16 / 31
第16話
ユウヤの話
トイレに立ったついでに会計を済ませて席に戻った。
席から見えていたようで、
「おいくらでしたか、半分払います」と生真面目に財布を開いている。
「これ、接待だから。経費で落とすからいいよ」
傷つけようと思って言った言葉が、思った通り彼を傷つけたことが分かった。
これ以上近づくと、気持ちが止まらなくなりそうで、イライラする。
結局東京駅まで戻って山手線に乗った。
人に押されて身体がくっつく。目の前にある横顔が記憶の中の恍惚の表情と重なる。
思い出してはダメだ。
「星崎くん、就職してから合コンとか行ってないの?女の子にモテそうだよね」
「…行ってますけど、数合わせで入るだけですよ」ちょっと不愉快そうな表情が子供っぽい。
「恋人は?」
「残念ながら…呪 いがかかってるみたいですね」
さすが王子様、呪いがかかってるんだ。
またあの目で見つめられる。そうか、この子は見つめるのが癖なんだろうな。
「呪い?」
たっぷり水を含んだ瞳が伏せられて視線が窓の外に向いた。
「そうですよ、誰かがかけた身動き取れなくなる呪い」
「……まさかと思うけど…本当に好きなの?」電車じゃ目的語は言えないけど、彼なら分かるだろう。
「好き、と言う言葉の範囲が曖昧ですけど、今日会った時に呪いを掛けられていたことが分かりました」
「あのさ、思い出補正って知ってるよね?旅先のいい思い出でいいんじゃない?」
「いえ、そっちの件じゃありません」
じゃあ僕が無理にやろうとした時の事か?
視線を動かして、じっと見つめられる。全身で訴えかけてくる。それに反応して ------早く早く----- って頭の中で声がする。
ああ、もう電車はもうついてしまうし、星崎くんは仕事相手だ。
電車は目黒について、星崎くんはしっかりと社会人の挨拶をして降りて行った。
扉が閉まる直前、僕は後を追って降りた。
ともだちにシェアしよう!