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第一章・魔王と王妃3

「……わたしもパレードみたかったです」 「クロード、そんな顔しないで。祝賀式典の最終日は王都でもパレードがあるんだし」  ゼロスが苦笑して慰めました。  でもクロードは面白くないようですね。 「そうですけど、そうじゃなくて……」  クロードが言いよどみます。  分かっていますよ。最終日のパレードは私たちのお披露目ですから厳格な公式パレードです。でもクロードはお祭り気分になれるパレードが見たいんですよね。  困りました。さすがにそれを叶えるのは難しいのです。  そんな末っ子のワガママに次男ゼロスがニヤリと笑いました。 「クロードクロード、ちょっとこっちおいで」  ゼロスがクロードを手招きします。  クロードが側まで行くと二人はこそこそ内緒話し。ゼロスがなにやらこそこそ話すと、クロードの顔がみるみる輝いていきます。 「ええっ、そうなんですか!? おうともそんなことになってたなんて!!」 「ね、想像すると楽しくなっちゃうでしょ?」 「はいっ!」 「父上なら連れてってくれるんじゃないかなあ〜」  ゼロスはわざとらしい口調で言うと、ちらりっとハウストを見ました。  クロードも期待たっぷりの瞳でハウストを見ます。 「ちちうえ、おうともおまつりみたいになってるんですよね! わたしもいきたいです!」 「っ、おいゼロス、お前……」  ハウストが苦虫を嚙み潰したような顔でゼロスを見ました。  ゼロスはとぼけた顔で「クロードも行きたいんだって」と満面笑顔です。  おやおや、これはゼロスの策略ですね。  ゼロスはクロードを巻き込んで王都に繰り出したいようです。  しかも。 「ブレイラも行きたいよね! ほら、まだお祭り気分を味わってないクロードも行きたいって!」  私まで巻き込んできましたね。  それにハウストは眉間にしわを刻みます。 「ゼロス、ブレイラを巻き込むな。卑怯だぞ」 「ええ〜っ、でもブレイラだってクロードを連れてってあげたいって思うでしょ? クロードはまだちっちゃいから僕たちみたいに自由に出かけることもできないし。僕はクロードのにーさまとしてお祭りに連れて行ってあげたいの」  ゼロスの瞳がキラキラしています。  キラキラキラキラ。  ああいけません。私の気持ちもそわそわして、瞳がキラキラしてしまう。あなたの弟を思う優しい気持ちは分かりました。  でもね。 「ああゼロス、なんて優しいっ。でもね、それはワガママというものですよ」 「ブレイラ、でもっ……」 「分かっています、分かっていますとも。あなたの弟を思う気持ちはほんもの。私にも叶えてあげたいという気持ちがあります。でも今夜は晩餐会がありますから……、ん? おやおや? 晩餐会までまだ時間があるようですね」 「えっ、晩餐会まで時間あるの!?」 「はい、あるようですよっ」  私とゼロスはそろってハウストを見つめました。  そんな私たちにハウストが盛大に呆れた顔をしています。 「……へたくそな芝居はやめろ」 「あ、バレちゃった?」とゼロス。 「おかしいですね、上手にしたつもりなんですが」と私。  上手に演技したつもりですが、どうやらハウストにはバレバレだったようです。  でもバレているなら話しは早い。 「ハウスト、私からもお願いします。街はお祭りのようになっているようですから、みんなで見に行きましょう」 「……本気か?」 「ごめんなさい、無理を言っていますよね。でも、みんなで行けるなんて楽しそうで」  もちろんワガママは承知です。  本来なら王妃として我慢すべきことです。でもどうしてもお祭りのようだという王都の街に私も行ってみたくなったのです。もしかしたら成婚五周年のお祝いに浮かれているのかもしれませんね。  お願いするとハウストはムムッと眉間のしわを深くしました。 「……ブレイラ、お前まで」 「ハウスト、お願いします」  ハウストをじっと見つめてお願いしました。  そんな私の肩からぴょこりっとゼロスが顔を出します。 「父上、お願い! みんなで街に行こうよ!」 「ちちうえ、おねがいしますっ。わたしもおまつりいきたいですっ」  ぴょこりっ。反対側の肩からクロードが顔を出しました。  私の背後からじーっとハウストを見つめるゼロスとクロード。二人の瞳はうるうる潤んでいて、ああなんて可愛らしいんでしょうね。  私などはなんでもお願いを聞いてあげたくなりましたが、……どうやらハウストは少し違うようで。  ハウストの大きな手がぬっと伸びて、ガシリッ。ガシリッ。 「なにがお願いだ。お前たち、その顔にほだされるのはブレイラだけだと思え」 「イタイッ。父上、いたいからッ……。僕の顔ぎゅっとしないでっ、潰れちゃう……!」 「ああああっ、ちちうえいたいっ。いたいです〜!」  ゼロスとクロードが悶絶しました。  ハウストの大きな手が二人の顔面をガシリッと掴んだのです。 「ああハウスト、二人の可愛い顔がっ……」 「ブレイラ助けてっ。僕のかわいい顔が〜!」 「わたしのおかお〜っ! ブレイラがかわいいっていったのにっ……!」 「甘えるな」  ハウストが容赦なくぎゅっぎゅっとします。  でもそうやって騒いでいる三人の後ろでイスラが出かける支度をしていました。しかも。 「おい、行くんだろ。早くしないと時間がなくなるぞ」 「……イスラ、お前はそれでいいのか」 「ブレイラが行きたいと言ったんだ。どうせ行くんだろ?」  イスラがさらりと答えました。  その発言にハウストはこめかみを押さえます。 「お前には抗おうという気持ちはないのか」 「馬鹿を言うな、俺は四界のすべてに抗う覚悟がある。ただしそこにブレイラは含まない」  イスラがキリッとした顔で答えました。  端正でとってもかっこいい顔ですが、ハウストは「そういうとこだぞ……」と心底呆れた顔になりました。

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