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第15話
星崎潤の話
いらないことを言ってしまったようで、ユウヤさんは黙って立ち止まり、微笑んだ。
これ以上踏み込むな、って線を引くみたいな笑顔だ。でも視線だけは絡み合っている。
酔ってるせいかもしれないけど、目の奥にいつか見た光が見える気がする。
抱きたい、って聞こえない周波数で言われている気がする。自惚れ過ぎかな。
「星崎くん、路上で見つめすぎ。さすがに恥ずかしい」
「あ、すいません…」
「もう一軒、行く?」
「え?」
「行く?行かない?」ユウヤさんはいつも余裕そうに笑っている。
終電まで、って行ったスペインバルは適度に賑わっていた。
窓際のカウンターからはほぼ全ての線路が見えるせいか鉄の人たちもいる。
「この前は、ごめんね。ってもう1年半も経ってるけど」
「いえ、何もなかったので別に気にしてません」
嘘、気にしている。あの時泣きそうな顔だったのを、切羽詰まった表情だったのを、そして電話に出た時の安堵した声を。
「そしてお仕事のご指名ありがとうございました。僕って知ってて掛けたの?」
「確信はなかったけど、そうですよ」
「へえ」
あ、口調が変わった。
「もしかして、僕が別れたって聞いて次は…って思ったりした?」
冗談めかした言葉に、ショックを受けている自分がいた。
答えを探してユウヤさんの顔を見る。探るような表情で見られている。
何か言おうとした時、後ろに人が来た。
「ラストオーダーですが…」
「あ、大丈夫です」ユウヤさんがすぐに返す。
「家、どこだっけ」
急に聞かれて一瞬間が空いた。そうだ、終電。
「武蔵小山です、ユウヤさんは?」
ちょっと驚いた顔をされた。
「近いな、僕は学芸大」
「じゃあ山手線でもいいじゃないですか」
「星崎くんも。僕は松田さんに個人情報吸い取られそうだから逃げた」
「すいません、会社のコンプライアンスはちゃんとしてますから」
いつものユウヤさんに戻って楽しそうに笑った。
「ふふ、何かあったら星崎くんの個人情報を人質にするよ」
結局、東京駅に戻って、二人で馬鹿みたいに混んだ山手線に乗った。
身体を半身 でくっつけて揺れている間に、屋上でした時のことを思い出していた。
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