんだ。 相変わらず涼やかな声でスーツもよく似合っている。無防備な王子さまっぽいところは相変わらずだけど。 懇親会と言っても、新人の星崎くん以外はみんな顔見知りだった。僕のこともよく知っているから遠慮なくプライバシーにも踏み込んでくる。 「ユウヤさん、最近別れたって噂ほんと?」でた、松田さんはすぐこういうことを聞いてくる。 「嘘ですよー、誰から聞いたの?」笑顔笑顔。 「F(エフ)デザインの古谷君。えーじゃあ5年目突入?」 「いや、別れたのはかなり前ですよ」 「あー、なるほど。ね、こんど新宿二丁目案内してくださいよ」あーあ、慣れたとはいえこういうのはほんとに面倒くさい。でも笑顔。 「僕二丁目は殆どいかないんでむしろ案内してほしい位ですよ」 星崎くんは黙って聞いている。 「じゃあ、今度行きましょう!星崎くんも一緒にさ」松田さんは無邪気に話を振る。 「あ、じゃあ、お邪魔でなければついて行きます」 どう考えても松田さんの好奇心を満たすことが目的であろう懇親会は終わった。 「松田さんは、総武線でしたっけ?」 「そうそう、ユウヤさんはどうすんの?」 「大手町まで行ってから乗ります」 「じゃあ僕も一緒に行きます」と星崎くんが言った。 東京駅を抜けながらぽつぽつと話をする。慎重に、触れない話題があることを意識しないように。お互い細い線からはみ出さないように過去をなぞって行く。 「デザイナーだったんですね。クリエイティブの人かとは思ってたけど少し意外でした」 「そう?星崎くんは人当たりがいいから営業の仕事があってそうだね」 均衡を崩したのは彼だ。 「そうですか?そんな風に見えるんですね」 と言って振り向いた顔が真剣だった。 酔っているわけでもなさそうだ。いや、酔っているのは僕の方かもしれない。 「そんな表情されると襲われそうだね」 少し間を置いて、僕を真っ直ぐ見つめて星崎くんは言った。 「あの時の僕みたいに、ですか?」 やっぱり怒ってたんだ。

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