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第17話
星崎潤の話
目黒で降りて歩いて行く。見ない、電車は見ない、振り向かない。
横をさっきの電車が通ってゆく。家に着くまでは振り返らない、ってどうでもいいマイルールでも作らないと、どこまでも流されてしまいそうだ。
早足で階段を降りて行く僕の横を並走する人がいて歩速を緩める。
ユウヤさんだった。
「どうしたんですか?」
回り込まれて見上げられた。目を逸らさずに、まっすぐと。
終電に向かう人々が急ぎながらも、じろじろと見ながら通り過ぎて行く。
ユウヤさんは何も言わなかった。ただ見ているだけ、それだけで胸が甘く締め付けられる。
どの位時間がたったんだろう?
音をたてて唾を飲み込んだら、微かに頷いて、はっきりとした声で言われた。
「行こう」
頭が痺れる。心臓が、どうしよう、どうしよう、どうしようって言ってる。2人黙ったまま電車に乗って僕の部屋まで行った。
玄関に入ったら靴を脱ぐのももどかしく、お互いにジャケットを脱がせあう。ユウヤさんは自分と僕のネクタイを緩めながら「キスしてよ」って言ったくせに、もたつく僕の唇はすぐに塞がれた。
記憶をたどるように舌が絡み合う。唇をなぞり、暖かい生き物が身を摺り寄せるように口の中を動き回っている。切れ切れに息継ぎをしながら引きずられるように廊下を歩き、ベッドに倒れこんだ。
服も、下着も、邪魔だ。
ユウヤさんの指と唇が身体中をなぞっている。柔らかいところも、硬いところも触れられた場所が喜んでいる。
知らないうちに僕は大きく喘いでいて、またユウヤさんに
「やっぱり声、大きいね」って笑って言われた。
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