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第二章・死の褥で見る夢は10

「戦闘配置につけ! ブレイラ様を必ずお守りしろ!!」  コレットの命令に護衛兵団と女官たちも戦闘態勢になります。  闇色の沼からオークや巨大蜘蛛が姿を現しました。  すぐに兵士や女官が撃退してくれますが、怪物は次から次に出現します。  私は炎の巨人を見上げました。  ハウストとイスラとゼロスが巨人を追い詰めていますが、まだ民衆の避難が終わっていないので防戦しています。王都を守りながら戦っているのです。  この巨人の脅威に胸騒ぎを覚えました。  だって異形の怪物はまるで巨人が呼んだようだったのです。巨人の雄叫びで召喚されたような……。  異形の怪物は初代時代にゲオルクが祈り石を作る途中で生まれた副産物で、巨人とは関係なかったはずなのです。  それなのに、『巨人』『異形の怪物』『祈り石』この三つの関係性が結ばれたなら、そこにあるのはレオノーラの存在……。  考えたくない繋がりに私は首を横に振りました。今は逃げることを最優先にする時。  コレットが目の前のオークを切り伏せると私を振り返ります。 「ブレイラ様、怪物どもの隙を作りますので、その隙をついて馬を走らせます! 私の先導についてきてください!」 「お願いしますっ……」 「はっ、必ずお守りします!」  女官がコレットの馬を引いてきました。  コレットはひらりと馬に跨って手綱を引きました。  そして魔力を集中して一気に解き放つ。次の瞬間、周囲に閃光が走ります。  強烈な閃光にオークや巨大蜘蛛が怯む。コレットはその隙を見逃しません。 「ブレイラ様、今です!!」 「はいっ! クロード、馬から振り落とされないようにぎゅっとしてください!!」 「は、はい!」  クロードが慌てて馬の首にぎゅっとしがみつきました。  私は手綱を引いて一気に駆けだす。  眩しい閃光のなか、コレットの背中だけを見つめて走りました。  オークの群れを突破して大通りを駆け抜けます。  このまま逃げ切れるかと思った時。  キエエエエエエエエエ!!!!  頭上から甲高い鳴き声がしました。  辺りが影に覆われてハッとして頭上を見る。 「そんなっ、クロード……!!」  大型の怪鳥が私に向かって突っ込んできます。  逃げる間もなくクロードを抱きしめました。せめてクロードだけでも守らなければ。  怪鳥の鋭い口ばしが私を襲う寸前。  ガキイイイイィィィン!!!!  怪鳥の巨体が薙ぎ払われました。  ハッとして顔を上げると、そこにいたのはデルバート。 「デルバート様、ありがとうございます! 来てくださったんですね!」 「ごせんぞさま!!」  クロードの顔がパァッと輝きました。  そこには大剣を握ったデルバートがいたのです。  怪鳥に襲われる寸前でデルバートが助けてくれました。  デルバートは王都に出現した怪物と対峙したまま私たちを一瞥します。 「さっさと行け。あれと同じ顔でなければ死んでいたぞ」 「いじわるですねと言いたいですが、冗談には聞こえませんね」 「冗談じゃないからな」 「そういうところ初代時代で初めてお会いした時のままですね」 『あれと同じ顔』それはレオノーラのことですね。  初代時代でデルバートに初めて会った時から彼の最愛はレオノーラただ一人。私の容姿はレオノーラとよく似ているのです。初代時代でもデルバートは私の顔だけは気に入ってくれていました。 「当たり前だ。俺は死んで蘇ったとしてもなに一つ変わらない。さっさと行け」 「分かりました。あとはお願いします」  私は馬の手綱を握りなおしました。  デルバートが異形の怪物を次々に切り伏せていき、魔力を発動して周囲一帯の怪物を一掃しました。  こうしてデルバートが参戦したことで民衆の避難が早まり、ハウストとイスラとゼロスも巨人との戦闘に集中できます。  人智を超えた力を持っている炎の巨人ですが、三人の四界の王に徐々に追い込まれているようでした。  手を繋いでいるクロードが興奮した声をあげます。 「ブレイラ、ちちうえたちがきょじんをやっつけます!」 「そうですね。巨人の動きも鈍くなっているようです」  このまま炎の巨人が討伐されると思われました。  でもまだ討伐したわけではありません。私はクロードを連れて逃げようとしましたが。 「――――ブレイラ、逃げろ!!!!」  背後からハウストの大きな声が聞こえました。  ハッとして振り返ると、追い詰められていたはずの巨人が猛烈な勢いで接近していたのです。  ドスドスドスドスドスドスドスドス!!!!  激しい地鳴りと震動。接近はあっという間でした。巨人の巨大な手が私へと伸びてきて逃げる間もない。  巨人の巨大な手が私を掴もうとして、そして。 「――――え、消えた……?」  掴まれる寸前、炎の巨人がふっと消えました。  王都の空を覆うほどの巨人が一瞬にして消えたのです。

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