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第二章・死の褥で見る夢は1

「どうぞ」 「ああ、いただこう」  デルバートは少し物珍しげに紅茶を見ると、ティーカップの取っ手をつまんでゆっくり飲みました。  私は少し緊張して見つめてしまう。 「いかがですか?」 「……やはり俺の時代で飲んだものより味が洗練されているな」 「お気に召したようで良かったです。安心しました」  ほっと息をつきました。  私が時空転移した時にも茶葉を持っていったので初代時代でも現在の紅茶を楽しんでいただけましたが、それでもこちらで淹れたほうが美味しく入るのは間違いないです。  私は落ち着いた所作で紅茶を飲むデルバートの姿に目を細めました。  デルバートが私たちと同じように飲食をすることも、体が実物で透けていないことにも安心します。  でもそれって十万年前に死没した初代魔王デルバートが本当に蘇ったということなんですよね。  これが異常事態だということはもちろん分かっているんですが、不思議ですね、懐かしさもあるのですよ。  しかしそんな気持ちでいるのはここでハウストとイスラと私くらいでした。  ゼロスは興味津々でデルバートを見ています。 「ねえ兄上、あの人なんか父上に似てるって思わない? 前もあんな感じだった?」 「前からあんな感じだ」 「死んでる間も?」 「死んでるんだから尚更だろ」 「十万年間も死んでるのに?」 「死んだら時間は止まるもんだろ」 「そっか」  ゼロスがイスラにこそこそ話しかけてました。  ゼロスの場合は懐かしさというより好奇心でしょうか。時空転移した時のゼロスはまだ三歳だったので記憶はおぼろげなのでしょうね。断片的には覚えているようですが、私たちのようにはっきり覚えているわけではありません。  そして当時まだ赤ちゃんだったクロードはというと……。 「ブレイラ、お、おお、おおおばけです。あれっておばけってことですよねっ……」  私の腰にぎゅっとしがみついてました。  興奮と緊張でおそるおそるデルバートを見ています。完全にお化けだと思ってます。 「落ち着いてください、クロード。あなたも会ったことがあるんですよ」 「でもわたし、おぼえてないです……」 「ふふふ。そうですね、あなたは赤ちゃんでしたから」  私はクロードを腰に引っ付かせたままハウストの隣に座りました。  今、魔界の城の広間にはデルバートとハウストと私とイスラとゼロスとクロード。他にもフェルベオとフェリクトールがいました。  地下神殿で初代魔王デルバートが蘇り、彼の力が合わさったことで熱反応の上昇を停止させることができたのです。ですがデルバートが言うには、この停止も一時的なものということでした。  デルバートに深海の熱反応について聞きたいけれど、まず聞かなければならないことがあります。 「説明しろ。どうしてお前が蘇った」  ハウストが聞きました。  その質問はここにいる誰もが疑問に思っていることでしょう。  みなの視線がデルバートに集中します。  あの結界強化の魔法陣を発動した時、当代四界の王だけではレオノーラを封じることはできませんでした。デルバートが蘇って力を貸してくれたことでようやく一時的に封じることができたのです。  しかし、地下神殿にいた者たちは初代魔王デルバートが蘇ったことに驚愕しました。死者が蘇るなど奇跡、あり得ないことなのです。  現在、デルバートの存在は四界の最重要機密となりました。  もし初代魔王が蘇ったことを知られれば世界中に大混乱が起きるでしょうから。デルバートも『魔界の混乱は本意じゃない』と内密にすることに了承してくれたのです。  デルバートは「これは俺の推測にすぎないが」と前置きして答えてくれます。 「俺が蘇ったのは二つの条件が重なったからだと思われる。一つはレオノーラだ。今この世界全域にレオノーラの力が波紋のように広がっている。それはお前たちも自覚があるだろう」 「残念ながら否定できませんね……」  現在、四界各地で不可思議な現象が起きていました。それは災厄ともいえるものです。  原因は海底から上昇してきた熱反応。そう、熱反応はレオノーラであると。 「そして二つ目は四界の王の力が揃ったことに意味があるだろう。魔王の玉座の真下、あの場所で」 「そういうことか……」  ハウストが納得したように頷きました。フェルベオとイスラも同意のようですね。  デルバートが蘇ったのは、レオノーラが復活の兆しをみせたことと、あの地下神殿で四界の王の力が合わさったことが原因のようでした。  デルバートが蘇ったのも、結界の礎として葬られた四界の王だから蘇ることが可能だったということです。初代王の四人はレオノーラから直接加護を受けた特別な王たちですから。  デルバートは淡々と続けます。 「今は一時的にレオノーラを停止させたが時間の問題で上昇を開始するだろう。お前たちと俺の力をもってしても、祈り石になったレオノーラを完全に止めることは難しい。だがお前たちの力に初代王四人の力も合わされば、あるいは……」  驚愕しました。  それは他の初代王も蘇らせるということなのです。 「死者を蘇らせる……。そ、そんなことが許されるのですかっ……?」 「許される? なにに許されるつもりだ」  デルバートが私を見つめて問うてきます。 「レオノーラが完全に復活すれば星は終焉を迎える。終焉する世界でなにに許されるつもりだ」 「デルバート様……。……そうですね、そのとおりです」  未来はないと、そういうことでした。  許されないという倫理的概念は世界に秩序があるから発生するものなのです。 「初代勇者イスラ、初代精霊王リースベット様、幻想王オルクヘルム様、この三人の初代王を蘇らせるのですね」 「ああ、レオノーラを完全に止めるためには必要なことだ」 「そうですね……」  室内に重苦しい沈黙が落ちました。  ハウストとイスラとゼロスとフェルベオも沈黙したままです。それしかレオノーラ復活を阻止する方法がないのでしょう。  私の視線も落ちましたが、くいくい。ふとローブの裾を引っ張られました。クロードです。

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