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第22話
ユウヤの話
何でもいいから、誰でもいいから人と会わなければという衝動にも似た欲求。何かにしっかりと捕まって流されてしまわないように。
そう思った時に連絡をした相手は星崎くんだった。
返信の時点で体よく断られると思っていたけれど。
これが不安なのか、性欲なのか分からないけど無性に誰かと体を重ねたかった。
だけど前回やり逃げに近いことしておいて、都合が良すぎるじゃないか。
突然のランチの後にあからさまに部屋に誘ったのだから、怒られるか、あきれて断られてもおかしくなかった。
でも星崎くんはそのどちらもしなかった。
「ユウヤさん」
立ち止まって振りかえると、ふわふわ定まらない視界の中でこちらをじっと見つめている。何を考えているのか分からないけど、彼は瞳を逸らさない。
真昼間の、人通りが少ないとはいえ住宅街で、僕は抱きしめられた。頬に当たっている耳からじんわりと体温が伝わってくる。微かに上品なボディオイルの匂いがして、あの夜の事を思い出しているのは僕だけだろうか?
僕より少し背が高く、華奢だけど筋肉のついた腕が背中を軽くたたいて僕を肯定してくれる。
どうかそのまま、そのままでいて欲しい。
でもすぐに体は離れてゆく、こんな場所だから当然か。
「いいですよ、コーヒー…だけなら」
体を離して星崎くんは言った。
「え?」
不安で縋り付こうとしている自分の奥深いところで、何かがぞわりとする気配がした。
「…だけなら、って何?」
きっと今嫌な顔をしている。きっとひどい顔をしている。
星崎くんの困ったような表情が見える。何かを言おうとして唇を動かしかけたけど、ためらった後、静かに口を閉じた。
僕はそのまま何も言わずに部屋に向かって歩き始めた。
きっと、彼はついて来てくれる。祈るように、振り返りたい気持ちを抑え込んだ。
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