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第24話

ユウヤの話 あんなふうにキスをねだった癖に帰るとか言われても…。 答えを無視して体を持ち上げると、困った顔をしながら素直に立ち上がってくれた。 でも、ベッドのある部屋を移動しようとしても頑として動いてくれない。散歩中に帰りたくなくなった犬みたいに頑なだ。 無理に連れていくのも大変だしどうしようかと思ったいたら、掠れているけどきっぱりとした声で言われた。 「ユウヤさん、僕はあなたの事、好きです。でもセフレにはなりたくない…。 それに今日は、夜、家族でご飯を食べることになってるんです」 この状況で聞く家族と言う言葉は昂ぶっていた気持ちに水を差すのに十分だった。 「は、ははっ…、あはははははっ…はははははっ…」 何がおかしいのか自分でもわからないまま笑い出していた。声の大きさをコントロールできず、星崎くんを見ると目を見開いて固まっていたけど、止まらない。 可愛い子だと思う、いいご両親に大切に育てられたんだろうな、でもいい子すぎるんだよ。だからはっきり言ってあげよう。 「ははっ…は…。星崎くん、無防備すぎるんだよ、優しすぎるんだよ。何でも受け入れて、流されて、許しちゃって、今日もうちまでついて来て。何考えてるんだよ。 …君といると、多分僕は暴力を振るってしまう。 色々コントロールできなくなってしまうから、もうこんな風についてくるなよ…」 自分で誘っておいて何を言っているんだ、僕は。 情けなくって勝手に涙が込み上げてきた。 情緒不安定すぎる、薬飲まなきゃってどこかで冷静に考えている自分がいる。 星崎くん見られないように背中を向けて言う。 「あー、もう、早く行って。かっこ悪いとこ見られたくないから」 何も返事がなかった。音もしなかった。 帰った?と思った瞬間、顔を覆っていた手を掴まれた。 「ユウヤさん、泣いてる?」 心配そうな顔でのぞき込まれた。なんでそんな顔するんだよ。 「帰れって言っただろ!早く帰ってくれ!」 思わず大声を出し、思い切り手を振り払り払おうとしたが、星崎くんはそうさせてくれなかった。手首が動かせない事に驚いて顔を上げると、困ったような、申し訳なさそうな表情をしていた。 「あの…色々誤解してるみたいですけど、僕は怒ってない訳でも傷ついてない訳でもないんですよ」 星崎くんの線の細さからは想像してなかった力で手首を保定されている。動かそうとしても痛いので、顔をしかめて反対の手で指をはがそうとしたら、はっとして手を開いてうつむいた。 「本当に迷惑だっていうならもう会いません。でもなんで連絡くれたんですか。なんであの時追いかけてきたんですか?」 この子の言葉はいちいち正論だ。自分の中ですら正当化できてないのに答えられるわけがない。 「はっ、あはははは!… …やりたかったからだよ、それ以外ないだろ!」 もう、これ以上バカな事言いたくないのに、勝手に口から言葉がこぼれ出る。 何も聞かないでくれ、言わないでくれ、と必死で祈るのにダメ押しの様にまた問われる。 「…じゃあ、なんで泣いてるんですか?」 鼓膜から伝わってじわじわと頭の奥を痺れさせる声で追い詰められて、いま頬が濡れている事にも気付かなかった。

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