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第一章・魔王と王妃2
まずイスラが私の前に出てきました。
「ブレイラ、今日も綺麗だ」
「あなたもステキですよ」
「当然だ。俺はブレイラの王様だぞ」
「ふふふ、そうですね、あなたは私の息子で、私の王様。ずっと側にいてくれましたね」
私はイスラに手を伸ばすと肩にそっと手を置きました。
肩は私よりも高い位置にあって、もう見上げなければ見つめあうことができません。
面白くない気持ちもあるけれど、それ以上にあなたの成長を嬉しく思います。
イスラが身を屈めてくれて、私はその頬にそっと唇を寄せました。
「ブレイラ、おめでとう」
「ありがとうございます」
「ああ」
イスラに笑いかけると次はゼロスです。
ゼロスが私の前に来てくれました。
ぎゅ〜っと私の手を両手で握ってくれます。
「ブレイラ、僕からもお祝いさせて? おめでとう!」
「ありがとうございます」
ゼロスの元気な祝福に目を細めました。
ゼロスもニコリと笑うと、ぎゅっと握っていた手を今度は宝物のように扱ってくれます。
手をそっと包むように持って、指先に唇を寄せてくれました。私を恭しく扱ってくれる姿は十五歳ながら冥王の名に恥じぬステキな姿ですね。
「大きくなりましたね」
「まあね。僕だってもう十五だし。もうオトナでしょ?」
「ふふふ、オトナですか?」
「オトナだよ。もうすぐ父上と兄上の身長も抜いちゃうんじゃないかなあ」
おや生意気な。うしろでハウストとイスラが目を据わらせていますよ。
このままじゃいけませんね。
私はゼロスに笑いかけると次はクロードです。
クロードが私の前に来てくれました。
「ブレイラ、おめでとうございます!」
「クロード、ありがとうございます」
私はクロードと目線を合わせるように少し屈みました。
近くなった視線にクロードは照れくさそうにはにかみます。
「ありがとうは、わたしのほうです」
「ん?」
「わたしのおやになるために、ちちうえとけっこんしてくれてありがとうございます!」
「…………」
……これはもう完璧に思い込んでますよね。
いろいろ訂正したい気もしますが……。
「わたしのブレイラです!」
そう言って嬉しそうに私の手をぎゅっとしてくれます。
そんな可愛いことをされたら何も言えなくなってしまうじゃないですか。
「ふふふ、クロードは可愛いですね」
いい子いい子と頭を撫でてあげました。
今日も完璧に前髪がセンター分けで整えられていますね。崩してしまわないように、いい子いい子と。
この可愛さの前では何も言えなくなってしまいます。クロードへの訂正はもう少し大きくなってからにしましょう。
こうして三人の息子から祝福を受けるとまたハウストの隣に立ちました。
そして私とハウストは手を繋いでそのまま高殿のバルコニーへ。
バルコニーに出た瞬間、ワアッと大歓声があがりました。
パルコニーから見渡せる広場にはたくさんの民衆が集まっていました。
私とハウストの成婚五周年を祝うために魔界各地から集まってくれたのです。
「魔王様! 王妃様! 万歳!! 万歳!!」
「魔王様!! 王妃様!!」
「王妃様〜!! おめでとうございます!!」
「魔王様、王妃様、おめでとうございます!!」
大歓声とともに紙吹雪が舞いました。
たくさんの祝福に私とハウストはバルコニーから手を振ります。
広場の光景に瞳に涙が浮かぶ。
でも今は泣きません。笑顔で民衆に手を振ります。
たくさんの祝福にたくさんの感謝を伝えたい。
魔界で人間の私が受け入れられている幸福に胸がいっぱいになりました。
祝賀式典が始まって三日が経過しました。
ハウストと私の成婚五周年祝賀式典は五日間続きます。
一日目は式典開式宣言が行なわれ、集まった民衆にバルコニーから挨拶をしました。
二日目から最終日まで魔界各地でセレモニーや祭典などが行なわれ、子どもから大人までお祭り騒ぎです。まるで魔界全体がカーニバルのような特別な期間に突入です。
それは私たち家族も同じでした。セレモニーに出席したり、舞踏会やパーティーに参加したりと多忙な時間をすごします。
この成婚五周年祝賀式典期間は休む間もないので大変ですが、たくさんの魔族に祝福されて幸福な期間です。
そして今日は三日目でした。
今日も午前中はハウストと私とクロードはセレモニーに出席し、イスラとゼロスはそれぞれ魔界各地の式典に呼ばれています。二人は勇者と冥王ですが、この期間は魔王の子息として呼ばれていました。
朝から慌ただしく過ごしていましたが、昼頃にイスラとゼロスも城に帰ってきました。それに合わせて私とハウストとクロードも帰ってきます。今夜は晩餐会がありますが、それまでのひと時の休息の時間です。
「お疲れさまでした。イスラとゼロスも疲れたんじゃないですか?」
私は帰ってきたイスラとゼロスに紅茶を淹れました。
期間中の二人はハウストと私の第一子と第二子として魔界各地の祭典やセレモニーに呼ばれているので、いつもとは違った気疲れもあるでしょう。
でもイスラとゼロスはそれぞれ楽しんできたようですね。
「大丈夫だ。むしろこの期間は子息扱いされていることで、普段は神殿に封じられている魔道具を見せてもらうことができたんだ。ラッキーだったくらいだぞ。十年に一度しか外に出さない門外不出のものらしい」
イスラは朝から西都にある神殿で開催されたセレモニーに参加していたのです。
そこでは門外不出の魔道具を見ることができて上機嫌ですね。
「それは良かったですね」
「ああ、どうやら式典期間中はどんな魔族も浮かれているようだ」
イスラがからかうように言ってちらりとハウストを見ました。
ハウストは指でこめかみを抑えます。
「……門外不出の魔道具をわざわざ出してきたのはどこの神殿だ」
「まあまあ、たまにはいいじゃないですか。浮かれるほど祝ってくれているなんて、私は嬉しいですよ?」
私は慌ててフォローしました。
せっかく成婚五周年の祝賀式典を楽しんでくれているんですから。
私は話題を変えようとゼロスを見ます。
「ゼロスはどうでしたか? あなたは南都のパレードに呼ばれていたんですよね?」
「サイコーに楽しかったよ〜。パレードではみんな綺麗にオシャレして、どこに行ってもお祭りみたいだった」
「あなたも楽しめたようですね」
「うん、南都もすごく盛り上がってたよ」
興奮したように感想をおしゃべりしてくれます。
私も話しを聞いているだけで楽しくなりましたが、……あ、いけません。クロードが下唇を噛んでじーっとゼロスを見ています。
少し恨みがましげなのは羨ましいからですね。この子はハウストと私と一緒に王都のセレモニーに参加していましたが、セレモニーは厳格な儀式だったので五歳児にとっては退屈だったのです。
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