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第16話

ユウヤの話 トイレに立ったついでに会計を済ませて席に戻った。 席から見えていたようで、 「おいくらでしたか、半分払います」と生真面目に財布を開いている。 「これ、接待だから。経費で落とすからいいよ」 傷つけようと思って言った言葉が、思った通り彼を傷つけたことが分かった。 これ以上近づくと、気持ちが止まらなくなりそうで、イライラする。 結局東京駅まで戻って山手線に乗った。 人に押されて身体がくっつく。目の前にある横顔が記憶の中の恍惚の表情と重なる。 思い出してはダメだ。 「星崎くん、就職してから合コンとか行ってないの?女の子にモテそうだよね」 「…行ってますけど、数合わせで入るだけですよ」ちょっと不愉快そうな表情が子供っぽい。 「恋人は?」 「残念ながら…(のろ)いがかかってるみたいですね」 さすが王子様、呪いがかかってるんだ。 またあの目で見つめられる。そうか、この子は見つめるのが癖なんだろうな。 「呪い?」 たっぷり水を含んだ瞳が伏せられて視線が窓の外に向いた。 「そうですよ、誰かがかけた身動き取れなくなる呪い」 「……まさかと思うけど…本当に好きなの?」電車じゃ目的語は言えないけど、彼なら分かるだろう。 「好き、と言う言葉の範囲が曖昧ですけど、今日会った時に呪いを掛けられていたことが分かりました」 「あのさ、思い出補正って知ってるよね?旅先のいい思い出でいいんじゃない?」 「いえ、そっちの件じゃありません」 じゃあ僕が無理にやろうとした時の事か? 視線を動かして、じっと見つめられる。全身で訴えかけてくる。それに反応して ------早く早く----- って頭の中で声がする。 ああ、もう電車はもうついてしまうし、星崎くんは仕事相手だ。 電車は目黒について、星崎くんはしっかりと社会人の挨拶をして降りて行った。 扉が閉まる直前、僕は後を追って降りた。

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