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第三章・初代王の夢と目覚め1
精霊界、玉座の真下の地下神殿。
地下神殿の祭壇の下には棺があり、そこには一人の女性が横たわっていました。
女性が永い眠りから目覚めます。
「まさかこんな形で叩き起こされるとは……」
そう言ってゆっくり身を起こしたのはリースベット。そう、初代精霊王でした。
あの炎の巨人が魔界に出現した日から三日後。魔王ハウストと勇者イスラと冥王ゼロスは精霊界に赴いて、精霊王フェルベオとともにリースベットを蘇らせたのです。
もちろん私とクロードとデルバートも一緒に精霊界に来ていました。
当代精霊王フェルベオが恭しく棺の前で跪きました。
「初めまして、初代様。僕は当代精霊王フェルベオと申します。お会いできて光栄の極み」
「なるほど、そなたが当代精霊王。われの子孫か」
「はい、ご先祖様の精霊界を引き継いだ者です」
フェルベオが優雅に手を差し出すと、リースベットが手を重ねて棺から出てきました。
リースベットは初代時代で出会った時と変わらぬ姿。初代四界の王はレオノーラが海に沈んだ三年後に逝去しました。世界を四つに区切るほどの強力な結界を張ったことから力を使い果たしたことが理由でした。
フェルベオは歴史書でしか知る術のなかった初代王の姿に感嘆しています。
「お会いできた喜びは言葉に尽くせません。どうぞ現在の精霊界でごゆるりとお過ごしください」
「ああ、ぜひ十万年後の世界を堪能させてもらおう。ごゆるりと、というのは事態が許さんかもしれんがな」
そう言ってリースベットは険しい顔をしました。
自分が十万年後に蘇った意味を察しているのです。
リースベットは次にハウスト、私、イスラ、ゼロス、クロードを見ました。
「久しぶりじゃな。十万年振りか」
「お久しぶりです。このような形ですが、こうしてまたお会いできましたことを嬉しく思っています」
「ああ、われもじゃ」
リースベットはそう言うとイスラとゼロスとクロードを見ました。
三人の姿に面白そうな顔になります。
「あのガキどもがこんなに育ったか」
「久しぶりだな。お前は変わらずか」
イスラが太々しい口調で答えました。
出会った時のイスラは十五歳だったので初代時代のことはよく覚えているのです。
「当たり前じゃ。われは死んでおった。太々しい子どもだと思っていたが、そのまま太々しい大人になったようじゃな」
リースベットはそう言ってニヤリと笑うと次はゼロスを見ました。
ゼロスは目を丸めて見つめ返します。
「この人が初代精霊王のリースベット?」
「覚えておるか?」
「うーん、薄っすら? ごめんね、僕まだ三歳だったから」
「構わん。そなたに貰った手土産うまかったぞ」
「あ、それならちょっと覚えてるよ。僕のお土産おいしかったでしょ? あれ僕のお気に入りだったから」
ゼロスが思い出しながら言いました。
初代時代での私たちは洞窟を家代わりにして生活していました。そこに初代王の方々が滞在した時にゼロスとクロードがお菓子とどんぐりの手土産を用意していたのです。当時のゼロスはまだ三歳でしたがそれは覚えていたようですね。
続いてリースベットはクロードを見ました。
手を繋いでいたクロードが私の足にくっついて困惑したようにリースベットを見上げています。当時のクロードは赤ちゃんだったのでほとんど覚えていないのです。
そんなクロードを面白がるようにリースベットがニヤリと笑いました。
「この子どもがあの時の赤ん坊か」
「はい、もう五歳になりました。クロード、ご挨拶してください」
「は、はい。クロードです。よろしくおねがいしますっ……」
クロードがぺこりと頭を下げました。上手にご挨拶できましたね。
次にリースベットは当代魔王ハウストと私を見てからかってきます。
「十万年ぶりじゃが、そなたらが魔王と王妃として並んでいると妙な気分になるな。十万年前も愉快に思ったが、見せつけるために起こしたのか?」
「好きで初代王を起こしたわけじゃない。お前たちは棺とともに朽ちるべきだった」
「棺が朽ちる前に世界がもたなかったということか。いずれこうなるとは思っていたが、そなたらの時代に限界を迎えるとは皮肉なものじゃ」
リースベットは私とハウストを見つめて続けます。
「この時代の者たちはついておらんな。これが百年でもずれておれば、こんな終焉の脅威を知らずにいられたというのに。哀れに思うぞ」
「リースベット様……」
困惑をこめて見つめるとリースベットが苦笑しました。
そしてぽんっと私の肩に手を置きます。
「そんな顔をするな。われがここに蘇らされた理由も察しておる。われも自分が礎となった世界の終焉を黙って見ていようとは思わない」
「ありがとうございます」
私は深々と頭を下げました。
リースベットは最後にデルバートを見ました。二人は十万年ぶりの再会です。
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