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第二章・死の褥で見る夢は8

「ふふふ、そうですね。みなさんの歓声にたくさん応えてくださいね」 「もちろん。みんな、ありがとー! 僕もみんなのこと大好きだよー!!」  ゼロスが大きく手を振って歓声に応えました。  笑顔のゼロスにまた一段と大きな歓声があがります。  私は思わず笑ってしまいそうになりますが、並列で進んでいたイスラが呆れた顔になりました。 「ブレイラ、あまり調子に乗らせるな」 「ごめんなさい。でも、みなさんが喜んでくれて私も嬉しくなってしまって。あなたもしっかり歓声に応えてくださいね」 「ああ、わかってる」 「ええ、兄上ほんと分かってる? さっきから真顔で怖いんだけど」 「お前こそはしゃぎすぎだ。このパレードは遊びじゃないんだぞ」 「分かってるけど、好きって言われたら嬉しいじゃん」  私を挟んでイスラとゼロスが言い合います。  それは兄弟の他愛ない軽口なのですが、……前から圧を感じます。それはもちろんハウスト。二人の声は民衆に聞こえていなくても、前にいるハウストには届いているのでしょう。 「ほらほら、今はパレード中ですよ」 「……悪い。だがゼロス、最後に訂正していけ。俺は真顔じゃない。この歓声に応えるための微笑だ」 「……はい、微笑でした」  ゼロスが青ざめて訂正します。  どうやら一瞬ぎろりと睨まれたようですね。  私は苦笑して空を見上げました。  今日はとてもよい天気です。空は雲一つない晴天で、暖かな陽ざしに地上が明るく輝いているよう。 「今日はパレード日和ですね」  胸の前のクロードに話しかけると笑顔で振り返ってくれます。 「はい、とってもたのしいです。ごせんぞさまもくればよかったのに……」 「そうですね。来ていただけると良かったんですが」  今の魔界の礎はデルバートが築いたものです。  現在を生きている魔族は初代時代から現在に繋がった命の系譜。それはデルバートが繋いでくれたもの。それを近くで見てほしかったのです。きっとデルバート様も喜んでくれるはずで……。 「ん?」  ふと風が吹きました。  今日の輝くような天気とは不似合いなぬるい風。  その時、集まっていた民衆が空を指さしてざわつきだします。 「……おい、あれはなんだ」 「なんだあれ……。小さな丸い球?」 「きれい。ちっちゃな炎みたい」  聞こえて来た声に私もそちらを振り返って、そして。 「あ、あれはっ!!」  驚愕に目を見開きました。  だってそこにあったのは初代時代に幾度か目にしていた巨人の球体だったのです。 「ハウスト、巨人の球体です! 炎の巨人!!」  ――――ピカリッ!!  瞬間、まばゆい光とともに球体が変化しました。  凄まじい衝撃波。刹那、ハウストとイスラとゼロスが反応します。 「イスラ! ゼロス!」 「ああ! ゼロス、いくぞ!!」 「任せてっ!!」  即座にハウストとイスラとゼロスが防壁魔法を発動し、応戦に向かいました。  三人の四界の王によって強力な防壁が瞬時に張られ、周囲一帯の破壊が免れます。 「ブレイラ様、ご無事ですか!!」  コレットがすぐに駆け付けてきました。  私はクロードを抱きしめて周囲を見回します。ここにはたくさんの民衆が集まっていました。 「ここはハウストの防壁内、私は大丈夫です! それより皆はっ……」 「ご安心ください。魔王様と勇者様と冥王様の大規模防壁魔法が瞬時に張られたおかげで多数の者が守られました。現在防壁は魔法部隊に移行し、警備兵団の誘導で民衆の避難が始まりました」 「そうですか……」  周囲一帯を吹き飛ばすほどの衝撃波でしたが、ここに四界の王が三人揃っていたことが幸いしました。前触れのない爆発的な第一波はハウストたちが防いでくれたのです。 「な、なんだあれはっ。逃げろ!!」 「キャーーー!! いきなり炎の怪物が!!」 「ああっ、王都に火がっ……!」 「早く逃げろーー!!」 「騒ぐな! 避難経路はこっちだ!!」  警備兵団が誘導していますが、王都は逃げ惑う人々で混乱しています。  避難経路に人々が殺到してあちらこちらで悲鳴や怒号があがっていました。  ドオオオオォォォォン!!!! 大きな爆発がしました。  巨人の周りには炎の柱がいくつも立ち上がり、ハウストたちを薙ぎ払おうと攻撃しています。  しかしイスラとゼロスも素早い動きで翻弄し、ハウストが攻撃魔法で反撃していました。  でも三人は反撃や防戦しかできません。四界の王が巨人を圧倒するほどの力を出せば王都ごと破壊してしまいます。まだ多くの民衆が逃げていて攻撃できないのです。 「早くここから離れなければハウストたちが全力で戦えません」 「ブレイラ様とクロード様を早く安全な場所へ! 転移魔法で早くっ……!」  コレットは女官に命じました。  女官が転移魔法陣を発動しようとしたけれど。 「待ってください!!」  咄嗟に制止しました。  コレットが「ブレイラ様!? 早くしなければっ……」と焦った顔で振り返ります。  守ってくれてありがとうございます。でも私一人で先に安全な場所へ避難することはできません。だって。 「キャアアアア!! だ、誰かっ……!」 「押すなっ! お前は別の場所から逃げろ!!」 「ママ、どこにいるのーー!!」 「どけっ、邪魔だ!!」  飛び交う怒号と悲鳴。  警備兵が誘導するけれど、誰もが混乱して我先にと逃げようとしているのです。このままでは逃げ遅れる人も出てくるでしょう。

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