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第25話
星崎潤の話
いつも強がって余裕ある顔しているけど近寄ると途端に警戒するところが、懐きかけの動物みたいで放っておけない、って僕が思ってると知ったら機嫌を損ねそうだ。
そんな風に考えていると、さっきまでの険しい空気から想像できない様な静かな声で言われた。
「もう…帰って…、早く帰ってくれ…」
ユウヤさんの仕打ちや言動に腹が立ったり、傷ついた事もあったけれど、それでもこのまま黙って出て行くことはできない。
セックスも、意地悪なところも、頑張って平気そうな顔してるところも含めてこの人が欲しいし、この人に求められたい。
でも、月並みな言葉で言えば今の関係は、セフレ候補扱いされているのに僕が一方的に好きになっているに過ぎない。そんな事は最初から分かっている。
駅で追いかけてきて射すくめられた時に見せてくれた捕食者みたいな眼差しを、今目の前の人の中からもう一度引きずり出したい。
僕よりもしっかりした骨格なのに無防備な背中を見ながらそんな事を思っていると、ポケットに入れていたスマホが振動した。画面をスワイプして電話に出る。
「はい…」
母親からだった。今日の待ち合わせ時間の確認だろう。
話を聞きながら、声を出す前に一回深呼吸して、息を吐き切る前にここに残る事を決めた。
「ごめん、直前で悪いんだけど、いけなくなっちゃったんだ。だから今日は父さんと清香 と三人で…うん、うん。ありがと。はい…」
通話を終えながらユウヤさんの方を見ると、相変わらず背中を向けているけど話を聞こえていたはずだ。
振り向くことなく深く息を吐いた後、低い声で「帰ったら?」と言われた。
そんな構って欲しそうな背中を無視して部屋を出て行く訳にはゆきませんよ。
「一緒に晩御飯食べてから帰ります。外に行きますか?それとも僕が作りましょうか?」
「は?」
勢いよくこちらに体が向いたかと思うと、強い視線を寄越された。
「あのさ、さっき言ったこと聞いてた?」
「暴力の話ですか?僕だって怪我したくないから危なければ逃げるし、ユウヤさんが刃物でも持ち出さない限り大丈夫ですよ」
素手なら多分何とかできますよ。あまり筋肉ついてないからそうは見えないでしょうけどね、と心の中で付け足した。
「ユウヤさん、さっきの暴力って…」
言いかけた途端、部屋の空気に電気が走ったような気がした。ユウヤさんの、握りしめている拳に力が入っている。
「君には関係ない!人のプライバシーに踏み込むな!帰れよ!」
感情の爆発に気持ちが弾かれそうになる。だからってこんなところで引き下がるわけにはいかない。
「…すいません。でも、ユウヤさん自分でコントロールしてますよね?さっきだって、やろうと思ってたら無理に部屋に連れていくこともできたじゃないですか」
彼は強張った顔のまま、何かを思い出しているように眉根を寄せて空中の一点を見つめて固まっている。
重い空気を突き崩したくて、できるだけ普通の声で言ってみた。
「冷蔵庫の中、見ていいですか。材料があれば僕が作ります」
ユウヤさんがゆっくり顔を上げて、背筋を伸ばした。
「勝手に…すれば」
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