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第27話

星崎潤の話 椅子に腰かけて床の一点を見ていたユウヤさんは、ひとしきり話して安心したようにこちらの世界に戻ってきた。 おかえりなさい。 こんなことで何かが解決するわけじゃないと分かってはいる。でも、彼が意固地に保とうとしていた僕との距離は少し縮まったのかな。縮まっていてほしい。 肩の力を抜いて椅子に座ったまま前を見ているユウヤさんの首筋を見下ろす。 上から見ると骨格の違いがよく分かる。身長差はそんなにないけれど、がっしりした印象があるのは意外としっかりした身体のフレームのせいだ。 襟足や、髪から覗く耳のうぶ毛がふわふわしていて、ついじっと見てしまう。 何気なく指先でそっと首の付け根の骨の膨らみをなぞってから緩くウェーブがかかる髪に触れると、しっとりした手触りが気持ちいい。無意識に何度も指で梳いていたら、名前を呼ばれた。 「星崎くん」 「はい」 横に立っている僕を見上げ、腕を伸ばして髪の毛に絡めていた手を掴まれた。ユウヤさんが苦笑と照れの入り混じった表情で言った。 「犬か何かと勘違いしてる?それとも誘ってる?」 誘ってる?そりゃあ誘いたいに決まってる。 意地悪そうな笑顔で、もう答えを知ってる癖に僕が自分で言うのを待っている。彼の目の奥の強気な光に気が付いた瞬間身体が反応して、その後する事への期待が膨れ上がってくる。 「じゃあ、誘っても…いいですか?」 あ、でも今日2回も帰るって言い張ったっけ、馬鹿だな僕は。でも今更恥ずかしがっても遅い。 困ったような嬉しそうな顔をしてユウヤさんは椅子から立ち上がりながら、両手の指先で僕の耳に触れた。ゆっくりと形をなぞられるだけで身体の力が抜けそうになる。見つめられているから目を逸らせない。 ユウヤさんの唇が僕の口元を素通りして、頬に触れ耳に移動する。くすぐったさに思わず首をすくめながらも、その後にきた温かい舌の感触にすぐに声が漏れてしまう。 「ふあっ、…ぁあ…ん…」 耳朶に何度もキスされながら、荒い息の合間に聞かれた。 「ね、…なんか武道やってた?さっき腕が全然振りほどけなかったんだけど…」 「ふっ、…ん?あ…あ、ぃ…きどう……」 「え?何」 首筋へと移動した愛撫で乱れた息を整えながら答える。 「っは、はぁ……え?…あの、合気道…ずっとやってます」 「もしかして有段者?」 「…はい」 なんでそんな事聞くんだろう、と思いながら答えると、ユウヤさんが弾かれたように笑い出した。 「は、あははははは、ははっ」 何かツボに入ったように明るい声で体を揺らしている。 「…あの、そんなにおかしいですか?」 すっかり笑う事に夢中になっている。困ったなぁ、気が削がれてしまったのならもう帰った方がいいのかな。 「いや、笑ってごめん、あはは、は、はぁ、はぁ。…あのさ、無理にしようとしてもできなかったって事かと思うと…。自分の間抜けさがおかしくて…」 そういいながら口元に笑みを残したまま僕の唇にキスをしてから真顔に戻った。 「ふぅ、やり直し」 真直ぐな視線に射すくめられる。この人は、捕食者だな、そうでなければ猟犬。食べられる快感を与えてくれる人。 親指が僕の唇に触れる。指をそっと食むと、こちらを見つめたまま「もっとして」と声を出さずに唇を動かした。 目を合わせたまま親指、人差し指と順番に口に含んで、舌で指の腹を撫でていると恍惚の光が目の奥に灯る。 すっと指を抜かれてあれ?と思った瞬間、腰に腕を回されて抱き上げられ、足が床を離れた。 「えっ、あの…」 そのままユウヤさんは僕を抱き抱えて廊下を歩いて行く。 「嫌だったら…振り解いていいよ」

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