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第一章・魔王と王妃4
でもハウストはため息を一つつくと私たちを順に見ます。
まず私と目が合ったので瞳を潤ませてみました。お願いしますと願いを乗せて、じっとハウストを見つめます。ハウストはうっとたじろいで今度は横のゼロスを見ました。
するとゼロスは「父上、お願いっ」と手を組んでお願いポーズ。
次にハウストがクロードを見ると、クロードはゼロスを見てなるほど……と頷く。そしてゼロスと並んで一緒にお願いポーズ。
二人並んだお願いポーズに私は胸がきゅんっとしましたが、ハウストは目を据わらせてしまいます。
でも次にイスラを見ると、イスラは真顔のまま淡々と出掛ける支度をしていました。これにはハウストも早々に諦めます。
そしてハウストがまた最後に私を見ました。目が合ったのでこくりっと頷いてみせます。
そうするとハウストが「四対一は不利すぎる……」とため息をついて苦笑しました。
「……分かった。ただし晩餐会までには帰ってくるぞ」
「ハウスト、ありがとうございます!」
私は嬉しくなってハウストに抱きつきました。
ハウストも笑って受け止めてくれます。
「仕方ない奴だな。……こうなることは分かっていたが」
俺はどうしてもお前に甘い、とハウストが少し困ったように目を細めます。
ああいけません。私は嬉しくなってしまう。
「困りました。あなたに甘やかされるのが癖になってしまいそう」
いけませんねと小さく笑いました。
近い距離で見つめあってなんだかいい雰囲気になりましたが。
「父上、僕も癖になるほど甘やかして〜!」
「わたしも! わたしもです!」
私の背後からゼロスとクロードが飛び出します。
勢いのまま抱きつこうとした二人ですが、寸前で避けられました。
「ふざけるな。甘えるなと言っただろ」
「ええ、ケチ〜〜」
「……けちです」
「もう一度言ってみろ。とりやめてもいいんだぞ」
「さっきのは無しで!」
「なしです!」
ゼロスとクロードが即座に訂正しました。
そしてあっという間に出掛ける支度をします。
「父上、ブレイラ、早く早く〜!」
「ふたりともはやくいきましょう!」
素早い二人に私は笑ってしまいました。
私も急いで準備を終えて、家族五人で王都の街へ繰り出しました。
「わああ〜っ、ほんとにおまつりみたいです!」
手を繋いでいるクロードが黒い瞳をキラキラさせて歓声をあげました。
いつになくはしゃいでいる姿に目を細めます。
王都の街に繰り出すのは初めてではありませんが、このような催しのある時は初めてですからね。
でも私も感激する気持ちはよく分かりますよ。私だってそう滅多にあるものではありません。王都で祭典がある時は城でもなんらかの式典が開かれているので、王都でお祭り気分を味わうのは初めてなのです。
いつも多くの人々が行き交っている王都ですが、祝賀式典期間中は各地からも観光客が集まってとても賑やかになっていました。
大通りも建物も華やかに飾られて、街のあちらこちらでちょっとした催しが開かれています。まさに王都全体がお祭り状態なのです。
「ハウスト、連れてきてくれてありがとうございます」
私は隣のハウストの腕にそっと手をかけました。
左手をハウストの腕にかけて、右手はクロードと手を繋ぎます。
「たまにはこういうのも悪くない」
「そうですね、こういう時に家族で出かけられるなんて滅多にありませんから」
私はそう答えましたが、すれ違う人の中にはこちらに気づいてびっくりした顔になる者もいました。でも慌てて笑顔になって控えめにお辞儀してくれました。
そう、気づかれます。
私たちめちゃくちゃ気づかれています。
街ではハウストとイスラとゼロスは魔力を抑えていますが、それでもこの顔ぶれに気づかれないはずがありません。私はヴェールを被って顔を隠していますが、あまり意味をなしていませんね……。
でも大きな騒ぎになっていないのは、イスラやゼロスが普段から王都や魔界各地に遊びに行ったり、ハウストと私もデートと称して出歩いているからですね。フェリクトールは相変わらずいい顔をしませんが、王都の人々のほうが私たちが出歩いていることに慣れてくれたようです。
「ブレイラ、見て! あっちに旅の大道芸人が来てるみたい! 見に行こうよ!」
前を歩いていたゼロスが楽しそうに私たちを振り返りました。
私たちの前をイスラとゼロスが歩いて、時折こちらを振り返っておしゃべりしてくれるのです。
そんなゼロスの発見にクロードはワクワクが膨らみます。
「にーさま、まって! わたしもみたいです!」
「ふふふ、行ってきていいですよ」
「はい!」
クロードは前にいるイスラとゼロスのところに走っていきました。
ゼロスが笑顔で迎えるとクロードを肩車してくれます。
「その高さならよく見えるでしょ?」
「はい、よくみえます!」
大道芸人のショーは私からではよく見えませんが、肩車のおかげでクロードはよく見えるようです。
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