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第一章・魔王と王妃10

「ありがとうございます。そう思ってくれているだけで充分です」 「ブレイラ……」 「あなたの神格の力は今の四界で生きている人々のためのもの。結界の強化は今の四界に必要なんですよね」  四界の王が持っている神格の力は、初代時代にレオノーラが初代王たちに与えた加護でした。それは脈々と受け継がれて結界を守り続けてきたのです。   レオノーラが四人の王を加護したのは星の杭となった自分自身を封じさせるためでした。  ならば、今回のハウストの判断は正しいことなのでしょう。初代時代のレオノーラも想定していたことなのです。  でもね、でも……。  私は王都を見つめました。そしてその先にある大海原を。  王都の先には広大な大地があって、その向こうには大海原が広がっています。  ……今もそこにいるのですね。祈り石になったレオノーラは今も星の杭として四界を守ってくれています。  私はその途方もない深海の闇に胸がつぶれそうになる。十万年という孤独に飲まれてしまいそうになる。  今もそこにいるレオノーラを思うと、必要なこととはいえ結界を強化することに抵抗を覚えてしまうのも本音です。  しかし、夜の王都に輝いている数多の灯かりを消すことはできません。現在の四界で生きている人々の営みを潰えさせるわけにはいかないのです。それを守るのは当代四界の王の役目でした。  私は大海原から王都へ視線を戻します。 「ハウスト、今日は楽しかったですね」  今日は家族で王都に出掛けることができました。  式典期間中は王都全体がお祭りのようで、家族で催しものを楽しんだり酒場に行ったり、いつもできないことができて大満足だったのですよ。 「ああ、楽しかったな」 「はい、王都の人々もとても楽しそうでした。魔族だけじゃなくて精霊族や人間の姿も多くなったような気がします」 「気がするだけじゃないぞ、実際に増えている。あらゆる分野で民間での交流が始まっているからな」 「そうですか。ではこれからもっと賑やかになりますね」  王都ではたくさんの笑顔が溢れていました。  そこには多くの人々の営みがあるのです。  それはこれからも続いていくべきもので、星の終焉だけは阻止しなければならないのです。  私はハウストと王都の夜景を眺めながら今日あったことを話します。ハウストも楽しそうに付き合ってくれます。あなた、魔界が大好きですからね。同胞の魔族を愛していますからね。  私は魔界を愛しているあなたの横顔が大好きなのですよ。ずっと見ていたいくらい。 「私たちは幸せですね。たくさんの人にお祝いしていただけました」 「ああ、お前が魔族を愛してくれたからだ。俺の民もお前を愛している」 「光栄です。これほどうれしいことはありません」 「民は最終日のパレードを楽しみにしている。お前を近くで見ることができると、そのためだけに各地から王都に来るようだ」 「嬉しいことです」  式典最終日は王都の大通りをパレードします。  公式の式典パレードなので畏まったものですが、それでも民の近くにいける大切な機会でした。 「そろそろ休むぞ。明日は早い」 「そうですね、式典の最中ですが四界の結界を強化しなければいけませんから」  そう言って私たちはバルコニーから寝所に戻ろうとしましたが。 「ハウスト、待ってください。休む前にしなければならないことがあります」 「なにかあったか?」  ハウストが不思議そうに聞いてきました。  あるのです。今夜は大事なことがまだ残っているのです。  思わず厳しい顔になった私にハウストが「面倒くさい予感がする……」と呟きました。  面倒くさいとはなにごとです。とっても大事なことなんですから。 ◆◆◆◆◆◆ 「夜店ってサイコー!」  ルンルンルン♪ ゼロスは鼻歌交じりで城への道を歩いていた。  魔界の夜空には煌々と輝く月が昇っている。  子どもは眠る時間だが十五歳のゼロスには関係なかった。なぜなら十五歳だから。十五歳はもう子どもではないのである。  式典期間中の王都は夜も賑やかなので、ゼロスはこっそり城を抜け出して夜の街へと繰り出していたのだ。  しかしそんなゼロスにイスラが平たい目を向けている。 「なにがサイコーだ。勝手について来ただけだろ」 「兄上が連れてってくれたのに?」 「もう一度言ってみろ」  ぎろりっと睨まれたゼロスは竦みあがる。 「ご、ごめんなさいでしたっ。調子に乗りました!」  即座に撤回したゼロス。  そう、ゼロスは一人で夜の街をうろうろ遊んでいたわけではない。  今夜イスラが一人で出かけようとしていたところをゼロスが発見し、「僕も行く!」と勝手についていったのだ。だからイスラと一緒である。

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